第39章 ―― 再び結ばれる絆
その頃、王宮の大広間では、アウェレンとミコネコが中へ入ってきて、周囲にいる者たちを見回していた。
二人の姿を見た瞬間、ギャリックは冷や汗を流し始めた。
少し離れた場所では、ミレリアとリセラが、妙に機嫌の良さそうなセドラン・ヴォルフ王を見ていた。
リセラはわずかに首を傾げる。
「なんだか……さっきより嬉しそうじゃない?」
ミレリアはもう一度セドランの方を見た。
「言われてみれば……本当ね」
その後、セドランは数人の治療を終えたアウェレンのもとへ歩いていった。
「改めて礼を言う、アウェレン。報酬はいつも通りアーサーから渡させる」
アウェレンは落ち着いた様子で頷いた。
「分かりました。あ、それと……彼女たちも、もうすぐ目を覚ますはずです。容体は安定しています」
ギャリックはしばらくの間、アウェレンの顔をじっと見つめていた。
どうしても頭から離れない何かがあった。
この顔……まさか……
ギャリックの目が大きく見開かれる。
いや……そんなはずが……?
アウェレンはそのまま振り返り、歩き去ろうとした。
ギャリックは一瞬ためらった。
しかし、その妙な既視感が気になり、彼女の後を追うことにした。
アウェレンは出口へ向かって歩いていく。
だが、扉を出ようとしたその時――
肩に手が触れた。
アウェレンは振り返る。
そこにいたのはギャリックだった。
「ま、待ってくれ……少し話したいことがある」
アウェレンは数秒間、真剣な表情でギャリックの顔を見つめた。
そして、自分の肩に置かれていた彼の手を外す。
「興味ありません」
ギャリックの目が見開かれた。
「ち、違う! そういう話じゃない!」
「なら、手短にしてください」
ギャリックは深く息を吸った。
「その……君によく似た人を見たんだ。目までそっくりだった」
アウェレンはわずかに目を細めた。
「私と同じエルフだから、そう思っただけでは?」
ギャリックは慌てて首を振った。
「ち、違う! もちろんそんな理由じゃない! ついさっき……君を見た時に気づいたんだ……」
「私に似たエルフ? どこで?」
アウェレンが少し近づく。
ギャリックの顔がわずかに赤くなった。
その反応にアウェレンは気づいた。
「どうしました? 続けてください」
ギャリックは視線を逸らし、あちこちを見回した。
「き、君……ちょっと近い……」
彼は一歩後ろへ下がった。
「ド、ドラクトールで見たんだ。俺がその人とぶつかって……それで、大切なものがなくなった」
アウェレンは再び近づいた。
「その人は、どんな服を着ていましたか?」
ギャリックはさらに一歩後ろへ下がる。
「み、緑色だった。でも、かなり目立つ装飾があって……布もすごく質が良さそうで――」
そこで、彼はアウェレンの表情に気づいた。
「な、なんでそんな顔をしてるんだ?」
アウェレンはわずかに首を傾げた。
「私はそこまで近くありませんよ? どうしてそんなに後ろへ下がるんですか?」
そう言って、さらに一歩近づく。
ギャリックも反射的に一歩後退した。
「な、何を言ってるんだ? 俺は普通だ!」
その瞬間――
背中が壁にぶつかった。
しまった!
