第25話 ― ゴロの疑念
レンたち一行は、レンが正式に紹介されることになっているカエルサル・ヴェイロン城へ向かっていた。
リセラは前方を見つめる。
「もうすぐ着くわ!」
ダルガンは少しためらうような表情を浮かべた。
「本当に戦いにはならないんだな?」
「もちろんよ」
するとシルヴァラがリセラを見た。
「私とミレリアは外で待機した方がいいんじゃない? もし全部うまくいかなかった時に援護できるし」
ダルガンはすぐに頷いた。
「二人が残るなら俺も残る。誰かが二人を守らないとな!」
レンは少し考えた。
「それ、いい考えだと思う」
ゴロはしばらくダルガンをじっと見つめていた。
ダルガンはそれに気づく。
「何を見てる?」
ゴロは落ち着いた口調で答えた。
「私も残ろう。何が起こるか分からないからな」
シルヴァラは眉をひそめ、数秒間ゴロを見つめた。
するとミレリアが口を開いた。
「本当は中に入りたくなかったけど……やっぱり入りたい。私は決着をつけたいことがあるの!」
リセラは彼女を見た。
「決着をつけたいこと?」
レンは何かを思い出したように言った。
「ああ、そうだった。ミレリアの両親は魔族軍に連れ去られたんだよな?」
ミレリアは少しためらいながら頷いた。
「う、うん……わ、私は復讐したい」
リセラは困惑した表情を浮かべた。
「え? 本気でそう思っているの? ここ数年、魔族軍はどこの領土にも侵攻していないわ。それどころか、私たちの方が領土を少し失ったくらいよ」
レンは目を見開いた。
「ほ、本当か?」
ミレリアはレンを見た。
「本気でそんな話を信じるつもり?」
全員がしばらく黙り込んだ。
やがてギャリックがため息をついた。
「いいか。もし戦うことになるなら全員の力が必要だ。でも戦う必要がないなら、それでいい。リセラ、お前はどう思う? レンはお前を信じているが、俺にはそのための作戦がない」
「ギャ、ギャリック?」
レンは驚いて彼を見た。
ギャリックは真剣な表情でリセラを見続けている。
リセラは小さく息を吐いた。
「分かったわ。正直に言うと……全部うまくいかない可能性もある。でも、私がそこにいて盾になれば、誰も死なない。それだけは断言できるわ」
ミレリアは目を細めた。
「どうしてあなたを信用できるの?」
レンはすぐに答えた。
「俺はリセラを信じてる。彼女が本当のことを言ってるって分かるんだ」
ギャリックは小さく笑った。
「なら俺もレンを信じよう。行こう」
するとゴロが言った。
「魔王は私のことを知っている。私は本当に外で待つしかない」
ミレリアは拳を握った。
「レン、私……」
ギャリックは彼女の言葉を遮った。
「ミレリア、お前は外で待て。もっと厄介なのは中の方だと思う」
シルヴァラとダルガンも同時に頷いた。
「私たちも残る」
ギャリックは驚いたように二人を見た。
「冗談だと思ってた。本当に残るのか?」
ゴロは答えた。
「私がいる。大男、お前はあいつらを助けに行け」
シルヴァラは腕を組んだ。
「私とダルガンは一緒の方が戦いやすいの。だから残るわ」
レンは指を折りながら数えた。
「じゃあ、中に入るのは俺、ギャリック、リセラ、それからリセラ!」
リセラは少し目を見開いた。
「あなた……私を数に入れてくれたの?」
レンは笑った。
「一時的でも、もう仲間みたいに思ってるからさ。へへ」
リセラは微笑んだ。
「ありがとう、レン」
ミレリアは地面を踏み鳴らした。
「は、早く行ってよ!」
レンはびくっとした。
「わ、分かった! 今行く!」
レン、ギャリック、リセラ、リセラが城へ向かって歩き出す。
その後ろ姿を見ながら、リセラは心の中で思った。
(レン……もしかして誘惑されてる? 魔王国には禁呪があるって聞いたことがあるけど……)
四人が城門へ近づいていく一方、丘の上ではゴロがダルガンとシルヴァラを静かに見つめていた。
シルヴァラはその視線に気づいた。
「なんでまだここにいるの、おじいさん? 国を率いる立場なんじゃないの?」
ゴロは穏やかに笑った。
「私たちは五人の指導者だ。しかし実際には、一つの存在として動いている。ドラクサルでは種族による差別は存在しない。だからこそ、すべての指導者はあらゆる種族を尊重している」
ダルガンは眉をひそめた。
「だが、あんたは人間だろ」
ゴロは小さく笑った。
「皮肉なものだろう? ふふ。ドラクサルには人間は少ないが、皆とても尊重されている」
それでもシルヴァラの警戒は解けなかった。
「それはいいとして……そんなに長く国を空けていて本当に平気なの?」
