第36話 — ドレイヴェンフォールの避難所
ガリックはゆっくりと立ち上がり、咳き込み始めた。
「ゴホッ……ゴホッ……」
そして、少女たちへ視線を向ける。
「みんな、大丈夫か? 怪我はないか?」
リテラは胸元に手を当て、咳を挟みながら答えた。
「ゴホッ……ゴホッ……うん……大丈夫……」
ガリックは続いてミレーヤへ目を向けた。
彼女は地面に倒れたまま、意識を失っていた。
ガリックは彼女に近づくと、慎重に身体を抱き起こし、片腕で支えた。
そのすぐ近くでは、ミコネコが足を引きずりながら歩いていた。
「うぅ……こんなにボコボコにされたのは久しぶりだわ……」
すると、すぐにリセラが駆け寄ってきた。
「ミコネコ、私が支えるよ」
ミコネコは首を横に振った。
「あなたは友達を助けて。あの子のほうが重傷よ」
リセラは一瞬ためらった。
しかし、すぐにガリックのもとへ向かい、ミレーヤを抱えている彼の身体を支え始めた。
ミコネコは片目だけを開けたまま、三人の姿を眺めながら後ろを歩いていく。
その時だった。
「いやぁぁぁぁ!」
突然、ミレーヤが目を覚ました。
彼女は怯えたように身体を動かし始める。
ガリックはすぐに彼女を押さえた。
「落ち着け、ミレーヤ! 大丈夫だ! 目が覚めたんだ。俺たちだ!」
数秒間、ミレーヤはガリックの顔をじっと見つめた。
そして、目を大きく見開く。
「ガ、ガリック……?」
彼女は周囲を見回した。
「何が……あったの?」
ガリックは深く息を吐いた。
「長い話になる。だが、まずはここから離れないとな」
するとミレーヤは、リテラとリセラに支えられているレンに気づいた。
彼女の目が大きく見開かれる。
「レン……? あれ……ボロボロじゃない……!」
ガリックは真剣な表情でレンを見つめた。
「レンは……まあ、ある意味では俺たちを助けてくれた」
少し間を置いて、続ける。
「だが、ちゃんと話を聞かないとな。ミレーヤ……本当にいろんなことがあった」
ミコネコは前方へ続く道を見つめた。
「馬車はもうないし……まだ王都までは遠いわね。歩きなら丸一日はかかるかもしれない」
リセラは苦しそうに息を吐いた。
「それ以上かもしれない……。みんな、かなり酷い状態だし……うぅ……」
リテラも荒い息を吐きながら呟く。
「それでも……歩くしかないのかもしれない……はぁ……」
一行は、そのまま歩き続けた。
およそ一キロほど進んだところで、木々に囲まれた道へと辿り着く。
ミコネコは木々の葉が作る影を見上げた。
「少し、あそこで休みましょう」
全員が頷き、その場に腰を下ろした。
ミレーヤの腕には、ミコネコのマントが包帯代わりに巻かれていた。
ミコネコは彼女を見る。
「本当に休んだほうがいいわよ、あなた」
ミレーヤは小さく微笑んだ。
「あ……ありがとう。それと……マント、ごめんね」
ミコネコは肩をすくめた。
「別にいいわよ。クローゼットにまだ何着もあるし。へへ」
レンは地面に横たわったまま、まだ意識を取り戻していなかった。
数秒の間、誰も何も言わず、彼を見つめていた。
最初に口を開いたのはミレーヤだった。
「ここまで来る途中、みんなから何があったのか聞いたけど……レン、本当に大丈夫なのかな?」
リテラは重い表情でレンを見つめる。
「私も……そうだといいと思ってる」
そして、視線を落とした。
「あ、あの時の……あれは……レンには見えなかった」
ガリックは地面に腰を下ろした。
「まあ、誰にだって秘密はある」
そしてレンを見る。
「もしかしたら、レンは自分があんなものに変身できることを、俺たちに話してなかっただけなのかもしれない」
ミレーヤは考え込む。
「もしかしたら……本人も知らなかったのかも……」
リセラが立ち上がった。
「ここでしばらく休むなら、私が薪を集めてくるね」
すると、ミコネコが突然顔を上げた。
「待って……」
全員が彼女を見る。
ミコネコは眉をひそめた。
