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第22話 ―― 同盟者たちの戦い

レンとリュセラは、レンが診療所の場所だと言っていた場所へ向かって馬を走らせていた。


数分間、二人の間に沈黙が続いた。


やがて、リュセラがその沈黙を破った。


「その友達って、よっぽど大切な人なのね」


レンは彼女を見る。


「そうだな……。俺がここに来てから、ずっといろいろ助けてもらったんだ。ミレリアにも。リセラにも」


リュセラは片眉を上げた。


「ふーん……。その二人もあなたの友達なの?」


「もちろん。どうして?」


「別に」


レンは小さく笑った。


「二人も仲良くなれたらいいんだけ――」


ヒュンッ!


突然、巨大な矢がどこからともなく飛んできた。


その矢はレンの服の襟を正確に捉え、そのまま馬上からレンを引きずり落とした。


「うぐっ! またかよ!?」


レンは地面に叩きつけられ、そのまま何度も転がってからようやく止まった。


「えっ!? レン!?」


リュセラが反応する暇もなかった。


ドゴォン!


強烈な衝撃が彼女の乗っていた馬を襲い、リュセラも地面へと投げ出される。


レンはすぐさま立ち上がった。


「リュセラ!」


そして、彼は目にした。


リュセラの脚には、一本の矢が突き刺さっていた。


(……でも、いったいどこから――)


「レェェン! そこから離れて!」


レンは必死に声の聞こえた方向を探した。


その声は、木々と丘の向こうから響いてきていた。


そしてレンは、丘の頂上に立つミレリアの姿を見つけた。


その隣には、一人の少女が立っていた。


少女は巨大な弓を構え、すでにリュセラへと狙いを定めている。


リュセラは自分の脚に刺さった矢を見下ろした。


そして、ためらうことなく一気に引き抜いた。


傷口はみるみるうちに塞がっていき、レンの目の前で完全に治癒していく。


リュセラは顔を上げ、丘の上にいる一行を睨みつけた。


「見えてるわよ! 何が目的なのか知らないけど……私を怒らせたわね!」


レンは目を見開いた。


「待て、リュセラ! 俺はあの中に知ってる人が――」


しかし、リュセラの耳にはもう届いていなかった。


彼女はそのまま丘へ向かって駆け出した。


「レンは自分の身を守って! それか、私を手伝って!」


次の瞬間。


リュセラはミレリアとシルヴァラの目の前に現れた。


シルヴァラは笑みを浮かべた。


「あなたの出番よ、デカブツ!」


ドゴォン!


地面が爆発するように盛り上がった。


その中から、二枚の巨大な盾を構えたダルガンが姿を現す。


「捕まえたぞ!」


リュセラは片手を前へ突き出した。


「黒炎!」


ゴォォォッ!


紫色の炎が一気に爆発し、周囲を包み込む。


炎はその進路にあるすべてを焼き尽くしていった。


しかし、リュセラはすぐに異変に気づいた。


ダルガンが立っている場所だけが、黒炎に完全に侵食されずに残っていたのだ。


リュセラは目を細めた。


「あなた……これを弾き返せるの?」


その瞬間。


リュセラは何かの気配を感じ取った。


目を見開く。


そして、雷のような速度でその場から離れた。


彼女がいた場所には、まるで本人と見分けがつかないほど精巧な分身だけが残されていた。


ザシュッ!


その直後、リセラが分身の背後に現れた。


彼女は分身の首を掴み、ナイフで首を斬りつける。


「リュセラ!」


レンは目を見開いた。


「ま、待ってくれ! みんな!」


リセラはレンを見る。


「レン? どうしたの? 私たちはあなたを助けようと――」


ドゴッ!


突然、拳が彼女の腹部を直撃した。


リセラの身体が吹き飛ぶ。


その前には、拳を突き出したリュセラが立っていた。


レンは目を見開く。


「も、もういい! みんなやめろ!」


レンはリュセラへ向かって走った。


「やめろ! やめろって!」


リュセラはレンを見る。


「レン、こいつらが誰なのか私は知らない。でも、こいつらは私たちを殺そうとしてる!」


「やめろぉぉぉ!」


レンの叫び声が、その場全体に響き渡った。


リュセラは目を見開き、レンをまっすぐ見つめた。


その時だった。


彼女の視界に、猛烈な速度で近づいてくる光が映った。


(くそ……あんなにデカい矢を……?)


レンが叫ぶよりも早く、シルヴァラはすでに矢を放っていた。


巨大な矢が、異常な速度でリュセラへ向かって飛んでくる。


リュセラは両腕を身体の前へ出した。


(速い……!)