ゴロの表情がわずかに真剣になる。
「ああ、問題ない。急いで戻る必要はない。それに、私はレンが必要なんだ。何より、彼は友人たちに何か起こることを望まないだろう」
ダルガンは目を細めた。
「どういう意味だ? 俺たちは出口を守るために残ったんだ」
ゴロは彼を見た。
「ふむ……本当にそうか?」
シルヴァラは眉をひそめた。
「どういう意味?」
彼女は苛立ったように声を強めた。
「何が言いたいの、おじいさん?」
ミレリアは慌てて間に入ろうとした。
「み、みんな、喧嘩しないで! 今は集中しないと!」
ダルガンは拳を握り締めた。
シルヴァラは今にも弓を呼び出しそうだった。
ミレリアは三人を数秒見つめた。
そして叫んだ。
「もうやめて!」
全員が彼女を見た。
ゴロはため息をついた。
「お嬢さん、私は助けようとしているだけだ」
シルヴァラはゴロを指差した。
「この人、おかしいよ、ミレリア! こっちに来て!」
ミレリアは戸惑った。
「ま、待って! ゴロさんはギャリックを助けてくれたし、私たちも助けてくれたよ!」
シルヴァラは首を振った。
「ミレリア、その人の近くにいちゃだめ!」
するとゴロは静かに尋ねた。
「なぜそんなにミレリアを護衛として連れて来ることにこだわった?」
その瞬間、空気が凍りついた。
ミレリアは瞬きをした。
「え……?」
ゴロは他の二人を指した。
「見てみろ。今にも襲いかかりそうな顔をしている。もしかして、自分たちでは私に勝てないと分かっているのか?」
ダルガンはシルヴァラの肩に手を置いた。
「ただ、お前が気に入らないだけだよ、じいさん」
シルヴァラはため息をついて、その場に座り込んだ。
「あなた……変なのよ」
ゴロは笑った。
「素晴らしい、素晴らしい! ははは! 今にも戦いになるかと思ったよ」
ミレリアはため息をついた。
「すごい緊張感だった……」
ゴロは横を向いた。
「どうやら、戦いの方からこちらへ来たようだ」
全員が遠くを見た。
肩まで届く白い髪を持つ男が、ゆっくりと近づいてきていた。
その赤い瞳は不気味に輝いている。
シルヴァラの目が大きく見開かれた。
「う、嘘……そんな……!」
ダルガンも驚いていた。
「吸血鬼だと? 奴らは隠れて生きる種族じゃないのか?」
吸血鬼――リオレンは歩みを止めることなく近づいてくる。
「リセラにこれ以上の邪魔は必要ない。お前たちは速やかに死ぬことになる」
全員が一斉に戦闘態勢を取った。
ミレリアは歯を食いしばる。
「くっ……なんで今なのよ!」
その頃、カエルサル・ヴェイロンの宮殿では、多くの衛兵がレンたちへ槍を向けていた。
リセラは両手を上げた。
「落ち着いて! この人たちは私の客よ!」
一人の衛兵が答える。
「人間はここへ入れません!」
リセラは腰に手を当てた。
「そう? そのうちの一人が私の未来の夫だったら?」
衛兵たちは一瞬沈黙した。
そして、全員が大笑いした。
「ははは! そんな冗談!」
「ははは! 王様に殺されますよ!」
「ははは! 姫様、面白いですね!」
リセラは顔を真っ赤にした。
「どきなさい!」
衛兵たちは慌てて道を開けた。
「わ、分かりました、はは……どうぞ」
彼らが通り過ぎると、一人の衛兵が小声でつぶやいた。
「王様があいつらを追い出すところを見るのが楽しみだな……」
別の衛兵が言った。
「姫様は殺されないだろうけど……いや、どうだろうな?」
数メートル歩いたところで、リセラは振り返った。
「ごめんなさい。あんなことになって」
レンは苦笑した。
「いや、気にしなくていいよ。はは」
リセラは大きな扉を指差した。
「あの扉の向こうがお父様の部屋よ……準備はいい?」
レンは深く息を吸った。
「大丈夫だ」
リセラは扉を見つめた。
「嫌な予感がする」
ギャリックは指を鳴らした。
「まだ本調子じゃないが、逃げるくらいなら問題ない」
リセラは扉の取っ手に手をかけた。
ゆっくりと扉を開く。
全員が冷や汗を流していた。
リセラは少しだけ顔を覗かせた。
「お父様、ただいま!」
カエルサルは彼らを見た。
「なっ……? 人間だと? なぜ人間がここにいる?」
リセラは部屋の中へ入った。
「手短に言うわ。この人がレン。私の婚約者よ」
カエルサルの手からワイングラスが滑り落ち、床に砕け散った。
**カランッ!**
魔王は口を開けたまま、完全に固まっていた。
レンはその反応を見て思った。
(これは……逃げる準備をした方がよさそうだな。まずい……)




