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第23章 ――セドラン・ヴォルフの過去



リセラの言葉に、その場にいた全員が完全に驚愕していた。


最初に反応したのはミレリアだった。


「え、ええっ?! あなたたち、婚約するの?!」


リセラは青い髪の一房を、 nervosamente指先で弄びながら答えた。


「う、うん……でも、一時的なものだから」


リセラはレンを見つめると、明らかに心配そうな表情を浮かべた。


「だ、大丈夫なの、レン?」


レンは肩をすくめた。


「まあ、俺たちは婚約者として振る舞えばいいだけだろ? その後は俺も帰れるんだよな、リセラ?」


リセラは少し気まずそうに、自分の髪を弄り続けていた。


「う、うん……そうだよ」


ゴローはわずかに眉をひそめた。


「ふむ……確か、この国の取り決めはかなり厳格に守られているんじゃなかったか?」


リセラはすぐに答えた。


「だ、大丈夫です。そんなに心配しなくても。紹介が終われば、レンは帰ることができますから」


レンは皆を見回した。


「すぐ終わるって、みんな」


ミレリアは少しだけ頬を膨らませ、不満そうな様子を見せた。


「わ、私も行きたい……」


リセラは驚いたように彼女を見る。


「どうして?」


ミレリアは一瞬だけ視線を逸らした。


「そ、それは……あなたたちの国の習慣を知ってみたいから」


リセラは手を上げた。


「私も行きたいです。もし状況が危険になったら、私が助けられますから」


ダルガンは眉をひそめた。


「お前たちは、頼まれていたことを続けなくていいのか?」


シルヴァラは腕を組んだ。


「そうよ。私たちはあなたたちを助けるために来たんであって、結婚式を見に来たわけじゃないんだから!」


すると、ガリックが提案した。


「二手に分かれよう」


ゴローは眉をひそめた。


「分かれる?」


ガリックは仲間たちを指差した。


「俺とシルヴァラ、ダルガン、ゴローはドラクターへ向かう。レン、ミレリア、リセラは、この婚約の紹介に行くんだ」


ゴローは顎を軽く擦った。


「だが、レンなしで戻るわけにはいかんぞ! 予言者を紹介するにはレンが必要なんじゃ。覚えておるだろう?」


ガリックは目を見開いた。


「ああっ! そうだった! 忘れてた!」


ゴローは数秒間黙った。


そしてレンを見た後、リセラへと視線を移す。


「その婚約の紹介とやらは、姫さん……できるだけ早く済ませてもらいたい」


リセラは頷いた。


「もちろんです。紹介をして、いくつか質問に答えて、それが終わったらすぐに帰ります」


ミレリアとリセラは、二人のやり取りを注意深く見つめていた。


その時、シルヴァラが地面を強く踏み鳴らし、ガリックの前へと立ちはだかった。


「ちょっと! 私たちに命令しないでよ。私たちのほうが強いんだから!」


ガリックは片眉を上げた。


「じゃあ、お前はどうするつもりなんだ?」


シルヴァラは左右を見回しながら、頬を掻いた。


「そもそも、なんであいつらを待つ必要があるの? レンをそのまま連れて帰ればいいじゃない。簡単でしょ?」


誰かが返事をするよりも早く、シルヴァラは驚異的な速度で走り出した。


彼女はレンの腕を掴み、リセラから引き離すように、そのまま引っ張っていった。


しかし、レンが彼女から数メートルほど離れた瞬間――


レンの身体が、突然ぴたりと止まった。


**ドスンッ!**


レンはその場に倒れ込んだ。


シルヴァラは困惑した表情でレンを見る。


「ちょっと! 起きなさいよ!」


リセラは落ち着いた口調で答えた。


「無理だよ……少なくとも、今はね」


そう言いながら、リセラは再び二人のもとへ歩いてくる。


レンは立ち上がると、完全に困惑した様子でリセラを見つめた。


「ええ……なんでこんなことしたんだよ?! 俺、君から離れられないじゃないか!」


ダルガンは目を細めた。


「拘束魔法か?」


ゴローはレンを注意深く観察していた。


