第37話 ― ありえない再会
松田蓮は、先ほどまで横になっていたベッドの上に起き上がり、両手で顔を覆った。
数秒間、何も言わずに考えを整理しようとする。
「……あの化け物……あれは、俺だったのか?」
蓮は顔を強くこすった。
「ミサキに似ていた、あの化け物……あいつは俺の頭の中に入り込んできた。いったい何だったんだ?」
蓮は立ち上がると、部屋の中を行ったり来たりし始めた。
すると、いくつかの記憶が蘇ってくる。
ミコネコに殴られたこと。
小さな竜巻。
そして何よりも、あの感覚。
「……あの時は、純粋な力そのものだった。何でもできる気がした……。なのに、どうして俺は他の奴らのことを心配しなかった?」
廊下から聞こえてきた物音が、蓮の注意を引いた。
「それより……ここがどこなのか確かめないと」
蓮は扉を見つめた。
扉の向こうには、一人の人影が立ったままだった。
蓮は素早く扉の陰に隠れる。
「この扉が開いた瞬間に……」
やがて、扉が開いた。
「こんにちは、あなた……」
女性の声が突然途切れる。
「えっ!? い、いない!? た、大変……ノリコ様に報告しないと!」
女性は慌てて廊下を走り去っていった。
蓮は扉の陰から顔を出す。
「……ノリコ?」
蓮は部屋から出ると、周囲を見回した。
「ここって……宮殿か何かだよな。俺がやってたRPGみたいだ……。まさか、俺は捕まったのか?」
歩いていると、ぼんやりとした記憶が再び頭の中に浮かんできた。
あの半透明の存在が残した言葉が、脳裏に響く。
「地球……マルデク……許す……」
蓮は眉をひそめた。
「何もかもがおかしい……。目を覚ました時は、あれほど現実味があったのに……今となっては、ただの夢だったように思える」
その時、廊下の奥から一人の兵士がこちらへ歩いてくるのが見えた。
「おい、そこの君! 止まれ!」
「くそ……やっぱり捕まってたのか!」
蓮は走り出した。
「あなた自身のためにも、俺から離れてくれ!」
兵士も慌てて追いかける。
「待て! 王がお前と話したいそうだ!」
「はあ? あのイカれた奴が、仕返しでもしたいのか?」
兵士は数秒間、黙り込んだ。
どう答えればいいのか分からないらしい。
「出口はどこだ……? 出口は……?」
蓮が角を曲がると、前方からさらに二人の兵士が現れた。
「どけ!」
「落ち着け、若者よ! お前はここへ来た一行の一人だったんだろう?」
蓮は足を止めた。
「一行……? あいつらも一緒に来たのか?」
兵士は警戒を解き、構えを緩めた。
「我々と来い。皆、広間でセドラン・ヴォルフ王と話をしている」
蓮は目を見開いた。
「セドラン・ヴォルフ? アルテリオン・ドレンじゃなくて?」
「は? 何を言っているんだ? 頭でも打ったのか?」
もう一人の兵士がため息をつく。
「王から説明があっただろう。お前はずっと意識を失っていたんだ」
蓮は困惑したまま二人を見つめた。
「……ここはアルテリオンじゃないのか?」
「違う。ここはドレイヴンフォール。ドレイヴンホールド王国の首都だ。そして、お前がいるのは王宮だ」
蓮はしばらく黙り込み、長いため息を吐いた。
「……そうか」
「さあ、ついてこい。さっきも言ったが、王がお前と話したがっている」
蓮は兵士の後を歩き始めた。
「……みんな、大丈夫なのか?」
「誰のことだ?」
「俺の……仲間だ。みんな無事なのか?」
「ああ。全員無事だ。もうすぐ、この国で一番腕のいい治癒師に治療してもらうことになっている」
蓮はほっと息を吐いた。
「よかった……。あんなことをした俺なのに……」
しばらく進むと、前方から話し声と笑い声が聞こえてきた。
「この声……あいつらだ!」
兵士が前方を見る。
「もうすぐだ」
王宮・大広間
ガリックは椅子に座りながら、笑顔を浮かべていた。
「君がいなかったら、ミコネコとニナ嬢も含めて、俺たちはかなり危ない状況だっただろうな」
ミコネコは肩をすくめる。
「お礼ならニナちゃんとセドランに言ってよ」
セドランは笑った。
「私は穏やかな一日を過ごすつもりだったんだがな。まあ、いいさ。たまには客人を迎えるのも悪くない。ははは」
ニナは小さく頭を下げる。