アウェレンはさらに三歩近づき、彼の真正面までやって来た。
「まるで……私を怖がっているみたいですね」
ギャリックは息を呑んだ。
「き、君が本当に近すぎるんだ……」
アウェレンは眉を上げた。
「それが問題ですか? 近すぎますか?」
「す、少し離れた方がいいと思う……」
そう言いながらも、ギャリックは落ち着かない様子で視線を泳がせていた。
アウェレンはしばらく黙っていた。
そして、突然まっすぐに尋ねる。
「あなた……私に惹かれているんですか?」
ギャリックは完全に固まった。
「ち、違う! い、いや……君はいい人だと思うから、そういう意味では……いや、違う! き、君が綺麗だって言いたかったんだ! そういう目で見てたわけじゃ……ああ、くそ!」
ようやくアウェレンは一歩後ろへ下がった。
「久しぶりに、あなたたちのような人を見ました」
ギャリックは瞬きをする。
「俺たちのような人?」
アウェレンは何でもないことのように答えた。
「変態です。しかも、かなり重症そうな」
ギャリックはゆっくりと口を開いた。
完全に信じられない、といった表情だった。
アウェレンはそのまま歩き去ろうとする。
数秒後――
ついにギャリックが叫んだ。
「俺は変態じゃない!!」
その声は大広間中に響き渡った。
ギャリックはゆっくりと横を向く。
――全員が彼を見ていた。
ギャリックは顔を手で覆い、首を振った。
「なんで俺、エルフの前だといつもこうなるんだ……?」
一部始終を見ていたレンが尋ねる。
「何て言ったんだ、ギャリック?」
ギャリックは慌てて平静を装った。
「あ、い、いや……何でもない。それより、ペンダントを探さないと」
アウェレンは口元に手を当てながら笑い始めた。
「ふふふ……ごめんなさい。あなたが変な様子なのは分かっていましたけど、そこまで本気で受け取るとは思いませんでした」
ギャリックは完全に恥ずかしくなり、視線を逸らした。
「お、面白くなかったぞ……」
アウェレンは微笑む。
「おそらく、私の妹を見たのでしょうね。彼女はエルフの国、エラリオン王国に住んでいます」
その場にいた全員が、一瞬不思議そうな顔をした。
レンはまだ状況を理解できず、アウェレンを見る。
「どうして俺たちが見たのが妹さんだって、そんなに確信できるんだ? 俺たちはドラクトールで、君にそっくりなエルフを見たんだけど……」
アウェレンは自然な口調で答えた。
「私の妹は、時々ドラクトールへ行っていたんです。あの子は、あそこで悪さをするのが好きでしたから。時々……お土産まで持って帰ってきました」
ギャリックが眉を上げる。
「盗んでたってことだろ?」
アウェレンは小さくため息をついた。
「まあ……でも、いつも最後には返しに行っていました。どうしてそんなことをしていたのかは、私にも分かりませんけど……」
最初に反応したのはセドランだった。
「アウェレン。君は自分の家族について、一度も話したことがなかったな」
アウェレンはしばらく黙った。
「話せるような良いことなんて、何もありませんでしたから。私は……二百年ほど前に家を出ました。それからずっと治癒魔法を学んでいます。それに、人間の王国も好きなんです」
レンはしばらく言葉を失った。
「に、二百年!? でも、どう見ても二十歳くらいにしか見えないぞ!」
リセラが落ち着いた様子で説明する。
「エルフはそういうものよ、レン。見た目だけで判断してはいけないわ」
その時、アウェレンはリセラへ視線を向けた。
その目つきがわずかに変わる。
「このような場所で魔族を見るのは珍しいですね」
セドランがすぐに間へ入った。
「アウェレン。彼女たちは私の客人だ」
アウェレンは数秒間、真剣な目でセドランを見つめた。
「あなたがそう言うなら」
そこへ、ギャリックが再び近づいてきた。
「その前に……頼む。ペンダントを探すのを手伝ってくれないか? 母の形見なんだ」
アウェレンは彼を見る。
「私の仕事は、ここにいる人たちを治療することだけでした。誰かを探す義務まではありません」
ギャリックは彼女の目をまっすぐ見つめた。
顔が少し赤くなる。
「頼む……」
今度は、アウェレンも目を逸らさなかった。