「契約魔法に近いな。それに、口頭による確認でも発動できるようじゃ」


シルヴァラは目を見開いた。


「は……? なんてこった……」


レンはため息をついた。


「だから言っただろ。俺は紹介に行かなきゃいけないんだって……」


リセラはミレリアを見る。


「この魔法って、どういうものなの?」


ミレリアが説明する。


「口頭による確認を条件に発動できる魔法契約はいくつか存在します。でも、そんな契約を成立させるには、かなり高度な魔力操作が必要になります……」


リセラは全員を見渡した。


「皆さんも一緒に来てください。もし本当に何か問題が起きたら……その時は走って逃げるしかありません」


レンは目を見開いた。


「待て……『もし何か問題が起きたら』って? でも君は――」


リセラはレンの言葉を遮った。


「落ち着いて、レン。『もし』何かあったらって言っただけだから」


そう言って、リセラは城へ向かって歩き始めた。


レンは慌てて目を見開く。


「ちょ、ちょっと待て!」


ミレリアはガリックを見る。


「ガリック、私たちはどうするの?」


ガリックはため息をつき、数秒間目を閉じた。


そして答えた。


「行こう。結局、レンが必要だからな」


ダルガンは盾を持ち上げた。


「俺も行く。もし何か起きたら、俺の盾に刻印を残した男の力を、この目で見てみたい!」


シルヴァラは腕を組んだ。


「わ、私も行く! 獅子族の仲間を馬鹿にされたままなんて、絶対に嫌だから!」


ゴローは片手を上げた。


「私もしばらくはお前たちと行動しよう」


ガリックは頷いた。


「分かった」


リセラは、すでに歩き始めていたレンを見つめ、静かに呟いた。


「レン……私があなたを守るから」


***


皆がリセラの城へ向かっている一方――


ドラヴェンホールド王国では、セドラン・ヴォルフが一体の大きな像の前に立っていた。


その像は、石から彫り出された神々しい姿の女性を象ったもので、王宮の庭園に置かれていた。


セドランは、ただ黙ってその像を見つめていた。


*女神ルミナリア……あなたは私たち全員を見守ってくださっている。どうか私たちのために祈り、日々、祝福を与えてください。*


しばらくすると、セドランはその場を行ったり来たりし始めた。


「……まだ、どう考えればいいのか分からないな」


すると突然、彼の背後から秘書が現れた。


「何についてお考えなのですか、陛下?」


セドランは小さく飛び上がった。


「ああっ! なんだ、君か……」


秘書は少し困惑したような表情を浮かべた。


「先ほど、何について話されていたのですか?」


セドランは頭を掻いた。


「いや、何でもない。ちょっと独り言を言っていただけだ。それより、今は何か重要な予定が入っているのか?」


秘書は答えた。


「ええと……貴族たちが、次の王について話し合っています」


セドランは歩くのを止めた。


「どういうことだ? 私は王だろう? 病気でも何でもないぞ」


「それが……これまでの王たちは、陛下くらいの年齢になる頃には皆、子供をもうけていたのです。陛下のお父上である先代の王もそうでした」


セドランは考え込んだ。


「そうか……子供か」


そして、ふと一つの考えが浮かんだ。


「じゃあ……『実は私には娘がいる』と言ったらどうなるかな?」


秘書は身体を震わせ始めた。


「ええっ?! 陛下に娘がいるのですか?!」


セドランは慌てて秘書の口を手で塞いだ。


「しーっ! 落ち着け、アーサー!」


アーサーはそれでも何か言おうとした。


「しかし……しかし――」


セドランは彼の言葉を遮った。


「冗談だよ」


アーサーの顔が少し赤くなる。


「あ、あの……陛下。そういう冗談は、もうやめてください……」


セドランは頭を掻いた。


「悪かった。へへっ」


そして再び、女神の像へと視線を戻した。


「まあ、それはともかく……私の治世はまだ終わっていない。私はこの国と、ここに暮らす人々のために、まだまだ改善しなければならないことがある。すべての国民がまともな家を持ち、毎日きちんと食事ができるようにしたい」