彼女は目を閉じ、特に腹部を守るように身を固めた。


そして――


ドゴォォォォォン!


凄まじい爆音が周囲に響き渡った。


リュセラはゆっくりと目を開けた。


その目の前に、レンが立っていた。


拳は固く握り締められている。


そして、巨大な矢は真っ二つに叩き折られ、数メートル後方の地面に転がっていた。


リュセラは、しばらくレンを見つめていた。


その顔に浮かんでいた怒りの表情は、彼女がこれまで見たことのないものだった。


「レ、レン……」


レンは彼女を見る。


やがて、その表情が少しずつ和らいでいく。


「ちょっと待ってくれ」


レンは振り返り、仲間たちへ向き直った。


「攻撃しないでくれ!」


ミレリアは完全に言葉を失っていた。


「今の……素手で防いだの……?」


ガリックは小さく笑った。


「レンは強いだろ? 忘れたのか? へへ」


シルヴァラは目を見開いたまま、レンを見つめている。


「こいつがレン……? 今の力はいったい何なの? それに、どうやって私の矢を……」


ダルガンもレンを注意深く観察していた。


「ここまでのことをできる者は、そう多くない……。俺も興味が湧いてきた」


全員がゆっくりとレンたちへ近づき始める。


リュセラはレンを見る。


「レン? あなた、この人たちを知ってるの?」


「何人かは俺の友達だ。でも……あの二人が誰なのかは知らない」


ガリックがゆっくりとレンへ歩み寄った。


「レン! 無事だったんだな!」


レンは目を見開く。


「ガ、ガリック!? 歩けるのかよ!? ああ……よかった!」


リュセラはガリックを見る。


「この人がガリック? それで、どうして私たちを攻撃したの? もしレンがいなかったら……」


シルヴァラが口を挟んだ。


「どうして、その魔族を助けたの?」


レンは数秒間、シルヴァラを見つめた。


すると、ガリックが二人の新しい仲間を指差した。


「ああ、レン。この二人はダルガンとシルヴァラだ。二人とも《獅子のギルド》の最高戦力だ」


レンは二人を見る。


「へぇ……」


シルヴァラは腕を組んだ。


「答えて、レン。あなたの名前はレン……それで合ってるわね?」


レンは彼女を見つめた。


(……ってことは、さっきの矢はこいつが撃ったのか?)


そしてダルガンを見る。


(それに、あっちの男は……なんか戦車みたいだな……)


そこでリュセラが口を開いた。


「私はレンを友達のガリックに会わせるために連れてきたの。でも、彼が無事なら、もうここに来る必要はないわね」


ミレリアは目を見開いた。


「え……ほ、本当?」


レンは頷いた。


「ああ。俺は別に危険な目には遭ってなかった。でも……みんなに会えてよかったよ」


全員が少しずつレンたちへ近づいていく。


リセラが笑顔を浮かべた。


「じゃあ、帰ってもいいんだよね?」


その時だった。


少し離れた場所から、別の声が響いてきた。


「おやおや……これはこれは。まさか、魔王国の姫君がいるとはね」


全員が驚いて声のした方向を見る。


そこには、少し離れた場所にゴロが立っていた。


レンは拳を握り締めた。


歯も強く食いしばる。


額には血管が浮かび上がった。


そして――


たった一度の跳躍で、レンの姿がその場から消えた。


次の瞬間。


レンはゴロの目の前に立っていた。


「このクソ野郎がぁぁぁ!」


ゴロは無表情のままだった。


レンはゴロの顔面へ向けて、拳を振り抜く。


しかし――


ガキィン!


ダルガンがゴロの前へ現れた。


その巨大な盾が、二人の間に割り込む。


レンは目を見開いた。


(くそっ! 間に合わない!)


レンは目を閉じた。


ドゴォォォォォン!


