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第31話 ― セドラン・ヴォルフの晩餐

アルテリオン王は、瓦礫の中からゆっくりと立ち上がった。


身体中が埃まみれだったが、あれほどの衝撃を受けたにもかかわらず、まだ立っている。


何が起きたのか理解しようとするかのように、彼は数歩前へと歩いた。


「俺は……吹き飛ばされたのか?」


数秒間、沈黙が続いた。


そして――


「ハハハハハハ! あり得るか、こんなことが!?」


突然、笑い声を上げ始めた。


その視線が、今の攻撃を引き起こした一行へと向けられる。


しかし、彼らの姿はすでにほとんど見えなくなっていた。


「この野郎……絶対に――」


そこで、彼の言葉が止まった。


目が大きく見開かれる。


「……待て」


笑みが、ゆっくりと消えていく。


「ル、ルミナリア……!?」


そこにあったのは、女神ルミナリアの像だった。


――二体。


そのどちらも、完全に破壊されて地面に倒れていた。


王は凍りついた。


「い、いや……嘘だ。嘘だ、嘘だ、嘘だ……! こんなこと、あってたまるか!」


彼は瓦礫へと駆け寄ると、必死になって女神像の破片を拾い集め始めた。


「違う……ここを……こうすれば……!」


割れた破片同士を何とか繋ぎ合わせようとする。


しかし、手が激しく震えているせいで、まともに持つことすらできない。


やがて彼は力尽きたようにその場へ座り込み、両手で頭を抱えた。


「すまない……女神様……」


「すまない……女神様……」


「すまな――」


そこで、言葉が途切れた。


身体が、完全に動かなくなる。


しばらくの間、ただ空を見上げていた。


そして――ゆっくりと目を閉じる。


「そうだ……そうだ。俺ならできる」


再び目を開いた。


そして、立ち上がる。


その表情は、先ほどまでとは完全に変わっていた。


「この侵入者どもは、俺が女神様の名において殺してみせる」


拳を強く握りしめる。


「それが……俺の最後の仕事になったとしてもな」


「今は走るよ!」


ミコネコの声とともに、一行は再び走り始めた。


走りながら、ミコネコは一人一人の様子を確認する。


「そこの体格のいいあなた! 先頭に行って、さっきみたいに空気を殴り続けて!」


「それから、そこの魔族の子! 後ろにいて、あの黒い炎を撃ち続けて!」


そして最後に、フードを深く被っている少女へと視線を向けた。


「それで、いつもフードを被ってるあなたは……何ができるの?」


リセラは少し困ったように答えた。


「わ、私は……暗殺者です」


ミコネコが眉を上げる。


「へぇ、あなたも暗殺者なんだ? じゃあ聞くけど、遠距離攻撃のスキルは持ってる?」


「えっ……あなたも暗殺者なんですか?」


「うん」


「そ、そうですか……。いえ、私は遠距離攻撃のスキルは持ってません」


ミコネコは数秒間考え込んだ。


「じゃあ、あの女の子を運んでる男をお願い。私はみんなの援護をする」


そう言って、前方を指差す。


「ドレイヴンホールドに着くまでは、この陣形で行こう。あそこはここアルテリオンとはかなり違う国だからね!」


レンは荒い息を吐きながら走っていた。


「そこには……医者はいるのか?」


「もちろんいるよ」


ガリックがミコネコを見る。


「別にお前を侮ってるわけじゃないが……そもそも、お前はここで何をしてるんだ?」


ミコネコは、まるで何でもないことのように答えた。


「暇だったから」


全員が沈黙した。