「あ、ありがとう……怒らないでいてくれて」
「気にするな。君は本当に優しい心を持っているんだな」
ニナは少し頬を赤くした。
リテラは小さく息を吐く。
「結果的には……すべて上手くいったみたいね」
リセラは腕を組んだ。
「レンが化け物になったのなら……さすがに『すべて上手くいった』とは言えないと思うけど」
ガリックがリセラを見る。
「何だったのかは分からない。だが……お前の言うことにも一理ある」
するとリテラが口を開いた。
「でも、レンのおかげでアルテリオン・ドレンに私たち全員が殺されずに済んだ」
その言葉に、全員が一瞬黙り込んだ。
沈黙を破ったのはミコネコだった。
「それにしても……レンを止めた、あの光っていたものは何だったの?」
ガリックが答える。
「アルテリオン・ドレンは、あれを『女神』と呼んでいた」
セドランが眉をひそめる。
「女神?」
「ああ。奴はそう言っていた。それに、あの存在は奴の腕まで再生させた」
ニナが目を見開く。
「ほ、本当に?」
ミコネコは頬杖をつく。
「こういう話を、こんなに普通にしてるのって……ちょっと変じゃない?」
セドランはため息を吐いた。
「一度にいろいろ起こりすぎて、頭が追いつかないんだよ……」
その時、大広間の扉が開いた。
一人の兵士が、蓮を連れて入ってくる。
「陛下、少年が目を覚ましました!」
全員の視線が蓮へ向けられた。
蓮は緊張した笑みを浮かべる。
「み、みんな……」
誰も答えなかった。
蓮は数秒間、返事を待つ。
「……みんな?」
セドランが立ち上がり、蓮のもとへ歩いてくる。
「やあ、少年。君の名前は松田蓮……で合っているな? ちょうど君の仲間たちと話をしていたところだ」
「あ……はい」
ガリックは無表情のまま蓮を見つめる。
「少しはマシになったか?」
「うん……たぶん。なんだか、全部が変な感じだけど」
「……そうか」
蓮はミレーヤを見る。
「ミレーヤ……無事だったんだな。よかった……」
彼女は視線を逸らした。
「う、うん……。心配してくれて、ありがとう」
再び、広間に沈黙が落ちる。
蓮はリテラへ視線を向けた。
彼女は片方の腕を抱えるようにしていた。
そして蓮を数秒見つめた後、静かに視線を逸らした。
蓮も何も言わなかった。
セドランが近づき、蓮の手を握る。
「こうして歩いて話せるようになったことは、本当に良かった。もうすぐ治癒師も来る。それが終わったら、君とは二人で話をしたい」
そして、入口付近にいた女性へ視線を向ける。
「ノリコ。彼を客室へ連れていって、風呂に入らせてくれ」
「承知しました」
ノリコは蓮へ手招きする。
「レン様、こちらへ。私についてきてください」
蓮は彼女について歩き始めた。
しかし、部屋を出る直前に、もう一度仲間たちを振り返った。
全員、別の方向を見ているようだった。
「……何があったんだ?」
ノリコと蓮は、無言のまま廊下を歩いた。
聞こえるのは、石造りの床に響く二人の足音だけだった。
しばらくすると、一枚の扉の前で立ち止まる。
「こちらです、レン様。中で服を脱いでください。入浴中は侍女がお手伝いします」
蓮は気まずそうな顔をする。
「い、いや……大丈夫です。一人で入れますから」
「かしこまりました」
ノリコはその場を離れようとした。
しかし蓮は、扉の前から動かなかった。
彼はじっと、ドアノブを見つめる。
その光景が、別の記憶を呼び起こした。
――ミサキの部屋の前に立っている。
手をドアノブへ伸ばしている自分。
蓮はドアノブに触れ、そのまま動きを止めた。
すでに歩き始めていたノリコが足を止め、振り返る。
「レン様……何か問題でも?」
蓮は歯を食いしばる。
「問題は……俺自身だ」
ノリコは数秒間、蓮を見つめた。
そして、小さく息を吐く。
「セドラン陛下が少し無防備すぎるのではないかと思うことはあります。それでも、あの方が優れた王であることは私も認めています」
「……」
「あなたの仲間たちからも、詳しいことまでは聞いていませんが……あなたの身に何が起きたのか、ある程度は聞いています」
蓮はドアノブを強く握りしめた。
ノリコは続ける。
