第46話 ――一つの使命と、一つの願い
吸血鬼たちがエドリックと行動を共にしている頃、ミハルはドレイヴェンホールドの東門で待っていた。
彼女は行ったり来たりしながら、考え込んでいた。
はぁ……。もうとっくに松田蓮を見つけていてもおかしくないのに。リシアが教えてくれた座標、間違ってたのかな?
しばらくして、ミハルは門の外にある岩へ腰を下ろした。
片肘を脚に乗せ、手のひらに顎を預けると、小さくため息をつく。
そして空を見上げた。
数羽の鳥が、楽しそうに鳴きながら空を飛んでいる。
ミハルはわずかに微笑んだ。
その時――。
頭の中に、どこか懐かしい感覚が生まれた。
あ……こんな時に?
頭の中に声が響く。
――ミィ……ハ……ル……
ミハルはわずかに目を見開いた。
この声……ライサ?
ミハルはその場で胡坐をかくように座り、ゆっくりと何度か深呼吸をした。
そして数秒後、目を閉じる。
ライサ?
再び目を開けると――。
ミハルはテーブルの前に座っていた。
彼女は周囲を見回す。
そこには大勢の人々が歩き回っており、あちこちから様々な話し声が聞こえていた。
ミハルが正面を見ると、テーブルの向かい側にライサが座っていた。
その隣には、白い髪と青い瞳を持つ男がいる。
ミハルはテーブルの上へ視線を落とした。
目の前には料理が乗った皿が置かれている。
「ライサ……。あなた、時々本当にすごいことするわね。ここ、どこなの?」
ライサは笑った。
「やっほー、ミハル。ここはショッピングモールのフードコートだよ」
ミハルは困惑しながら周囲を見回した。
「……私が何も理解できてないって分かってる?」
ライサは何食わぬ顔でハンバーガーを手に取り、食べ始めた。
すると、彼女の隣に座っていた男が口を開く。
「こんにちは。君がミハルだね?」
ミハルは男を見る。
「あなたは誰? それに、どうしてライサと一緒にいるの?」
男は答えた。
「俺の名前はカエル。ヒョーレン・カエルだ」
ミハルは少し微笑んだ。
「ああ……あなたもヒョーレンなの?」
カエルも笑う。
「へえ。そうだ」
ミハルは少し嬉しそうに言った。
「私は『旅人』の一員なの。あなたは?」
カエルは少し眉をひそめた。
「『旅人』?」
ミハルは頷く。
「そう。何千年も前に、ヒョーレン族は二つの集団に分かれたの。別の場所へ旅立った者たちは、後に**『旅人』**と呼ばれるようになった」
カエルはしばらく黙っていた。
「そして、残った者たちは……」
ミハルが言葉を続ける。
「**『原初の民』**と呼ばれるようになったの」
カエルは話し始めた。
「俺は、ルメリオンの『氷山の村』で生まれた」
ミハルは一瞬、黙り込んだ。
「ああ……一族の故郷ね。何が起きたのかは聞いてる……。ごめんなさい」
カエルがミハルを見る。
「虐殺のことを知っているのか?」
「うん。少し前にライサから聞いたの」
その瞬間、ライサがむせた。
「ゴホッ、ゴホッ! い、いや、カエルが何者なのか知っておいたほうがいいと思って話しただけだから! ごめん、カエル!」
カエルはため息をついた。
「まあ……もうこういう無茶苦茶には慣れたけどな」
ミハルは再びライサへ視線を向けた。
「ねえ、ライサ。どうしてあなたは、頭の中だけでこんな空間を自然に作れるの?」
ライサは肩をすくめる。
「うーん……実は、こういう場所はたくさん存在してるんだよ。地球のダイモンが時々見せてくれるの。たぶん、それで私もいろいろ想像するようになったんじゃないかな」
ミハルはもう一度、周囲を見回した。
「地球の人たちは、ここに来て食事をするの? それと……この皿にあるものは何?」
ライサは皿を指差した。
「これはハンバーガー。ほら、食べてみて」
ミハルはライサを見る。
「でも、これ本物じゃないんでしょ? それに、どうして私を呼んだの? 何か重要なことがあったの?」
ライサはもう一口ハンバーガーを食べる。
「本物じゃなくても、感覚はほとんど本物と同じなんだよ!」