「今の……何の音?」
全員が静かになった。
そして――
聞こえてきた。
道の向こうから、何かが近づいてくる音。
**パカ……パカ……**
馬の蹄が地面を叩く音と、車輪が土の上を擦る音が混ざっている。
全員が音のする方向へ顔を向けた。
リテラが立ち上がる。
「馬車……?」
ガリックは目を細めた。
「かなり大きそうだな……」
リセラが一歩前へ出る。
「私が助けを頼んでみる」
ミコネコが片手を上げた。
「あら、それなら私が――」
しかし、リセラが遮った。
「みんな怪我してるでしょ。ここは私に任せて」
リセラは道へ向かって歩き出し、一行から数メートル離れた場所で立ち止まった。
馬車はどんどん近づいてくる。
馬たちが大きく嘶いた。
「ヒヒィィィィィン!」
車輪が地面を軋ませながら進み、やがて馬車は速度を落としていく。
そして、リセラの目の前で止まった。
彼女は一度深呼吸してから、馬車へ近づいた。
「こんにちは……。すみません、御者さん。あ、あの……怪我をした私の仲間たちを、どこかの治癒師のところまで乗せていってもらえませんか?」
御者は遠くから、疲れ果て、傷だらけになった一行を眺めた。
そして眉をひそめる。
「うーん……悪いが、これ以上乗せる余裕はない。それに、早く馬の前からどいてくれ」
馬車の横の扉が開いた。
御者は中を覗き込み、慌てた様子で声を上げる。
「ニーナお嬢様、今すぐ馬車の中へ! あいつら、盗賊かもしれません!」
リセラは驚いた。
「えっ……! ち、違います! 私たちは盗賊なんかじゃありません!」
すると、馬車の中から女性の声が聞こえてきた。
「この人たち、困っているように見えるわ。ここに置いていくことなんてできないでしょう?」
御者は不安そうな顔をする。
「で、ですが、お嬢様……」
ニーナは御者の言葉を遮った。
「このことなら、後で父に私から話します。あなたがそれを心配しているのなら、何も責められないようにしてあげるわ」
御者はため息をついた。
「はぁ……分かりました、お嬢様」
リセラは心の中で思った。
*この国の貴族……?*
*普通、貴族の家の馬車なら、もっと大きいものだと思うけど……*
すると、馬車の扉が完全に開いた。
中から一人の少女が姿を現す。
彼女はドレスの裾をそっと持ち上げ、優雅に一礼した。
その立ち姿には、気品と洗練された雰囲気が漂っていた。
「私は、この国の貴族の一つであるリヴェンフォール家の者です。私の名はニーナ・リヴェンフォール。現在の家督継承者であり、リヴェンフォール家第十九代の後継者です」
リセラは感心したように呟いた。
「わぁ……本当に品がある……」
その時、足を引きずりながらミコネコが近づいてきた。
「あら、リヴェンフォール家! こんにちは、私は――」
「**ミコネコ!?**」
ニーナが驚きの声を上げた。
全員が彼女を見る。
ニーナは片手で口元を覆い、気まずそうに微笑んだ。
「あ……ご、ごめんなさい。覚えてる……? 前に私たちの家へ物資を届けに来てくれたでしょう?」
ミコネコはニーナの顔をじっと見つめる。
そして、目を見開いた。
「あなた……あの小さかったニーナ?」
ニーナは小さく笑った。
「もう、そんなに小さくないわよ。ふふ」
そう言うと、ニーナはミコネコへ近づき、彼女の腕を自分の肩へ回した。
「馬車に入りましょう、ミコネコさん。何があったのかは分からないけれど、きっとあなたたちを助けられる人がいるはずよ」
ミコネコは少しためらった。
「あ、ありがとう、リヴェンフォールのお嬢様……でも、私の仲間たちのほうが酷いの。お願い」
ニーナは後ろを振り返った。
そして地面に横たわるレンを見た。
身体中に無数の傷が残っている。
続いて、腕を包帯で巻かれ、ガリックに支えられているミレーヤへ視線を移した。
ニーナの表情が一瞬だけ真剣になる。
「私のことはニーナって呼んで。あなたたちを助けるわ」