「ですが、もしあなたが陛下にとって少しでも危険な存在だと判断したら――私がこの手であなたを始末します。よろしいですね?」
蓮は俯いたまま答えた。
「……きっと、みんなも同じことを考えてるんだろうな」
「それは私には分かりません。ただ、私はあなたについてどう考えているのか、今はっきり伝えました」
ノリコは背を向ける。
「ゆっくりお風呂に入ってください。着替えはすぐに届けさせます」
そう言い残し、ノリコは去っていった。
蓮は強く目を閉じる。
そして、勢いよく扉を開けて中へ入った。
「……ただの風呂だ。そう、ただの風呂だ……」
蓮は身体を洗い始めた。
しかし、頭の中では先ほどの出来事が繰り返されていた。
「……みんな、俺のことをまともに見ることすらできなかった」
蓮は自分の腕をこする。
「俺が何をしたのか……ぼんやりだけど覚えている。あれは……俺だった」
しばらくして、蓮は浴槽へ入った。
「俺がどう思いたいかなんて関係ない……。あれは、間違いなく俺だった」
「……これから、どうすればいいんだ?」
蓮は壁に頭を預け、ゆっくりと身体を湯の中へ沈めていった。
――その時。
また一つ、別の記憶が浮かび上がった。
蓮はアルバイトをしていた。
配達アプリの仕事で、バイクを走らせていた。
街中を走りながら、蓮は考えていた。
「今日はかなり配達したな……。もう家に帰るか」
赤信号で停止する。
何人かの人が横断歩道を渡り始めた。
蓮はスマートフォンを見る。
「今日は月初か……。山田リク、まだ連絡してこないな」
信号が青に変わる。
蓮は再びバイクを走らせた。
しばらくして、配達先へ到着する。
一人の少女が玄関を開け、料理を受け取った。
「早かったね」
「ああ、本当? 全然気づかなかったよ」
「それじゃ、良い夜を」
「うん。良い夜を……」
扉が閉まる。
蓮がバイクへ戻ろうとした、その時だった。
近くの家から、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
蓮は足を止める。
「……この声……ヒナ?」
蓮は声のした方向を見る。
すると、そこにはかつての学校の仲間たちが集まっていた。
ヒナ、ミオ、アオイ、そして山田リク。
全員が笑顔で話している。
「みんな……? なんでここに集まってるんだ? それに、ここは誰の家だ?」
その時、ミサキが姿を現した。
大学の同級生らしき男と一緒だった。
蓮の顔から血の気が引く。
「な……なんで、あいつがここに……?」
蓮は数秒間、その場に立ち尽くした。
そしてヘルメットを被り、そのまま様子を見続けた。
「先週、あの二人があの部屋にいるのを見た……。なのに、どうしてここにいる?」
山田リクが家を指差す。
「いい家じゃん、タカシ」
ミサキと一緒にいた男――タカシは、頭をかきながら笑った。
「ははっ、ありがとう。いつでも遊びに来てよ」
アオイの恋人で、蓮の元同級生でもあるソウマが周囲を見回す。
「そういえば、レンはどうしたんだ?」
ミサキは何でもないことのように答えた。
「ああ……彼なら仕事中。今日は来られないみたい」
蓮はヘルメットのバイザーを下ろした。
そして、バイクのアクセルを一気に回し、その場から走り去った。
その顔からは、完全に笑みが消えていた。
「俺はあの後、逃げるように帰った……。それから一週間、俺たちは一度も話してない」
「なのに……どうして……?」
「どうして、何もなかったみたいな顔でいられるんだ……?」
蓮はそのまま家へ向かった。
そして、ようやく家に帰り着くと、玄関の扉を開けた。
「ただいまー」
トウカが食器を洗っていた。
「おかえり、兄ちゃん」
蓮は階段を上り始める。
「レン? どうしたの?」
蓮は背を向けたまま答える。
「大丈夫だよ、トウカ。今日はちょっと忙しかっただけ……」
そのまま階段を上っていく。
「兄ちゃん! もうすぐ私も、もっと手伝えるようになるから。だから……もう少しだけ待ってて」
蓮は少しだけ笑った。
「はは……父さんと約束したんだ。トウカが困ってることがあれば、俺が助けるって。だから心配するな」
そして、自分の部屋へ入る。
ベッドに腰を下ろした蓮は、床を見つめたまま完全に動かなくなった。