アーサーは頷いた。


「は、はい。ですが、一部の貴族たちはすでに陛下の婚約者……つまり、未来の王妃となる女性を何人か選んでおります」


セドランは目を見開いた。


「そこまで決め始めているのか? まったく……」


アーサーは何枚かの書類をセドランへ手渡した。


「明日は、貴族たちの屋敷を訪問していただくことになっています」


セドランは書類に目を通した。


「ああ、そうだったな。ヴァルケンタール家とドレルモーン家だろう?」


アーサーは答えた。


「それから、リヴェンフォール家もございます」


セドランは眉を上げた。


「ほ、本当か? だが、あの貴族たちは……最も質素な暮らしをしている家じゃないか」


「はい。そして、候補として挙げられている女性は、セラフィーナ・ヴァルケンタール嬢です。彼女なら、政治面で理想的な相談役となるでしょう」


セドランはため息をついた。


「それを聞いただけで、もう胸が苦しくなってきた……へへ」


アーサーは続けた。


「二人目の候補は、エレヌウィス・ドレルモーン嬢です。彼女なら、安定と伝統を維持するうえで理想的だと考えます」


アーサーは書類を閉じた。


「それでは、明日、彼女たちとお会いしていただきます」


セドランは顔を上げた。


「待て。リヴェンフォール家はどうなんだ?」


アーサーは数秒間沈黙した。


そして答えた。


「リヴェンフォール家については、陛下が気にされる必要はないかと」


セドランは眉をひそめた。


「それを決めるのは私だ、アーサー」


アーサーは小さくため息をついた。


そして再び書類を手に取った。


「リヴェンフォール家の候補者は、ニナ・リヴェンフォール嬢です。彼女については……目立った情報はあまりありません。ただ、いくつかの穏やかな影響をもたらす可能性がある、といったところでしょうか」