ミコネコは笑った。
「あら……ありがとう、ニーナ。でも、そこまでしてもらわなくてもいいわ。どこへ向かっていたの?」
ニーナは答えた。
「セドラン・ヴォルフ王に会いに行くところだったの」
ミコネコが眉を上げる。
「王様に? どうして?」
ニーナの顔が少し赤くなった。
「えっ……。な、何でもないわ。ただ……少し話をするだけ」
ミコネコは意地の悪い笑みを浮かべた。
「あぁ~……本当に大きくなったわねぇ。もう王様に会いに行くなんて。ふふふ」
ニーナは頬を膨らませ、顔を真っ赤にした。
「な、何を言ってるのよ!」
ミコネコは笑う。
「何でもないわよ。ふふ。ありがとう、ニーナ」
ニーナは優しい目でミコネコを見つめた。
「いいのよ。これくらい、どうってことないわ」
それからしばらくして――
一行は全員馬車へ乗り込み、ドレイヴェンフォールの王都へ向かっていた。
ガリックは後部座席に座ったまま、頭を下げる。
「助けていただいて、本当にありがとうございます。貴族のニーナ・リヴェンフォール様」
ニーナはすぐに首を横に振った。
「そ、そんなに堅苦しくしないで。みんな、私のことはニーナって呼んで」
全員が顔を見合わせる。
ニーナは微笑んだ。
「ミコネコの友達なら、私にとっても友達よ。私はミコネコを信頼しているから」
ミコネコは腕を組んだ。
「ちょっと! 私を物みたいに扱わないでよ!」
数秒の沈黙。
そして――
「ハハハハハ!」
一同は笑い始めた。
ミレーヤも微笑む。
「貴族の人が、ここまで自分のスペースを譲ってくれるなんて……ちょっと不思議な感じがするわ」
ニーナは小さく首を傾げた。
「私は別に不思議だとは思わないわ。セドラン王も同じような人よ」
リセラが眉を上げる。
「謙虚な王様? へぇ……」
リテラはニーナを見る。
「どうしてそこまで言い切れるの?」
ニーナの顔が再び少し赤くなり、視線を逸らした。
それを見たミコネコが、にやりと笑う。
「だって、二人とも最近よく会ってるじゃない」
ニーナの顔が耳まで真っ赤になった。
「え、えぇっ!? ミ、ミコネコ! それは言わないで!」
リテラは目を見開いた。
「へぇ……」
全員の視線がリテラへ向く。
ミコネコが首を傾げた。
「何よ?」
リテラは少し考え込む。
「貴族同士の結婚って、家同士の権力や影響力で決められるものだと思ってた……。こういうのは、ちょっと意外」
ミレーヤがリテラを見る。
「でも、あなたとレンは……」
その言葉を聞いたニーナが、すぐにリテラへ顔を向けた。
「え? あなたも王族なの?」
全員が沈黙した。
すると、ミコネコが楽しそうに笑った。
「この子は魔王の娘よ。それで、そこに寝てる全身傷だらけの男が、この子の婚約者。しかも、自分で選んだんですって」
馬車の中に、気まずい沈黙が流れた。
リテラの顔が真っ赤になる。
「こ、この猫ぉ! い、今のは……そ、そういう意味じゃなくて……!」
ニーナは穏やかに微笑んだ。
「さっきも言ったでしょう? あなたたちがミコネコの友達なら、私にとっても友達よ。私は彼女を信頼しているもの」
リテラはため息をついた。
「はぁ……。ありがとう……理解しようとしてくれて……」
ミコネコは満足そうに笑う。
「セドラン王には、私への借りがいくつかあるの。そのうちの一つは、たくさんの食べ物で返してもらう予定よ」
ガリックがミコネコを見る。
「本当に、借りを食べ物と交換するつもりなのか?」
その瞬間――
**グルルルルル……**
ガリックの腹から大きな音が鳴った。
彼はすぐに両手で腹を押さえる。
「くそ……」
リセラが笑った。
「私も何も食べてないよ。ずっと走り回ってたし」
ミコネコはガリックを指差す。
「ほら、あなたのお腹が全部バラしてるじゃない」
すると、前方から御者の声が聞こえてきた。
「もうすぐドレイヴェンフォールに入ります!」
ニーナは一行へ目を向けた。