彼女は数秒間、ギャリックの顔をじっと見つめた。
まるで、その瞳の奥に何があるのかを確かめようとしているかのように。
やがて、彼女はため息をついた。
アウェレンは腕を組み、ギャリックを見る。
「代わりに、条件があります」
ギャリックの目が見開かれる。
「じょ、条件? 何が欲しいんだ?」
アウェレンは数秒間彼を見つめた後、答えた。
「格闘術を教えてください」
突然、大広間が静まり返った。
ギャリックは二度瞬きをした。
今聞いた言葉を理解するまで、少し時間が必要だった。
「お、俺が……君を鍛えるのか?」
アウェレンは頷いた。
「私は……近距離戦が昔から苦手なんです。その部分をもっと上達させたい。あなたに、戦い方を教えてほしいんです」
セドランは眉をひそめた。
「でも、君が危険な目に遭うことなんてないだろう!」
アウェレンは彼を見る。
「それは、どうでしょうね……」
ギャリックは小さく笑った。
「分かった。ちゃんと教える。本当に。でも……ペンダント探しを手伝ってくれるんだよな?」
アウェレンは手を差し出した。
「これで取引成立です。そして、ここには証人もいます」
ミコネコがすぐに手を上げた。
「二人とも、約束を忘れさせないからね!」
セドランは笑い始めた。
「ははは! 確かに。彼女は絶対に忘れない」
レンは皆の様子を見ながら微笑んだ。
そして、ゆっくりと息を吐く。
体から力が抜けていくのを感じた。
長い間背負っていた重荷が、ようやく肩から降りていくようだった。
レンはリセラを見る。
彼女は無表情のまま、こちらを見ていた。
しばらく、二人の間に沈黙が続く。
やがてリセラは、小さく手を動かしてレンを呼んだ。
レンは彼女のもとへ近づく。
そして尋ねた。
「どうした?」
リセラは数秒間黙ったまま、ただレンを見つめていた。
そして、ようやく口を開く。
「レン、私……」
レンは優しく彼女の肩に手を置いた。
「大丈夫だ。大丈夫。もう終わったことだ。でも、今は解決しなきゃいけないことがいくつかある」
ミコネコが頷く。
「そうだね。私たちはドラクトールへ行かなきゃ。というより……急いで逃げ出したから、戻らなきゃいけないんだけど」
レンはミコネコを見てから、リセラへ視線を向けた。
「なあ……少し混乱してるんだけど……魔族の国は、本当にドラクトールと同盟を結んでないんだよな?」
ミコネコとリセラは数回瞬きをした。
そして、同時に叫ぶ。
「はあああああ!?」
レンは慌てて両手を上げた。
「お、落ち着け! 落ち着いて!」
ミレリアは深く息を吸ってから説明した。
「最初は、それが本当なのかどうか調べるために、私たちは依頼を受けたの」
その会話を聞いていたセドランが眉を上げた。
「本当に、私にこの話を最後まで聞かせるつもりなのか?」
ミコネコは彼を見る。
「大丈夫だよ、セドラン。そんなのは嘘だから」
リセラもすぐに頷いた。
「もちろんよ! もう何年も前から、私の父……魔王は、他の文明を攻撃していないわ」
レンは眉をひそめる。
「でも、ミレリアの両親は……無理やり働かされてるんじゃないのか?」
ミレリアは明らかに居心地悪そうに、両手を擦り合わせ始めた。
「その……レン。これについては、二人きりで話せないかな?」
レンは頷いた。
「分かった。それなら――」
「全部、嘘だった」
ギャリックが会話を遮った。
レンは言葉の途中で止まり、彼を見る。
ギャリックは続けた。
「そもそも、救出なんて最初から存在しなかった」
レンはわずかに口を開いた。
しかし、何も言えなかった。
ギャリックはさらに続ける。
「お前は、アルセリオン・ドレン王に、これまで自分がしてきたことの代償を払わせるための計画に巻き込まれたんだ」
レンは信じられないという表情のまま、彼を見つめ続けた。
「でも……お前たち……俺に言っただろ……」
ミレリアがすぐにギャリックの方を向いた。
「ギャ、ギャリック! その話は後で話すつもりだったでしょ!」
ギャリックは拳を握りしめた。
「後って、いつだ?」
彼は周囲にいる皆を見回した。
「それに……もう言うべき時だった。そして、お前たち全員にも真実を話すべきだ」
ギャリックは深く息を吸った。