ミハルは数秒間、ライサをじっと見つめた。
すると、カエルが話を切り出した。
「実はな、重要なことが分かった。マルデクのダイモンの欠片が見つかったんだ」
ミハルは眉をひそめる。
「マルデク? それってどんなダイモンなの?」
ライサが答える。
「うーん……私とは違って、マルデクは惑星そのものが進化に失敗したことで、バラバラになったの」
ミハルは目を見開く。
「ば、バラバラに……? そんなことができるの?」
ライサの表情が真剣になる。
「実際、それは最悪のことだよ。私はザラスのせいで弱体化したけど……自分の惑星そのものが砕けるなんて、どれほど辛かったのか想像もできない」
ミハルは考え込む。
「それで……その一部がルメリオンにあるの?」
カエルが頷いた。
「ああ。何人かの優秀なオリス使いが、それをオリスで作った隔離室の中に封じ込めた。そして今、それが『色欲の大陸』で行われる大会の賞品になっている」
ミハルは片眉を上げる。
「へえ……。その大陸の名前、かなり下品ね。どうしてそんな名前なのかは聞きたくもないわ」
彼女は少し黙った。
「それで? あなたたちはどうするつもりなの? それと、私はどう関係してくるの?」
ライサの表情が真剣になる。
「数日前、ほんの少しだけマルデクと接触することができたの。あいつは……混乱しているように見えた。ほんの一瞬だったけどね」
ミハルはハンバーガーを手に取り、一口かじった。
ライサは続ける。
「その瞬間から、マルデクのオリスを感じ取れるようになった。そして、何も存在しない空間に、あいつの存在を感じたの」
ミハルはハンバーガーを咀嚼しながら、それを見つめる。
「この……ハンバーガー……。これが本当に地球の味なら、かなり美味しいわね」
そして再びライサを見る。
「でも、何もない場所なんてどういうこと?」
カエルが答える。
「ライサがもう少し深く探ったんだ。その空間を精神投影の中で彷徨っていたら、お前がいる世界を見つけた」
ミハルの手が止まった。
ハンバーガーが、ゆっくりと手から落ちる。
「じゃあ……本当に……」
ライサは視線を落とした。
「私も……信じたくなかった」
ミハルは両手で顔を覆った。
その周囲では、ショッピングモールを歩く人々の様々な声が変わらず響いている。
カエルはミハルを見る。
「ミハル。お前は一人じゃない」
ミハルは小さく息を吐いた。
その脳裏に、テッサとエドリックの姿が浮かぶ。
そして答えた。
「……そうね」
ライサが優しく言う。
「今は、自分が絆を築いた人たちのことを考えて」
ミハルは再びハンバーガーを手に取り、食べ始めた。
カエルが彼女を見つめる。
「ん……大丈夫か?」
ミハルはもう一口かじる。
「少なくとも、美味しいものは食べられてる。もう何を考えればいいのか分からないわ」
ライサが微笑む。
「また話したくなったら、いつでも連絡して。私のオリスの使い方は分かってるでしょ?」
するとカエルが尋ねた。
「お前は、あの世界に来る前はどこにいたんだ?」
ミハルは食べ終えてから答えた。
「最初は分からなかった。でも、オリスを少しずつ取り戻していくうちに……自分が地球から来たことを知ったの」
ライサがわずかに目を見開く。
「地球? じゃあ、あなたも地球のダイモンと繋がれるの?」
ミハルは首を横に振った。
「ううん。あの世界で偶然オリスの操り方を見つけただけ。それと同時に、自分自身の過去も知ることになったの」
カエルはライサを見る。
ライサがその視線に気づいた。
「どうしたの、カエル?」
カエルは目を細める。
「……誰かが近くにいる気がする」
ライサは周囲を見回した。
「ここに?」
カエルは首を横に振る。
「この想像の世界じゃない。ルメリオンにいる」
ライサは少し考えた。
「ああ……アエリじゃないかな」
カエルは困ったように顔を伏せる。
「……違うと思うが」
ミハルが口を開く。
「ねえ、ちょっと変じゃない?」