――そこで、記憶が途切れた。
蓮は浴槽の中で顔を上げる。
「ああ……長く入りすぎたな」
湯から出ると、浴室の反対側に綺麗に畳まれた服が置かれていることに気づいた。
「……あれ? いつの間に……? 誰か入ってきたのか?」
蓮は急いで服を着替え、浴室を出た。
すると、外で一人の侍女が待っていた。
「レン様、こちらへ。先ほど治癒師様がお見えになりました。レン様も治療を受けたほうがよろしいかと思います」
「……分かった」
歩きながら、蓮は考えていた。
「……また、みんなと顔を合わせることになるのか」
「ちゃんと……謝らないと」
侍女が小さな扉を開く。
「こちらです、レン様」
蓮は首を傾げる。
「ここ? 大広間じゃないのか?」
「治癒師様はこちらで治療を行っています」
蓮は扉を開けた。
部屋の中には、白い治癒師の衣装を身につけたエルフの女性がいた。
彼女は淡い色の長いドレスを身につけており、腰には金色の帯が巻かれている。袖はゆったりと広がり、裾や縁にはエルフの文字を思わせる刺繍が施されていた。
肩には小さな白いケープを掛け、銀色のブローチで留めている。
その手には淡い色の木で作られた細い杖が握られており、先端には小さな金属製の葉がいくつも飾られていた。
そして蓮は、ミレーヤ、ガリック、リテラ、リセラ、ミコネコの姿も確認した。
全員が蓮を見る。
エルフの女性は片眉を上げた。
「まあ……まるで何かの魔物に全身を引っかかれたみたいね。あなたが松田蓮?」
「それにしても、その傷でどうやってお風呂に入ったの?」
蓮は自分の身体をしばらく見つめた。
まるで、今になって初めて傷に気づいたかのように。
「……そういえば、俺……気にしてなかった。でも……どうして痛くなかったんだ?」
困惑したまま黙っている蓮を、アウェレンは興味深そうに観察する。
「あなた……普通の人間とは思えないほど高い生命力を持っているみたいね」
ガリックだけが、蓮に声をかけた。
「ほら、レン。幽霊でも見たみたいな顔するなよ」
蓮はゆっくりと部屋へ入った。
「……分かった」
エルフの女性が椅子を指差す。
「私の名前はアウェレン。そこに座って」
蓮は黙って椅子まで歩き、腰を下ろした。
アウェレンは杖を掲げる。
「これから『極大治癒』を使うわ。傷ついた組織の再生を促進し、深い傷を塞ぎ、損傷した筋肉を修復する。それと、身体に残っている痛みも和らげるわ」
「少し熱く感じたり、身体がピリピリするかもしれないけど、動かないでね」
彼女は杖の先端を蓮の胸に当てる。
「エラリス……ヴィテア・ルクス」
緑と金色の光が、蓮の身体を包み込んだ。
温かな波が筋肉の奥を駆け抜けていく。
小さな傷が次々と塞がり、青あざが消えていく。
身体に残っていた痛みも、少しずつ薄れていった。
それでも蓮は、ずっと床を見つめていた。
数秒後、蓮が口を開く。
「……みんな、俺のことを嫌ってるよな」
「でも……ごめん」
全員が黙り込んだ。
やがて、リテラが口を開く。
「レン……私は……」
しかし、彼女は視線を逸らし、拳を強く握った。
「わ、私たちは……ただ混乱してるだけよ、レン!」
ガリックが彼女の腕にそっと触れる。
「みんなが揃ってから、ちゃんと話そう。な?」
蓮は顔を上げる。
「……そんな目で俺を見なくてもいい」
ミレーヤが眉をひそめる。
「そんな目って……?」
「……まるで俺が……化け物みたいじゃないか」
ガリックは腕を組む。
「だって、お前は実際に化け物になって、俺たちを殺しかけたんだからな」
「ガリック!」
「俺は現実を言ってるだけだ、リテラ。レンは自分が何になったのか分かってない。でも、俺たちが完全には信用できない存在だってことは、もう証明してしまった」
ミレーヤが口を挟もうとする。
「レン、せめて……」
しかし、蓮は突然立ち上がった。
「……俺が問題なんだ。分かってる」
そして、扉へ向かって歩き出す。
「俺自身、何が起きたのかよく分かってない……。でも、もういい」
アウェレンが声を上げる。
「ちょっと! 待ちなさい! まだ治療が終わってないわよ!」
蓮は扉を開け、そのまま部屋を出ていった。
――バァン!!