「俺たちは誰よりも正しい人間じゃない。ずっとレンに嘘をついてきた……それなのに、俺たちはあいつを裁くようなことまでした」
レンは決意のこもった表情でギャリックを見た。
ギャリックは手を差し出す。
「やり直せると思う。今度は、嘘も秘密もなしで。……どうだ?」
レンは少しの間、黙っていた。
そして、わずかに微笑むと、彼のもとへ歩いていった。
二人は固く握手を交わす。
「もちろんだ。いいよ」
だが、その直後――
ミコネコが二人の間へ飛び込み、二人まとめて抱きしめた。
しかも、あまりにも強く抱きしめたため、二人の体が前へ傾くほどだった。
「ははは! ついにだね!」
「わ、分かった……わ、分かったから! 離してくれ!」
レンは必死に抜け出そうとした。
ギャリックも息をするのに苦労していた。
「分かった、分かった! 頭が……近すぎる!」
ミコネコはさらに強く二人を締めつけた。
レンは何とか離れようとして、ミコネコとの間に隙間を作るため、手を彼女の体に置いた。
そして、ようやく抜け出すことに成功した。
「はぁ……はぁ……なんであんなに強く抱きしめるんだよ?」
レンは自分の手を見る。
何か柔らかいものに触れた……
それ以上考える暇もなく、ミコネコが悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「きゃああああ! レンが私の胸を触った! リセラがいるだけじゃ足りないの、レン?」
ミレリアの目が大きく見開かれる。
「れ、レン!? 何をしてるの!?」
リセラの顔が一気に真っ赤になった。
「えっ!? な、何!?」
レンは完全にパニックになった。
「わざとじゃない! いや……ただ離れようとしただけだ! みんな見てただろ!?」
ミコネコは背中を向け、笑いを必死に堪えた。
「ああ! 自分で罪を認めた!」
レンは頭を抱えた。
「ああ、もう! 本当に!?」
ミレリアはさらに恥ずかしそうな表情になる。
「そ、そんなに必死だったの、レン?」
ミコネコはすぐに振り返った。
「ちょっと! 今の言い方は気に入らないね! レンはちゃんと、いい女の魅力が分かる男なんだよ!」
リセラは目を細めた。
「でも、あなたは猫でしょう?」
ミコネコが瞬きをする。
「ありがとう」
しかし、リセラは真顔のまま続けた。
「大事な時に……口から毛玉が出てきたらどうするの?」
ミコネコは黙った。
数秒間、誰も何も言わなかった。
そして、彼女の表情が変わる。
「……はあ!?」
ミコネコはリセラを指差した。
「あなた、礼儀ってものがないの!?」
「ただの意見よ!」
「意見!?」
「そうよ!」
「だったら、言わせてもらうけど――」
二人の声が重なり始め、その間にミレリアも止めようとした。
「二人とも、待って!」
「そういう意味じゃない!」
「じゃあ、どういう意味なの!?」
「もう説明したでしょ!?」
大広間はあっという間に、たくさんの声が飛び交う騒がしい空間になった。
――その時。
「ははははは!」
全員が止まった。
その場に沈黙が訪れる。
そして、ゆっくりと皆が笑い声の方を振り返った。
アウェレンが片手で口元を隠しながら笑っていた。
「ふふふ……ははは!」
セドランの目が見開かれる。
「わ、私は……君が笑っているところを一度も見たことがない」
アウェレンは笑いを抑えようとしたが、まだ微笑んでいた。
「あなたたち、面白い人たちですね」
そして、アウェレンはギャリックを見る。
「故郷に帰るのは、本当に久しぶりですが……いいでしょう。あなたのために、行きます」
ギャリックは数秒間、彼女を見つめた。
アウェレンも、自分が今言った言葉に気づいた。
顔がわずかに赤くなる。
「ち、違います! 取引のためです! 取引のためですから!」
近くにいたミコネコが、すぐに悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「ふーん……聞いた、ギャリック? 今、“あなたのために”って言ったよ?」
ギャリックとアウェレンは同時にミコネコを見る。
「だ、黙れ!」
ギャリックは咳払いをして、恥ずかしさを隠そうとした。