「お願い。カーテンを閉めて。私がセドランに話して、あなたたちが中へ入れるようにするわ」
ミコネコは悪戯っぽく笑う。
「へぇ~……セドラン? もうそんな呼び方してるの?」
ニーナの顔が赤くなる。
「ちょ、ちょっと、ミコネコ!」
ミコネコは楽しそうに笑った。
「ふふ。私は二人を応援してるからね」
しばらくして――
馬車は門番たちによって止められた。
「止まれ!」
兵士たちが近づき、馬車を確認する。
すると、一人の兵士が中にいる少女を見て気づいた。
「リヴェンフォール嬢。セドラン王との用事があったはずですが……少し遅れていますね」
ニーナは緊張した。
「あ……。ご、ごめんなさい。本当に遅れるつもりはなかったのだけど……」
兵士は馬車の中を覗こうとする。
「他に誰か乗っていますか?」
ニーナの額に冷や汗が浮かぶ。
「あ……その……」
その時――
聞き覚えのある声が響いた。
「彼女を通してやれ」
兵士はすぐに振り返った。
そこにいたのは、セドラン・ヴォルフ王だった。
兵士はすぐに頭を下げる。
「はっ! 陛下!」
馬車が数メートルほど進む。
御者のモーガンが扉を開けようとした。
しかし、ニーナが止める。
「だ、だめ! モーガン、王にここまで来てもらわないと!」
モーガンは困惑する。
「で、ですが……」
ニーナは意を決して叫んだ。
「セ、セドラン王!」
セドランが振り向く。
ニーナは優雅に手を振り、こちらへ来るよう合図した。
セドランは馬車へ歩いてくる。
ニーナは深呼吸した。
「ど、どうか中へ入ってください」
セドランは困惑する。
「え? どうして?」
ニーナは少し俯いた。
「お、お願いします……」
セドランはため息をついた。
「分かったよ」
兵士たちが驚く。
「陛下? なぜ中へ?」
セドランは答えた。
「すぐに済む。ちょっと確認したいことがあるだけだ」
セドランが馬車の扉を開ける。
その瞬間――
彼の目にレンたちの姿が入った。
セドランは固まった。
「ニーナ……これは――」
ニーナはセドランの手を掴み、そのまま馬車の中へ引っ張り込んだ。
「ご、ごめんなさい、セドラン! この人たちは悪い人じゃないの!」
ミコネコが手を上げる。
「やっほー、セドラン! 私のこと覚えてる?」
セドランは額に手を当てた。
「ミコネコ……もちろん覚えてる。今度は何だ?」
ミコネコは仲間たちを指差す。
「この人たちを見て。治癒師を一人お願いしたいの。あなたの借りの一つってことで」
セドランは全員を見回した。
そして、レンへ視線を向ける。
「それにしても……この男、どうしたんだ? まるで有刺鉄線にでも擦りつけられたみたいだぞ」
全員が困惑した。
「有刺……?」
「鉄線……?」
セドランは首を振った。
「いや、忘れてくれ。分かった、俺が手配する」
そして、ニーナへ視線を向ける。
「それと、ニーナ……君がこんなことをするとは思わなかったよ」
ニーナは慌てる。
「ご、ごめんなさい! この人たちが道で私に声をかけてきて、それで――」
するとセドランが笑い始めた。
「ハハハハハ!」
ニーナは黙り込む。
数秒後、不安そうに尋ねた。
「ど、どうして笑うの……?」
セドランは微笑んだ。
「いや……君は、俺が想像していた通りの人だったんだなと思ってさ」
そして腕を組む。
「俺は、君との今までの会い方が全部演技なんじゃないかと少し疑っていた。でも……これで違うと分かったよ」
ミコネコはニーナの腕を軽く突いた。
「ほら、ポイント上がったじゃない」
ニーナは顔を赤くして俯いた。
「うぅ……」
セドランは馬車から降りる。
そして、門番たちへ告げた。
「この馬車をもっと奥まで通してくれ」
兵士の一人――ノリコが驚いた。
「ですが、陛下……」
セドランは答える。
「今はいい、ノリコ。まず、この馬車を中まで入れてくれ」
馬車はそのまま進み、王宮の裏手にある、目立たずに降りられる場所まで移動した。