ガリックは数秒間、ミコネコを見つめる。


戦ってない時は……かなり抜けてるな、この人……


それ以上は何も言わず、一行はドレイヴンホールドへ向かって走り続けた。


ドレイヴンホールド王国


レンたちがアルテリオンの領土から逃げ出そうとしている頃――


ドレイヴンホールド王国では、国王セドラン・ヴォルフが婚約候補たちと会う準備をしていた。


そこへ、彼の秘書であるアーサーが現れる。


「陛下、そろそろお時間です」


セドランは深く息を吐いた。


「ああ、そうだったな……。まずはセラフィナ・ヴァーケンタール。その後にエレンウィス・ドレイルモーン、だったな?」


「はい、陛下」


そこでセドランは、もう一人の女性を思い出した。


「そういえば、ニナ・リヴェンフォールもいたな」


「はい。彼女も本日、同席する予定です」


「それならいい。食堂へ行こう。セラフィナを呼んでくれ」


アーサーは小さく一礼する。


しかし、部屋を出る前に尋ねた。


「陛下。いつもの大きな食卓ではなく?」


「いや、いい。彼女にはここで一緒に食事をしてもらう」


セドランは、二人用に用意された小さなテーブルを指差した。


「もう少し……二人きりで話せる雰囲気にしたい」


アーサーは数秒間、セドランを見つめた。


「……珍しいですね。承知しました」


アーサーが部屋を出ていく。


一人になったセドランは、自分の服装を整え始めた。


「しかし……俺、二十歳以来デートなんてしてないんだよな……」


襟元を手で整える。


「それに地球にいた頃は……」


そこで言葉を止めた。


「……あっ、やばい。俺、口臭大丈夫か?」


こっそり手に息を吹きかけて確認する。


「襟も大丈夫。シミもない。匂いも……問題なし」


髪を整える。


「よし。完璧だ」


その時――


扉が開いた。


一人の女性が食堂へ入ってくる。


セラフィナ・ヴァーケンタールだった。


彼女は上品なワインレッドのドレスを身にまとっていた。


腰や袖、襟元には繊細な金色の刺繍が施されており、身体に沿った上半身から、裾へ向かってゆるやかに広がるスカートが優雅な印象を与えている。


胸元には、ヴァーケンタール家の紋章を象った小さなブローチが飾られていた。


長い茶色の髪は丁寧に整えられ、後ろで一部をまとめている。残った髪が、彼女の顔を美しく縁取っていた。


彼女がテーブルの前で立ち止まる。


セドランはすぐに立ち上がった。


「あ、ああ……。こ、こんばんは、セラフィナ……で合ってるよな?」


セラフィナはドレスの裾を少し持ち上げ、優雅に一礼した。


そして椅子へ近づく。


セドランは慌てて椅子を引いた。


「どうぞ、座ってくれ」


セラフィナは彼を見る。


「そこまでしていただかなくても結構です、陛下」


彼女が椅子に座る。


セドランも向かいの席へ戻った。


くそっ……いきなりやらかした気がする……


セラフィナは周囲を見回した。


「ですが、陛下。なぜこのような小さなテーブルを?」


「いや、その……もっと近い距離で話したかったんだ。いつもの食卓は長すぎるからな」


セラフィナは二人の間の距離を見る。


「……私と、もっと近くにいたかったのですか?」


「ああ。こうしたほうが、ゆっくり話せるだろ?」


セラフィナは真剣な表情のままだった。


「ですが、陛下。私たちが話す必要などありません」


「……え?」


「私は陛下にとって最も相応しい候補者です。私の家は、歴代の王家に対して最大限の敬意を払ってきました。我々が結ばれれば、この国はあらゆる面でさらに強くなるでしょう」