レンの拳が、金属製の盾へ激突した。


凄まじい衝撃波が周囲へ広がり、辺り一帯が激しく震える。


その反動で、レンの身体が数歩後ろへ押し戻された。


レンが目を開く。


そして、完全に動きを止めた。


ダルガンの背後に広がっていた景色が変わっていた。


先ほどまで、そこには葉のない木々が何本も立っていた。


しかし今は――


盾の後方へ向かって、岩と土が破壊されながら一直線に伸びた跡だけが残っていた。


ダルガンの後ろにいたゴロは、その光景を興味深そうに眺めている。


「素晴らしい……なんという力だ」


ダルガンは汗を流していた。


「こいつ……俺を五メートルも押し込んだのか……?」


シルヴァラはダルガンの盾をじっと見つめていた。


(……ダルガンの盾が……へこんでる? ほんの少しとはいえ……)


リュセラも完全に驚いていた。


「す、すごい……」


そして、すぐに心の中で思った。


(あ、あんな一撃……私なら死んでた……)


レンはダルガンを見る。


「なんで、こんなクソ野郎を守ったんだ?」


ダルガンは眉をひそめた。


「何を言っている? 彼は《多種族王国》の指導者の一人だぞ」


レンは目を見開いた。


「え……?」


するとガリックが口を開いた。


「信じられないかもしれないけど、俺に解毒薬を渡してくれたのは、リセラより先に彼だったんだ。もし彼がいなかったら……俺は死んでいたかもしれない」


レンは完全に信じられないという顔をした。


「そ、そんな……嘘だろ……!」


リセラとミレリアが同時に答える。


「本当だよ、レン!」


レンは拳を握り締めながら、地面を見つめた。


(でも……どうしてだ? こいつは俺たちを殺しかけたんだぞ……!)