カエルとライサがミハルを見る。
ミハルは続けた。
「あなたほどのダイモンであるライサが、どうして本物の世界みたいなものを作れるの?」
彼女は周囲を指差す。
「あなたは精神次元の投影の中に、こういう場所を作れる。でも、ルミナリアは……どうして本物の世界を作れたの?」
ライサが答える。
「えっと……本来なら、そんなことはできないはずなんだよ。そんなことができるのは、銀河級ダイモンだけだから」
ミハルは目を細める。
「あなたたちには階級があるの?」
カエルも驚いたような表情を浮かべた。
「俺も初めて聞いた。ライサ、もう少し詳しく教えてくれないか?」
ライサは冷や汗をかきながら、少しだけ舌を出した。
「えへへ……ごめん。いろいろありすぎて……」
そしてため息をつく。
「分かったよ。銀河級ダイモンは、物理次元に惑星を創り出すことができる。でも、私が知る限り、好きな時に自由に作れるわけじゃない」
ミハルは考え込む。
「じゃあ、ルミナリアはその銀河級ダイモンなの?」
ライサは首を横に振った。
「違う。絶対に違うよ」
ライサの表情が真剣になる。
「彼女の背後には誰かがいる。そして、その誰かはものすごく巧妙に身を隠してる。今の私が弱体化しているとはいえ、それでも本来なら見つけられるはずなんだけど……」
ミハルは腕を組んだ。
「ふーん……。じゃあ、マルデクのダイモンだけじゃなくて、それも調べてみようかな……」
突然、ミハルは両手をテーブルに叩きつけて立ち上がった。
周囲を歩いていた人々が一斉に足を止め、ミハルを見つめる。
ミハルは目を見開いた。
「も、もしかして……マルデクの別の欠片が、松田蓮の中にあるんじゃない? だから、あの変なエネルギーが……!」
ライサも立ち上がる。
「ミハル!」
ミハルは小さく笑った。
するとライサはナプキンを取り、ミハルの口元を拭った。
「口の周り、汚れてるよ」
ミハルはすぐに身を引いた。
「わ、私は子供じゃないんだから!」
ライサは少し顔を赤くする。
「ご、ごめん。えへへ」
そして続けた。
「そういえば……その松田蓮って人、私と似たエネルギーを持ってるって言ってたよね……」
ライサは周囲を見回した。
「……何見てるの? ほら、歩いて歩いて」
カエルがライサを見る。
「お前、こいつらがお前の想像の産物だってこと忘れてないか?」
ライサは座り直して腕を組む。
「いいから、本物だと思って振る舞ってよ!」
ミハルはカエルを見る。
「カエル、よく毎日この子と一緒にいられるわね。ライサって、あなたの中にいるんでしょ?」
カエルは頷いた。
「ああ。ライサは……ヒョーレン族の先代守護者から俺に受け継がれた。もう慣れたよ」
ライサは驚いた顔をする。
「えっ……。じゃあ、私とずっと一緒にいるのって、そんなに嫌なの?」
カエルは冷や汗を流す。
「ち、違う、ライサ。そういう意味じゃない。えっと……お前は時々、激しいというか……」
ライサは首を傾げる。
「激しいって、どういう意味? オリスの二十の型の修行だって手伝ってあげてるじゃん」
カエルは気まずそうにする。
「第七の型を、エプロン一枚だけで修行させる必要があったのか?」
ミハルとライサは同時に顔を赤くした。
ライサは目を見開く。
「そ、それは言わなくていいでしょ!」
ミハルは小さく笑う。
「それ、本当なの? ふふ……本気で?」
ライサはさらに顔を赤くする。
「きょ、今日はここまで! また今度ね!」
カエルはため息をついた。
「分かった。……悪かったな、余計なことまで言って」
ミハルは笑いながら首を横に振る。
「ダイモンにも、こんな一面があるなんて知らなかったわ」
ライサは再び真剣な表情に戻る。
「とにかく、私たちはその賞品を手に入れて、こっち側にあるマルデクのオリスを取り戻す」
そしてミハルを見る。
「あなたは、向こう側にいるダイモンを探して。もし二つを再び一つにできれば、リゲルのダイモンにも対処できるかもしれない」