セドランは何度か瞬きをした。


「あー……そういうことか。でも、俺のことはセドランって呼んでくれていいぞ?」


「……」


「今日はただの食事なんだ。それに……俺は本当に君自身のことを知りたいと思ってる」


セラフィナは眉をひそめた。


「なぜ、そのようなことを? まさか、私をスパイだと疑っているのですか? それは少々おかしな話ですね、陛下」


「違う! そうじゃない!」


セドランは慌てて手を振る。


「ただ、本当に……これから一生を共にする女性のことを知りたいんだ。二つの家を強くするだけの結婚なんて、それ以上に大きな責任があるだろ?」


セラフィナは黙り込んだ。


そして――


「……ふふっ」


突然、笑い始める。


「アハハハハ! 申し訳ありません、陛下。まさか陛下がこんなに面白い方だとは思いませんでした」


「……」


「『お互いをもっと知りたい』……ですか? ふふっ、アハハハ!」


セドランは俯いた。


「ああ……そうだよな。はは……」


それから数分ほど会話を続けた後、セラフィナは席を立った。


「どうか、よくお考えくださいませ、陛下。私の血筋は正統なものです。先王陛下であれば、きっとヴァーケンタール家をお選びになったでしょう」


「はは……分かったよ、セラフィナ。おやすみ」


「おやすみなさいませ、陛下」


セラフィナが食堂を出ていく。


しばらくすると、使用人たちが入ってきて食器を片付け、新しい料理を運んできた。


セドランはテーブルを見る。


「……俺、ほとんど食べてないんだけどな」


再び扉が開く。


今度は、エレンウィス・ドレイルモーンが入ってきた。


彼女は濃紺の長いドレスを身にまとっていた。


腰や袖には銀色の刺繍が施されており、軽やかな生地が歩くたびに柔らかく揺れる。


胸元とスカートの裾には小さな金属製の装飾があしらわれており、伝統ある貴族らしい雰囲気を醸し出していた。


長い黒髪は下ろしたまま丁寧に整えられ、肩へと流れている。


セドランは再び立ち上がり、椅子を引いた。


「どうぞ、座ってくれ」


エレンウィスは微笑んだ。


「まあ、ありがとうございます、陛下」


彼女が席に着く。


セドランは数秒間、彼女を見つめた。


こっちは……少しまともそうだな……


エレンウィスが眉を上げる。


「……何か?」


「えっ!? ああ! その……髪だよ。黒くて……綺麗だなって」


「まあ。気に入っていただけたのなら嬉しいです、陛下」


彼女は小さなテーブルへ視線を向けた。


「ですが、私はてっきり、いつもの大きな食卓で食事をするものだと思っていました」


「ああ。いや、君のことをもっと知りたかったんだ。こうして目を見ながら話したいと思ってな」


セドランは少し間を置いて続ける。


「俺にとって結婚は、ただ家同士を結びつけるだけのものじゃない」


エレンウィスは静かに拍手をした。


「素晴らしい。素晴らしいお考えです、陛下」


「いや……セドランって呼んでくれていいよ」


二人は食事を始めた。


しばらくして、エレンウィスが何気ない口調で言った。


「私の家は、もっと伝統を重んじる家柄ですから。陛下がお望みなら、いつでも子を作ることができますよ」


「ブッ!」


セドランは噛んでいた肉を勢いよく吹き出した。


「ゴホッ! ゴホッ! ゴホッ!」


エレンウィスが慌てて立ち上がる。


「陛下!? 大丈夫ですか!?」


使用人が慌てて駆け込んできた。


「い、医師を!」


「いらない! いらない! ただ……ちょっと喉に詰まらせただけだ!」


エレンウィスは再び席に座った。


「まあ、陛下。どうかお気をつけください」


セドランは口元を拭いながら、冷や汗を流す。


「ど、どうしてそんなことを平然と言えるんだ?」


「……どういう意味でしょう?」


「子供だよ! 俺たちはまだ知り合ったばかりだろ!?」


エレンウィスは少し首を傾げた。


「ですが、人を知るのに、裸で同じ部屋にいる以上に良い方法などあるのでしょうか?」


「ブッ!!」


セドランはまた料理を吹き出した。


「ゴホッ! ゴホッ! ゴホッ!」


数分後。


エレンウィスが立ち上がった。


「今日は楽しいお話ができました。どうか私をお選びくださいませ」


セドランは椅子に座ったまま、完全に疲れ果てていた。


「はぁ……もう無理だ……」


そこへアーサーが現れる。


「最後の一人です、陛下。最も貧しい貴族――ニナ・リヴェンフォール嬢です」


セドランは深いため息を吐いた。