セドランは一行を見る。
「ここならいいだろう。ここから降りてくれ」
一行が馬車から降り、裏口から王宮内へ入っていく。
その姿を見たノリコは、完全に驚いていた。
「こ、これは……? この人たちは一体……?」
彼女は慌てて振り返る。
「兵士を――!」
セドランが手を上げる。
「必要ない、ノリコ。大丈夫だ。俺が入れていいと言った」
ノリコは信じられないものを見るように王を見つめた。
「で、ですが陛下……この方たちは泥だらけで――」
セドランが遮る。
「アウェレンを呼んでくれ」
ノリコの目が大きく見開かれる。
「アウェレン? 治癒師のアウェレンをですか? こ、この人たちのために?」
セドランは頷いた。
「ああ。頼む」
しばらくして、レンは小さな部屋へ運ばれた。
そして、小さなベッドの上へ寝かされた。
ガリックがレンのそばまで歩み寄り、彼を見つめる。
「今はゆっくり休め、レン」
リテラもベッドのそばに立ったまま、しばらくレンを見つめていた。
そして、小さな声で呟く。
「どうか……ちゃんと元気になって戻ってきて、レン……」
二人はその場を離れ、部屋を出ていく。
扉がゆっくりと閉じられた。
レンはベッドの上で、微動だにしない。
その時――
胸元から、淡い白い光がゆっくりと浮かび上がった。
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### ――レンの意識の中
松田蓮は、何もない空間を漂っていた。
どこへ向かっているのかも分からない。
ただ、何の方向もなく、静かに浮かんでいる。
彼は周囲を見回した。
*……この感覚は、何だ?*
その瞬間――
穏やかな声が、何もない空間に響いた。
「レン……ようやく……見つけた」
レンは驚いて、周囲を見回した。
*誰が俺を呼んだ?*
すると、目の前で半透明の人影がゆっくりと動き始めた。
レンはその姿をじっと見つめる。
だが、何が起きているのかまったく理解できない。
やがて、その人物が口を開いた。
「ここ? 私のことが見える?」
レンは目を擦った。
「だ、誰なんだ……? ここは……どこなんだ?」
その人物はレンを見つめたまま答える。
「リゲルのダイモンのおかげで、どうやらあなたと接触することができたみたい」
レンは困惑した表情を浮かべる。
「リ、リゲルの……ダイモン? 誰だ……?」
すると、その人物はレンへ近づき、彼の腕にそっと触れた。
「松田蓮……あなたと話さなければならないことは、たくさんあるわ」
そして、少し間を置いて続ける。
「でも、まず最初に……あなたは、自分自身を許さなければならない」
レンはわずかに後ずさった。
その顔には、苦しげな表情が浮かんでいた。
彼は何も言わない。
すると、その人物は続けた。
「レン……これは始まり……私たちの関係が……より強くなる……必要……」
しかし、その声は次第に途切れ途切れになっていく。
レンはさらに困惑した。
「わ、分からない……。お、お前……途切れてるのか?」
人物が口を開く。
だが、聞こえてきたのは僅かな言葉だけだった。
「……あなた……無事……気をつけて……オリス……」
レンはただ、その人物を見つめていた。
何を言っているのか、理解できない。
すると、人物はもう一度レンの腕に触れた。
「……地球……」
その瞬間――
レンは突然、目を覚ました。
「ハッ……!」
ベッドの上で、レンは激しく息をしていた。
全身が汗で濡れている。
数秒間、彼は動けずに荒い呼吸を繰り返した。
やがて、ゆっくりと窓へ目を向ける。
太陽はまだ空にあった。
レンは胸元へ手を当てる。
*あれは……何だったんだ?*
そして目を閉じる。
*夢……だったのか?*
その瞬間、あの時の光景が脳裏に蘇った。
自分が変身した、あの異形の姿。
レンの表情が苦しげに歪む。
「……『自分を許す』……?」