ライサは一瞬言葉を止めた。
「えっと……あなたと一緒にいる、あの女神ルミナリアのことね」
ミハルは頷く。
「リゲルについては、また後で詳しく教えて。あなた、さっき口にしちゃったしね。でも大丈夫。きっと何とかなるわ」
そしてカエルを見る。
「カエル、オリスの型はどこまで進んだの?」
カエルは答える。
「肉体型が第八、精神型が第六だ」
ミハルは微笑む。
「まだまだ先は長いわね。私も全部を極めたわけじゃないけど……一緒に頑張りましょう」
ミハルは握手を求めて手を差し出した。
カエルも手を伸ばす。
「会えてよかった」
ミハルは彼の手を握った。
「もし……私が考えている通りの結末になるのなら……ルミナリアを倒した後、私は必要なくなるのかもしれない」
ライサはすぐに答えた。
「私があなたを守る。約束するよ!」
ミハルはわずかに笑った。
「はいはい……ふふ。じゃあ、やりましょう」
ライサが片手を上げる。
パチンッ!
指を鳴らした。
その瞬間、ミハルの視界が消えた。
ミハルが目を開ける。
彼女は再び、ドレイヴェンホールド東門の外にある岩の上に座っていた。
ゆっくりと立ち上がる。
変な話だったな……
数秒後、ふと一つの記憶が頭に浮かんだ。
あのハンバーガー……
ミハルは空を見上げる。
宿屋で似たようなの作れるかも……
数秒間、黙り込む。
そして目を見開いた。
「って、私は何を考えてるのよ!? もっと重要なことがあるでしょう!」
ミハルはそのままライオンズギルドへ向かって走り出した。
受付に到着すると、すぐに尋ねる。
「リシアはどこ?」
受付嬢が答える。
「えっと……ギルドマスターと話をしています。しばらく待ってもらわないと……」
ミハルはため息をつき、椅子に座った。
そして両手で顔を覆う。
「松田蓮を見つけなきゃ……」
一方、エラリオンへの道中
最後の補給所で食料や物資を補充した後、蓮たちは再びドラクサールの辺境へと入っていた。
ミコネコは周囲を見回し、ため息をつく。
「うわぁ……なんだか、すごく長い旅に出てる気分。へへ」
一行の先頭を歩くアウェレンが言った。
「もうすぐエラリオン王国に入ります。みなさん、気を引き締めてください」
ライセラは少し首を傾げる。
「でも、エルフって優しいんじゃないの?」
アウェレンは真剣な表情で彼女を見る。
「自分たちの領域を大切にしているし、外から来た者をあまり歓迎しません。特に……あなたのような魔族は」
ライセラはため息をついた。
「そんな言い方しなくてもいいじゃない。でも分かったわ。何か隠れるものを探すことにする」
「危険があるかもしれないから、念のため言っているだけです」
ライセラは少し納得のいかない顔をしながら、窓の外を眺めた。
そのすぐ後ろでは、ガリックが蓮の隣に座り、冷や汗を流していた。
蓮が彼の様子に気づく。
「おい……大丈夫か?」
ガリックはすぐに答えた。
「だ、大丈夫だ……」
蓮は再び前を見る。
数秒後、ガリックが声をかけた。
「蓮」
蓮が彼を見る。
「ん? どうした?」
ガリックは少し迷った後、口を開いた。
「お前は……誰かを好きになったことはあるか?」
蓮は数秒考える。
「ああ……あるよ。昔、彼女がいた」
ガリックはわずかに目を細める。
「いた……?」
そして何かを思い出したように言う。
「ああ……そうか。お前は別の世界で死んだんだったな。忘れていた」
蓮は落ち着いた様子で答える。
「俺たちは死ぬよりずっと前に別れてたから、気にしなくていい。それより、なんでそんなこと聞くんだ?」
ガリックは頭を少しかく。
「いや……俺も、誰かを好きになったのかもしれない。自分でもよく分からないんだ……」
蓮は彼を見る。
「へえ、本当に? お前っていつも真面目だから、そんな風には――」
蓮は途中で言葉を止めた。
ガリックが冷や汗を流しながら、前を歩いているエルフを見つめていたからだ。
……待てよ。
こいつ、アウェレンのことが好きなのか?