その時。


誰かが近づいてくる足音が聞こえた。


レンはゆっくりと顔を上げた。


ゴロがレンへ向かって歩いてきていた。


二人は正面から向かい合う。


ゴロの真剣な瞳と、レンの瞳がぶつかり合った。


数秒間。


二人は何も言わなかった。


そして、ゴロはレンの前で頭を下げた。


「……すまなかった」


その場を沈黙が包み込む。


誰も何を言えばいいのか分からないようだった。


レンは黙ったままだった。


ゴロは続ける。


「君たち全員をここへ連れてくるためには、以前にも話したように、正当な理由が必要だった。君たちを敵に回すつもりなどなかった」


ゴロが少しだけ顔を上げる。


すると、リュセラが一行を見回した。


「悪いけど……私はあと数時間、レンを連れて行く必要があるの」


ミレリアは困惑した。


「え? どうして?」


リセラがリュセラを見る。


「二人……仲良くなったの?」


リュセラは笑った。


「うーん……それ以上かな」


そして、何でもないことのように続けた。


「私とレンは、魔王様の前で婚約者として振る舞うことになってるの」


数秒間。


誰も何も言わなかった。


そして――


「「「婚約者ぁぁぁぁ!?」」」


一方その頃。


そこから遥か遠く離れた場所で――


あらゆるものよりも高い場所。


風に揺れる葉の音だけが静寂をわずかに破る、そんな場所に、一人の女性が小さな東屋の下で座っていた。


そこは庭園の中心。


まるで現実のものとは思えないほど美しい庭だった。


彼女の衣服さえも柔らかな光に包まれており、周囲の花々や植物の中で、その存在はひときわ際立っていた。


女性は楕円形のテーブルの前に座っていた。


足を組み、片手を優雅に顎へ添えながら、庭園の大きな門を見つめている。


しばらくの間、すべてが静寂に包まれていた。


やがて、柔らかな足音が道の向こうから響いてきた。


木々の間から、一人の執事が姿を現した。


白い髪は、彼の白く輝く肌と同じように淡い光を反射している。


本物の執事のように上品な服装を身にまとい、ティーポットとカップを乗せたトレイを手にしていた。


執事は急ぐことなく女性のもとへ近づく。


そして、テーブルの上へトレイを置いた。


「お茶でございます。どうぞお楽しみください」


女性は門から視線を外し、わずかに微笑んだ。


「ありがとう」


執事は正確で優雅な動作で紅茶を注いだ。


その後、彼女の隣に立った。


「本日は何をなさるおつもりですか?」


女性はカップの中の液体を数秒間見つめた。


「ここへ、もっと多くの存在を連れてこようと思っているの」


「何か問題でも?」


女性の笑みが消えた。


「あの人がここへ入ってきてから……この場所のエネルギーが変わったの」


彼女は庭園へ目を向ける。


「まるで、何かが本来あるべき場所からずらされたみたい。そして、なぜか彼は……私がここに作り出したエネルギーを吸収していない」


執事は黙っていた。


そして片手を顎へ添える。


「ふむ……興味深いですね」


女性はゆっくりと彼へ視線を戻した。


「興味深い?」


「あなたはこの場所の中心です。ここに存在するすべては、あなたが存在を許しているからこそ存在している」


彼は一拍置いた。


「それなのに……あなたの制御から外れているものがある」


女性の目が冷たくなる。


「何が言いたいの?」


執事は控えめに微笑んだ。


「いえ、特に何も」


「ふん……」


彼女は再び門へ視線を戻した。


二人の間に、しばらく沈黙が流れる。


やがて、執事が尋ねた。


「それで……地球のダイモンとは連絡が取れましたか?」


女性の表情が一瞬で変わった。


「地球のダイモンが、上層部から自分自身を遮断する許可を得ていることは、あなたもよく知っているでしょう」


彼女はカップを握る指に、わずかに力を込める。


「彼は自分自身を守った……そして、自分の惑星も」


「はい」


執事の声は相変わらず穏やかだった。


「ですが、私の知る限り……あなたの世界には、あの惑星の人間が一人いるはずです」


女性は目を細める。


「……あの人間を利用するつもり?」


「彼こそ、あの惑星へアクセスするための唯一の手段です」


女性は数秒間、沈黙した。


そして尋ねた。


「どうして、そこまであの場所へのアクセスに執着するの?」


執事は答えなかった。


沈黙が長く続く。


女性はゆっくりと顔を彼へ向けた。


「質問に答えて」


執事はようやく目を上げた。


「……あなたがあの人間を説得してくださるのなら、お答えしましょう」


彼女の紫色の瞳が、まっすぐ彼を見つめる。


数秒間。


二人は何も言わなかった。


やがて女性が小さくため息をついた。


「分かった。可能になったら、ここへ連れてくるわ」


執事の口元に、控えめな笑みが浮かんだ。


「素晴らしいことでございます、マダム」


しかし女性は満足していなかった。


「でも……あの人には何かおかしなところがある」


彼女は再び門へ目を向ける。


「私の世界に彼が存在していることは感じられる……でも、どこにいるのか分からない」


執事は考え込んだ。


「彼から発せられるエネルギーは……我々のものとよく似ています」


女性はわずかに笑った。


「彼はただの人間よ」


紫色の瞳が細くなる。


「人間がダイモンと同等になるなんて、ありえないわ」


執事はただ答えた。


「……かもしれません」


そして、短く間を置く。


「確かめる必要があるでしょう?」


女性は答えなかった。


ただカップを口元へ運び、もう一口、紅茶を飲んだ。


「ん……」


彼女は少し顔をしかめた。


「冷めてる」


そして、控えめな笑みを浮かべる。


「あなたと話していると、時々時間が経つのが早いわね」


彼女は片手を上げた。


その指先を、柔らかな光が走る。


その瞬間。


カップから細い湯気が立ち始めた。


冷めていた紅茶が、再び温かくなっていく。


彼女はもう一口飲む。


その瞳を一瞬閉じた。


「完璧」


そして目を開き、執事を見つめる。


「どうして、ここ以外ではあなたの居場所を感じ取れないの?」


執事の笑みは消えなかった。


「私のことはご心配なさらずに」


彼は軽く一礼する。


「必要な時には、いつでもここにおります」


女性は眉をひそめた。


「どうして私が、そんなにあなたを必要とするの?」


彼女は周囲を見回す。


「ここは私の世界よ。私がすべてを作ったの」


執事はゆっくりと顔を上げる。


「あなたには……私が必要になるかもしれません」


一拍。


「……信じてください」


彼女の視線が険しくなる。


「あなたの言葉は、あまり安心できるものではないわね、ノクティレン」


その瞬間。


執事は完全に動きを止めた。


そして――


彼の瞳が変化した。


先ほどまで存在していた穏やかな雰囲気が消える。


そこに残ったのは、完全なる黒。


まるで目など存在していないかのように。


ただ、彼女を見つめ返す深い深淵だけがそこにあった。


「私は、あなたの味方です」


声は穏やかなままだった。


「私を信じてください」


女性は答えなかった。


ただ、彼を見つめ続ける。


すると、ノクティレンの身体がゆっくりと形を失い始めた。


最初に足元が消える。


次に、脚。


そして身体全体が、まるでその世界から消去されていくかのように、ゆっくりと黒い霧へと変わっていく。


数秒後。


彼の姿は完全に消えた。


庭園は再び静寂に包まれた。


女性はその場に残り、ノクティレンが立っていた場所をじっと見つめていた。


やがて、彼女は再びカップを手に取る。


紅茶を一口飲む。


その紫色の瞳は、何もない空間へ向けられたままだった。


「……あの男、絶対に私に何か隠しているわね」


彼女はゆっくりとカップを下ろす。


そして、唇に小さな笑みを浮かべた。


「でも……いったい何を隠しているのかしら?」

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