「ああ……分かった。呼んでくれ」


使用人たちが再び料理を運んでくる。


「彼女を入れてくれ」


扉が開いた。


セドランは椅子に座ったまま、振り返ろうともしなかった。


すると、控えめな声が聞こえてくる。


「こ、こんばんは、陛下。お会いしていただけて嬉しいです」


セドランが振り返る。


その瞬間――


目を見開いた。


口がわずかに開く。


数秒間、何も言葉が出てこなかった。


そこに立っていたのは、ニナ・リヴェンフォール。


彼女は淡い色の質素なドレスを着ていた。


決して豪華なものではなく、長い間使い込まれてきたことが分かる。


スカートには丁寧に縫い合わせた小さな繕い跡がいくつもあり、袖にも長年使われてきた痕跡があった。


高価な宝石も、派手な装飾もない。


ただ、髪の一部を留める小さなリボンだけがあった。


彼女は両手でドレスの裾を握りしめている。


「へ、陛下……?」


ようやく、セドランが口を開いた。


「……綺麗だ」


ニナの頬が、ほんのりと赤く染まる。


セドランは慌てて立ち上がり、彼女のために椅子を引いた。


「すまない。俺としたことが、すっかり礼儀を忘れてた」


「へ、陛下……?」


「今はただの男と女だ。俺のことはセドランって呼んでくれ」


ニナは緊張したように唾を飲み込む。


「ド、ドレスを持ったままの手で……だ、大丈夫です……セ、セドラン……」


彼女は顔を真っ赤にしながら椅子に座った。


セドランも向かい側の席に座る。


心臓が、異常なほど速く鼓動していた。


ごめんな、ユキコ……。こんなことになるつもりじゃなかったんだ。せめて……戻る方法さえ分かれば……


ニナがセドランを見る。


「それで……どうして私を選んでくださったのですか?」


「ああ……そうだな。名前が気に入ったから」


セドランは彼女をもう一度見る。


「でも、こうして実際に会ってみると……君、本当に綺麗だな」


ニナの顔がさらに赤くなる。


彼女は恥ずかしそうに髪を耳へかけ、視線を逸らした。


セドランは食事の手を止めた。


「あっ……ご、ごめん! 今のは、その……言うつもりじゃ……!」


そして突然、テーブルへ額をぶつけるほど深く頭を下げた。


「すまない、ニナ! 気を悪くさせたなら謝る!」


ニナが目を見開く。


「や、やめてください! セ、セドラン、顔を上げてください! 気にしてませんから!」


セドランはゆっくりと顔を上げる。


「そ、そうか……」


そして、照れくさそうに首の後ろを掻いた。


「実は……俺も恥ずかしくなっただけなんだ。嬉しかった」


彼自身も顔を赤くしている。


「えーっと……それで、ニナは何をするのが好きなんだ?」


ニナは少し考える。


「普段は家の手伝いをしています。私たちは、この国で一番……貧しい貴族ですから。ほとんど何でも自分たちでやらなければいけません」


「ああ、そういえば俺も子供の頃――」


セドランは、そこで言葉を止めた。


「……あー、いや。俺も昔は手伝いごっこをしてたんだ。君の生活とは比べものにならないけど……まあ、少しは分かる気がする。はは……」


危なかった……。前世の地球での子供時代まで話すところだった……


その時――


食堂に大きな音が響いた。


「グゥゥゥゥ……」


セドランがニナを見る。


「……ほら。食べていいぞ」


「だ、大丈夫です。お腹は空いていません、セドラン」


再び腹の音が響く。


「グゥゥゥゥゥ……」


セドランは眉を上げた。


「……どうした? どうして食べないんだ?」


ニナは両手をぎゅっと握りしめた。


「セ、セドランは……この食事代を私の家に請求するんですよね?」


「……は?」


セドランは困惑した。


「なんで俺がそんなことするんだ?」


「だ、だって……食事代……」


「ニナ、君は俺の客だ。好きなだけ食べていい」


ニナはセドランを見つめた。


「……本当ですか?」


「ああ。もちろんだ」


そして、優しく笑う。


「今日会った中では、君が一番いい人だと思ってる」


ニナは言葉を失った。


そして――


頬を一筋の涙が伝う。


セドランは驚いた。


ニナは笑っていた。


それでも、涙だけは止まらなかった。


セドランはすぐに立ち上がり、彼女のもとへ駆け寄る。


「どうした!? どこか痛いのか!? 気分が悪いのか!? 俺の専属治癒師を呼ぶ!」


手を上げる。


「治癒――」


「だ、大丈夫です……ぐすっ」