蓮はガリックに少し近づき、小声で尋ねる。
「お前……アウェレンのこと好きなのか?」
ガリックが小さく飛び跳ねる。
「な、何ぃ!?」
全員が一斉に彼を見る。
ガリックはさらに大量の汗をかき始めた。
「な、何でもない! 蓮が俺のいた世界の話をしてただけだ! さあ、先に進もう!」
馬車を操っていたアウェレンは、その言葉を聞いて眉をひそめる。
「……別の世界?」
ガリックは頭を抱え、黙り込んだ。
あ……そうだった! アウェレンはまだ知らないんだった……
アウェレンは前方から横目で蓮を見る。
「あなたは、どうやって別の世界から来たのですか?」
蓮は気まずそうにする。
「えっと……それは……」
その状況に気づいたライセラが、すぐに割って入った。
「私の婚約者をジロジロ見ないで、エルフ。あなたも自分の相手を探しなさい!」
アウェレンは目を見開く。
「え?」
そしてライセラへ振り返る。
「ちょっと待ってください。私は人間に興味なんてありません。ただ、何年も有名な勇者が現れていなかったので、少し気になっただけです」
ライセラは腕を組む。
「それが知りたいなら、ミレリアに聞けばいいじゃない。それに、蓮を召喚したのは彼女なんだから」
アウェレンは眉をひそめ、後ろの客室にいるミレリアを見る。
何ですって? この人間が……一人で誰かを召喚した?
信じられない様子で、アウェレンはミレリアを見つめ続ける。
すると、ミコネコが彼女の隣にやってきた。
「もう行かない、エルフちゃん? 早く着いてほしいんだけど」
アウェレンは眉をひそめる。
「私は『エルフちゃん』ではありません! アウェレンです!」
ミコネコは肩をすくめる。
「はいはい、分かった。じゃあ、早く行こうよ。あのペンダントを手に入れて、ドラゴンを倒すんでしょ?」
アウェレンはため息をつく。
「あなた、ドラゴンがどんな存在なのか分かっているのですか? ……まあ、あなたの言う通りです。早く終わらせれば、その分早く自分の仕事に戻れますから」
彼女は再び前を見る。
「キャンプをするなら、もう少し先にしましょう。ちょうどいい場所があります」
ミコネコは上を見上げる。
「うーん……。まだ遠いなら、そろそろ休んだほうがいいかも」
後ろからガリックが答える。
「じゃあ……キャンプにしよう……」
彼は疲れ切った様子で、地面を見つめていた。
蓮が彼を見る。
「ガリック?」
その時、蓮はアウェレンが以前言っていた言葉を思い出した。
『変態。それも、かなりの変態っぽいわね』
蓮は再びガリックを見る。
あ……
もしかして、あのペンダントのことを考えてるのか?