扉が強く閉まる。
ミレーヤはガリックを睨んだ。
「そんな言い方しなくてもいいじゃない!」
ガリックは腕を組んだまま答える。
「必要だったんだ。現実を思い知らせる必要がある。自分がしたことの結果を受け止めなきゃならない」
「俺たちはレンに救われた。だが同時に、俺たちはレン自身の手で殺されかけたんだ」
リテラは突然立ち上がり、扉へ向かって走った。
「レン!」
扉を開ける。
しかし、廊下には誰もいなかった。
リテラは左右を見回す。
「ど、どこに行ったの……?」
蓮は、一人で王宮の正門へ向かって歩いていた。
廊下に響くのは、彼自身の足音だけ。
出口へ近づいた、その時だった。
背後から声が聞こえる。
「待て!」
蓮が振り返る。
そこには、息を切らしながら急いでやって来るセドランの姿があった。
「どこへ……はぁ……行くつもりだ? はぁ……」
蓮は再び正門を見る。
「……帰ります」
「俺は……あなたにとっても、ここにいる全員にとっても危険な存在だから」
セドランは数秒間、黙って蓮を見つめた。
そして、出口へ近づいていく蓮の姿を見つめる。
「君の名前は……松田蓮、だったな?」
蓮は背を向けたままだった。
「こちらでは、あまり聞かない名前だ」
セドランは続ける。
「私は君と話がしたいと言ったはずだ」
蓮はようやく振り返った。
「……俺に何の用ですか?」
「ミコネコは秘密を守るのが苦手でね」
セドランは苦笑した。
「君が異世界から来た『召喚者』であること、それから……私が知らなくてもよかったことまで、いろいろ教えてくれたよ」
蓮は驚いた。
「……そうです。俺は召喚者です。でも、俺を召喚したのはミレーヤです」
セドランは蓮へ近づく。
「だからこそ、君と二人で話したかった」
「君の名前……松田蓮。日本人だろう?」
蓮の目が大きく見開かれる。
数秒間、言葉が出てこなかった。
セドランは微笑む。
「その反応を見る限り……どうやら当たったようだな」
「ど、どうして分かったんですか?」
「それは……私も地球から来た人間だからだ」
蓮は完全に動きを止めた。
「……あ、あなたも……勇者なんですか?」
セドランは小さく笑った。
「そうだったら、どれほどよかったことか」
「私はこの世界で赤ん坊として生まれた。だが……なぜか前世の記憶だけは残っているんだ」
蓮は一歩近づく。
「地球では……どこの出身だったんですか?」
「私も日本だ。星見市という街に住んでいた」
蓮は驚愕する。
「星見……?」
「星見?」
「星見市!? 本当に!?」
セドランは首を傾げた。
「ああ。知っているのか?」
「俺も……そこに住んでいました」
セドランは笑った。
「それなら……私たちは思っていた以上に共通点が多いようだな」
蓮は少し考えてから尋ねる。
「……あの頃の名前は? あなたは地球でもセドランだったんですか?」
セドランは笑みを浮かべた。
「ははは……いや」
そして、ゆっくりと答えた。
「私の名前は……」
蓮の顔から血の気が引いた。
「……坂本博志だ」
蓮はセドランを見つめたまま、動けなくなった。
――坂本?
「坂本博志……」
「……俺の友達の父親が、その名前でした」
セドランの笑顔が消える。
「……友達?」
「その子の名前は?」
蓮は答えた。
「……坂本アオイです」
セドランは完全に動きを止めた。
蓮は、その反応をじっと見つめる。
「……陛下?」
返事はない。
「おーい……?」
セドランの目の端に、小さな涙が浮かんだ。
「……アオイ」
声が震え始める。
「アオイ……?」
「私の……小さなアオイなのか……?」
蓮は胸が締めつけられるような感覚に襲われた。
そして、震える声で呟く。
「……じゃあ、あなたは……アオイが亡くした父親……なんですか?」