セドランは動きを止めた。


「……どうした?」


ニナは震える声で答える。


「こんなことを言ってもらったの……初めてなんです……ぐすっ」


「いつも……私には何もできないって……言われて……ぐすっ」


セドランの目にも、涙が浮かび始めた。


彼は彼女に近づき、そっと抱きしめる。


「誰かに、自分には価値がないなんて思わせられるな」


そして、静かに続ける。


「それに……俺は君のこと、気に入った」


ニナはセドランの腕の中で、じっと動かなかった。


「俺にとっては、家同士を結びつけるだけじゃ駄目なんだ」


「少なくとも……お互いを好きになることくらいは必要だと思う」


セドランは、自分が何をしているのかに気づいた。


そして慌てて彼女から離れる。


「あっ! ご、ごめん! 許可もなく抱きしめたりして! 俺は何を考えて――」


最後まで言い終えることはできなかった。


ニナが一歩、彼へ近づいた。


その顔が、セドランの顔へ数センチというところまで迫る。


セドランは完全に固まった。


ニナは彼の肩に両手を置き、しばらく互いの目を見つめる。


そして、ゆっくりと離れた。


ニナの顔は耳まで真っ赤になっていた。


「あ、あの……陛下! も、申し訳ありません! 私、出過ぎた真似を……! ど、どうか罰だけは……!」


セドランは何度か瞬きをする。


そして――


笑った。


「落ち着いて。大丈夫だよ……ニナ」


ニナも、恥ずかしそうに微笑んだ。


その笑顔を見た瞬間――


セドランの心臓は、さらに激しく鼓動した。


「あー……それじゃあ、明日もまた会えるか?」


「も、もし……あなたが望んでくださるなら」


「じゃあ、明日の夕食も一緒に食べよう。じゃ、じゃあ……また明日!」


「はい。また明日……」


ニナは食堂を出て、静かに扉を閉めた。


セドランは再び椅子に戻る。


そして――


まるで馬鹿みたいな笑顔を浮かべたまま、そこに座り続けていた。


……何だ、これ? 俺、また青春時代に戻ったのか?


両手で顔を覆う。


「うああ……くそっ! ごめんな、ユキコ!」


ドレイヴンホールドへの逃走


その頃――


セドランが一人でニヤニヤし続けている間に、レンたちはようやくドレイヴンホールドの領土へと入っていた。


全員が疲れ切っている。


ミコネコは大きく息を吸った。


「はぁ……まずはセドラン王に会って、馬車を用意してもらわないとね……ぜぇ……」


レンは、足を引きずるように歩いていた。


「走って……走って……。俺たちって、本当に走ってばっかりだな……ぜぇ……」


ライセラがミコネコを見る。


「王様と話すって……。私たち、もう十分すぎるほど問題に巻き込まれてませんか?」


ガリックも疲れたように息を吐く。


「ここの王様は心優しい人だって聞いたことがある。でも、馬車まで頼むのはさすがに図々しくないか?」


ミコネコは肩をすくめた。


「え? 大丈夫だよ。あの王様、私に借りがあるから」


彼女は遠くの地平線へ目を向ける。


「たぶん二、三日もあれば王都に着くよ。そこには、この国でも最高の医者たちがいるから」


レンは、まだ運ばれているミレリアを見る。


「ミレリア、もう少しだ。すぐに助けてやるからな」


そしてガリックにも目を向ける。


「それに、お前もだぞ、ガリック!」


ガリックは眉をひそめた。


「……俺も?」


「お前の母親がくれたペンダントだ。お前にとって大切なものなんだろ?」


ガリックは笑った。


「お前って、本当にいい友達だよな。疲れないのか?」


そして、少し意味ありげな笑みを浮かべる。


「……それに、レン。お前に話さなきゃならないことがある」


レンは怪訝そうに眉をひそめた。


「俺に話す? 何のことだ?」


ガリックはただ笑って答えた。


「ミレリアの具合が良くなったら、俺たち二人から全部話すよ」


レンはしばらく黙り込んだ。


まだ何のことなのか分からない。


「……分かった。まあ、いいけど」


その時、ガリックが身体を押さえた。


「はは……っ。いてて!」


ライセラがすぐに駆け寄る。


「ガリック! 大丈夫!?」


「平気だ!」


ガリックは再び走り始めた。


「この程度、どうってことない! 毒がまだ少し残ってたって、俺の足を止められると思うなよ!」


そして、自信満々の笑みを浮かべる。


「へっ!」

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