蓮は馬車の座席から身を乗り出した。
その一方で、ミレリアは自分の前に座っている蓮の背中を見つめていた。
話さなきゃ……
ちゃんと話さなきゃ……
すると、リセラが優しく彼女の肩に触れた。
「ミレリア?」
ミレリアは彼女を見る。
「リセラ……」
リセラはフードを少し整える。
「ねえ……まだかなり疲れてるように見えるけど。私に何か手伝えることある?」
「ううん、大丈夫。ありがとう、リセラ」
リセラは困ったような表情でミレリアを見つめる。
「そっか……。でも、何かあったら遠慮なく言ってね?」
「うん……」
ミレリアは再び蓮の背中を見つめた。
ミコネコはアウェレンの隣に座り、馬車を操る彼女と一緒に窓の外を眺めていた。
この旅、退屈だな……
これはちょっと、盛り上げないとね。へへ。
それからさらに数分間、彼らは進み続けた。
そして、ようやくアウェレンが馬車を止める。
「よし。今夜はここでキャンプをしましょう。明日にはエラリオンへ到着します」
ガリックが手を上げる。
「もうここに閉じ込められてるのは限界だった……」
リセラとミコネコがほぼ同時に答えた。
「私も」
「僕も」
蓮は頷いた。
「分かった。夜に危険があるなら、ここでキャンプしよう。俺は薪を探してくる」
アウェレンが蓮を見る。
「遠くへは行かないでください。念のためです」
「分かった」
すると、ライセラが蓮へ近づく。
「私も蓮と一緒に行く」
蓮は彼女を見る。
「い、いや……薪を探すだけだから、大丈夫だよ、ライセラ」
ライセラは蓮の腕を掴む。
「私が行きたいの!」
そして蓮の腕に抱きついたまま、森へ向かって歩き始めた。
ガリックはアウェレンの近くに立ったまま、冷や汗を流していた。
くそ……
どうして俺はこんな状態なんだ……?
そこへミレリアが近づく。
「ガリック……あなたの言った通りだった」
ガリックは彼女を見る。
「え? どういうことだ?」
ミレリアは少し視線を落とす。
「蓮のこと……。最初から全部話しておくべきだったと思う。そう思わない? もし彼が私たちを助けてくれていなかったら……」
ガリックは少し考える。
「ああ、そのことか……。その話は、今夜ちゃんと整理しよう」
ミレリアはため息をついた。
「うん……。さすがに先延ばしにしすぎたものね」
ガリックは彼女を見る。
「なあ……。話せる時にちゃんと話してみろ。俺も一緒にいるからさ」
ミレリアは小さく微笑んだ。
「話してくれてありがとう、ガリック。本当に……」
ガリックは頷く。
「俺は最後までお前と一緒に行く。そう約束しただろ?」
「うん……。あなたの誓い、覚えてる」
ミレリアは数秒間黙った後、再び口を開く。
「それにしても……。アルテリオンの騎士になる道を捨ててまで、私を助けてくれるなんて……」
ガリックは小さく笑った。
「お前は……俺の妹に似てるんだ」
ミレリアは驚いた。
「え?」
何度か瞬きをする。
「そんなこと言われたの、初めて……。ほ、本当に?」
ガリックは頷いた。
「ああ。馬鹿みたいに聞こえるかもしれないけど、俺は本当にお前を助けたいんだ。少なくとも、そうすれば……妹のために何かしてやれてるような気がするから」
ミレリアは数秒間、黙っていた。
そして微笑む。
「ガリック……あの日、村で起きたこと……ごめんなさい」
ガリックは小さく笑った。
「気にするな。お前のせいじゃない。悪いのはアルテリオン・ドレンだけだ」
ミレリアは小さく微笑みながら、彼を見る。
「も、もしよかったら……アウェレンともっと仲良くなれるように、私が協力してあげようか?」
ガリックの顔が一瞬で真っ赤になる。
「な、何を言ってるんだ!?」
「たぶん、蓮にもバレてるわよ。アウェレンの近くにいる時、あなた変だもの」
ガリックは視線を落とす。
「く、くそ……。こんな風になるつもりじゃなかったんだ……」
ミレリアは少し首を傾げる。
「アウェレンのことが好きなの? それとも……エルフの女性が好みなの?」
ガリックは目を見開いた。
「エ、エルフの女性!?」
その瞬間――。
ガリックの鼻から血が流れ始めた。
「……あ」
ガリックは慌ててその場に膝をつき、鼻血を拭う。
ミレリアは数秒間、彼をじっと見つめた。
そして、すべてを理解した。
「……ああ。なるほどね」