「そ、その……ありがとう、アウェレン」
アウェレンはミコネコのからかいを無視し、再びギャリックを見る。
「エラリオンにあるエルフの村まで、安全な道を案内します。その先は、あなたたちだけで進んでもらいます。それでいいですか?」
ギャリックとレンは頷いた。
「分かった」
アウェレンが出て行こうとした時、ミコネコはセドランの方へ近づいた。
「騒がしくしてごめんね」
セドランは微笑んだ。
「君が何か騒動を起こしていない時なんてあるのか? ははは」
ミコネコも笑う。
「野良猫は、一つの場所に閉じ込められるのが嫌いなんだよ。でも……助けてくれてありがとう、セドラン」
セドランは優しく微笑んだ。
「昔からの友人だからな」
ミコネコは少しの間、黙った。
そして尋ねる。
「それで……結婚はいつ?」
セドランは突然むせ始めた。
「ゴホッ、ゴホッ……け、結婚?」
ミコネコは彼を見ながら説明する。
「ギャリックを探しに行く前に、少し彼女と話したんだ。それに、私はアウェレンのことを子供の頃から知ってる」
セドランは眉を上げた。
「本当か?」
ミコネコは頷いた。
「うん。彼女はとてもいい人だよ」
セドランはわずかに微笑んだ。
「そうか……それなら、その話についてはまたゆっくり話そう」
ミコネコも笑う。
「本当に、あなたは秘密ばかりだね……ふふ」
セドランは小さく笑った。
「望むなら、もっと頻繁に遊びに来てもいいんだぞ」
ミコネコは首を振った。
「セドラン。私たちは別々の王国を率いる立場なんだよ。もう子供じゃない。そんな簡単に会えるわけないでしょ。あなたも分かってるはず」
セドランは少し寂しそうに笑った。
「分かっている。ただ、言葉にしたかっただけだ。レンが……昔からずっと頭の中に残っていた、大切なことを思い出させてくれた」
ミコネコはレンの方を見る。
「レンが?」
彼女はしばらくレンを見つめた。
「一緒にいるようになってから、まだそんなに時間は経ってないのに……もう、いろんなことを一緒にやってきた気がする」
セドランは優しく彼女の肩に手を置いた。
「それを“冒険”というんだよ、ミコネコ。ふふ。私も、こんなことを経験するのは本当に久しぶりだ……少し懐かしい気持ちにさえなる」
ミコネコは微笑んだ。
「じゃあ、決まりね。結婚する時は、ドラクトールにも招待状を送ってよ?」
セドランは笑った。
「分かった、分かった」
そこへレンが近づいてきた。
「エラリオンへ行く前に、獅子のギルドに寄りたいんだけど……できるかな?」
アウェレンは少し考えた。
「獅子のギルドですか? ええ、道中にあります。正確には、次の街ですね。でも、どうしてです?」
ミレリアは少し頭を掻いた。
「報告しないといけない依頼があって……」
ギャリックの目が大きく見開かれた。
「うわ……完全に忘れてた!!」
一瞬、その場が静まり返った。
そして――
皆が笑い始めた。
高い山の頂上。
一人の人物が、眼下に広がる人間の王国を見下ろしていた。
遠くには、巨大な王宮が見える。
その人物はフードを下ろした。
現れたのは、吸血鬼リオレンだった。
彼はその場から動かず、静かに王国を見つめ続けていた。
そして、口を開く。
「ここだ、ドラヴィオン。あいつらは、あの王宮の下にいる」
その隣には、荒々しい外見をした魔族の男が立っていた。
彼は不気味な笑みを浮かべながら、王国を見下ろす。
「ふん……やはり本当だったか」
リオレンは何も言わず、前を見続けていた。
ドラヴィオンはさらに続ける。
「父上が以前、似たような話をしていたんだ。俺はただの昔話だと思っていたが……ここからなら、あの王宮を覆っている薄い層がはっきり見える」
リオレンは強く拳を握りしめた。
その視線は、巨大な王宮から離れない。
「もうすぐだ……兄弟たち。お前たちは自由になる」
ドラヴィオンは笑みを浮かべた。
「この王国を滅ぼし、かつての栄光を取り戻すんだ、我が吸血鬼の友よ。そしてその後は……俺の問題も手伝ってくれるんだろう?」
そう言った。
リオレンは王国を見つめたまま答える。
「リオレンと呼べ」
魔族の男は頷いた。
「分かったよ、リオレン」