アーサーはセドランを見る。


「まさか陛下……彼女のことを本気で候補として考えているわけではありませんよね?」


セドランは首を横に振った。


「まずは本人たちに会ってみないとな。明日は面白い一日になりそうだ。まあ……」


アーサーは首を少し傾げた。


「陛下?」


セドランは再び女神ルミナリアの像へと視線を向けた。


「そうは言っても、私はこの国の人々のほうが気になっている。だが、もしこれが彼らの助けになるのなら……私もそのために努力しよう」


アーサーは小さく微笑み、軽く一礼した。


「セドラン・ヴォルフ王にお仕えできることを、光栄に思います」


セドランは途端に冷や汗をかき、頭を掻いた。


「あ、ああ……もういいって。アーサー、ちゃんと立ってくれ」


アーサーは扉へ向かって歩き始めた。


「この国に、陛下ほど謙虚な王はいませんよ」


そして扉を閉めると、セドランは女神の像の前に一人残された。


セドランは重いため息を吐いた。


彼は像の前にある階段へ腰を下ろし、数秒間、地面を見つめた。


やがて両手で頭を抱える。


「本当は……話したかった。でも、俺にはこの世界がどういう場所なのかさえ、まだ分からない」


セドランは両手を下ろし、再び像を見つめた。


「答えてくれないか、女神ルミナリア……」


彼は深く息を吸った。


「赤ん坊の頃から、地球で生きていた頃の記憶をはっきり覚えている……両親のこと、仕事のこと、妻のこと……」


声が次第に震え始める。


「娘のことも……」


*ズズッ。*


セドランの目に涙が浮かび始めた。


彼は拳を強く握り締めた。


「家族がいたことを……なかったことになんてできない。それに……この世界は地球じゃない」


セドランはゆっくりと立ち上がり、扉へ向かって歩き始めた。


「少なくとも、あの小さな男の子を避けることはできた……」


セドランは俯いた。


「あの子は野球ボールを取ろうとして、恐怖で動けなくなっていた。でも、その代償として……俺は命を失った」


彼は歩き続けた。


「崖から落ちた後、どうやってここへ来たのかは覚えていない。目を開けた時には……俺は赤ん坊になっていた」


セドランは空を見上げ、涙を拭い始めた。


だが、涙を拭えば拭うほど――


その声は少しずつ震えていった。


「お、俺は……ただ、もう一度みんなを抱きしめたかった……」


セドランは、かつて暮らしていた町を思い出し始めた。


自分の家があった通りの角。


彼は仕事用のバッグを背負いながら、通りを歩いていた。


数分後、ようやく家の前へと辿り着く。


玄関へ近づいた瞬間、中から笑い声と何かが落ちる音が聞こえてきた。


セドランは笑った。


「ああ、また散らかしてるのか? ははは!」


彼は玄関の扉を開けた。


「ただいまー!」


するとすぐに、妻の声が聞こえてきた。


「おかえりー!」


セドランは靴を脱ぎ、家の中へ入った。


「今日はどうだった、ユキコ?」


彼女は穏やかに答えた。


「いつも通りよ。タケオならアオイと一緒に二階にいるわ」


「ああ、そうか。じゃあ、ちょっと驚かせに行ってくるか」


ユキコは彼を見て笑った。


「驚かせるのもほどほどにしてね。あの子、まだ六歳なんだから……」


「大丈夫だって。俺に任せてくれ」


セドランはゆっくりと階段を上り始めた。


足音を立てないように、一歩ずつ慎重に足を運ぶ。


アオイの部屋へ辿り着くと、中から男の子の声が聞こえてきた。


「僕のミニカーのほうが、その人形よりずっと速いんだから!」


すぐに、少女の声が返ってきた。


「そんなことないもん!」


セドランは笑いを堪えながら、扉を少しだけ開け、中を覗いた。


そこでは、七歳のタケオが床に膝をつき、小さな玩具の車を走らせていた。


「僕の車なら、あの壁までお前の人形よりずっと速く着くぞ! ほら、こんなに速――」


突然、部屋中に大きな音が響いた。


**バンッ!**


人形が壁に叩きつけられたのだ。


タケオは完全に驚いていた。


一方、アオイは腕を組み、誇らしげな笑顔を浮かべている。


「ほらね? 私の人形のほうが速いでしょ!」


タケオはすぐに立ち上がった。


「そ、それは反則だよ! 投げたじゃん!」


その瞬間、扉が完全に開いた。


セドランはもう笑いを堪えることができず、声を上げて笑った。


「はははは! まさかこんな展開になるとは思わなかったぞ!」


少女は彼を見ると、大きな笑顔を浮かべた。


「パパ!」


タケオも笑顔になる。


「サカモトさん!」


アオイは少年を見ると、言った。


「タケオくん、私のお父さんのことはヒロシって呼んでいいんだよ」


セドランはまだ笑いながら、タケオを指差した。


「いや、アオイ。今回はタケオの言ってることが正しいぞ」


少女は不思議そうな顔をした。


「そうなの?」


セドランが答えるより先に、廊下からユキコの声が聞こえてきた。


「おやつできたわよー!」


その瞬間、タケオが勢いよく部屋から飛び出していった。


「わーい! おばちゃんのおやつ、最高!」


セドランは走り去っていく少年を見ながら笑った。


アオイもその後を追いかけるように走っていく。


セドランはその場に数秒間立ったまま、娘の後ろ姿を見つめていた。


そして、心の中で呟いた。


*もうすぐ、アオイの七歳の誕生日プレゼントを完成させるからな……*


その記憶は、ゆっくりと消えていった。


子供たちの声。


笑い声。


あの家。


そのすべてが、少しずつ遠ざかっていく。


そして――


セドランは現実へと戻った。


彼はしばらくの間、空を見上げていた。


そして、悲しげな笑みを浮かべながら呟いた。


「あの頃の俺の名前は、坂本ヒロシだった。この世界では……セドラン・ヴォルフという名前を聞きながら成長してきた」


「お、俺は……みんなが恋しくて仕方ないよ……」


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