第11話 ―― 松田蓮の記憶
レンはリセラと並んで階段を上り、客室へ向かった。
数段歩いたところで、彼は彼女の方を見て小さく微笑む。
「さて……まだ少し早いけど、そろそろ休んだ方がいいな。明日は長い道のりになるし」
リセラは静かにうなずいた。
「はい、レン」
控えめに微笑みながら言う。
「さっき外で話を聞いてくれて、ありがとうございました」
レンは首を横に振った。
「いや、気にしなくていい」
ふと、彼の視線が彼女の顔を覆っている布へ向く。
深く考えることもなく、思ったことをそのまま口にしてしまった。
「でも……たまには、その布を外してもいいんじゃないか?」
リセラは驚いたように瞬きをした。
レンは少し照れくさそうに続ける。
「君は綺麗なんだから……そんなに他人の目を気にしなくてもいいと思う」
廊下に、不思議な沈黙が流れた。
リセラはその場で固まったまま動かない。
数秒後――
「……え?」
レンは目を見開いた。
(しまった……)
「あ、あっ! ご、ごめん!」
恥ずかしさをごまかすように後頭部をかく。
「その……前に少しだけ君の顔が見えて……」
慌てて視線を逸らした。
「ああ……今のは忘れてくれ」
一つ息をつく。
「おやすみ」
返事を聞く前に、自分の部屋へ入り、慌てて扉を閉めた。
背中を扉に預ける。
目を閉じる。
(何やってるんだ、俺……)
(なんであんなこと言ったんだよ……)
扉の向こうから、優しい声が聞こえてきた。
「おやすみなさい、レン」
少し間を置いて――
「ありがとうございました」
レンはゆっくりと目を開く。
床を見つめたまま、リセラが廊下を歩き去っていく足音を聞いていた。
やがて長いため息をつく。
ゆっくりとベッドまで歩き、腰を下ろした。
肘を膝につき、両手を組んだまま、扉を見つめ続ける。
(この状況……)
(初めて美咲と大学へ行った日のことを思い出すな……)
(結局、俺は途中で辞めてしまった大学だけど)
……
記憶がゆっくりと蘇る。
レンはアイロンのかかったシャツを着て、大学の正門前を落ち着きなく歩き回っていた。
(くそ……)
(緊張する……)
(結局、俺たちは同じ大学に通うことになった)
(美咲は第一志望に合格したんだ)
その時、外から明るい声が聞こえた。
「まーつだーーー!」
レンは勢いよく振り向く。
新井美咲がこちらへ歩いてきていた。
十八歳になったばかりの少女。
長い金色の髪が歩くたびに柔らかく揺れている。
白い長袖ブラウスを紺色のハイウエストスカートに軽くインし、そのスカートは膝より少し上まで伸びていた。
肩には丁寧に畳まれたベージュのジャケットを掛け、足元には落ち着いた茶色の革靴。
派手ではない。
それでも、思わず目を奪われるほど上品な雰囲気をまとっていた。
レンは完全に立ち尽くす。
目を大きく見開いたまま。
美咲は首を少し傾けながら近づいてくる。
「松田?」
にっこりと笑う。
「どうしたの?」
レンは慌てて首を振った。
「あ、あっ……」
「いや……」
頭をかく。
「その……」
照れ笑いを浮かべる。
「そんなにおしゃれする人だったなんて知らなかった」
美咲はくすっと笑った。
そして彼の腕を軽く叩く。
「当たり前でしょ?」
「まさか高校の制服を一生着ると思ってた?」
レンも小さく笑う。
「はは……」
そして、思わず小さく呟いた。
「すごく……綺麗だ」
美咲の足が止まる。
真っ直ぐレンを見つめた。
レンは一瞬で青ざめた。
「あ、あっ!」
「いや、その……!」
「すごく似合ってるって意味で!」
美咲は髪を指先で遊ばせながら、再び歩き出す。
「ねえ……」
レンは彼女を見る。
「ん?」
美咲は前を向いたまま言った。
「私たち、もう付き合って一年になるよね」
優しく微笑む。
「そろそろ名前で呼び合ってもいいんじゃない?」
少しだけ顔を向ける。
「そう思わない?」
レンの額に汗が浮かぶ。
「も、もちろん……」
深呼吸する。
「あ、新井……」
美咲はぴたりと止まった。
信じられないという顔で彼を見る。
レンも固まる。
(やっちまったぁぁぁぁ!!)
(また新井って呼んだぁぁ!!)
すると、小さな笑い声が聞こえた。
「ふふっ……」
口元に手を添えながら笑う。
「レンって……」
「たまに可愛いよね」
「はは……」
それから、ほとんど無意識のうちに小さく呟いた。
「……本当に綺麗だ。」
美咲はぴたりと足を止めた。
そして、まっすぐ蓮を見つめる。
蓮は一瞬で顔色を変えた。
「あ、あっ!」
「い、いや、その……」
「あの……すごく似合ってるっていう意味で!」
美咲は髪の一房を指先でくるくると弄びながら、再び歩き始めた。
「ねぇ……」
蓮は彼女を見た。
「ん?」
美咲は歩きながら続ける。
「もう私たち、一年付き合ってるんだよ?」
控えめに微笑む。
「そろそろ……」
少しだけ顔を横へ向けた。
「名前で呼び合ってもいいんじゃない?」
蓮の額に汗が浮かぶ。
「も、もちろん……」
深く息を吸い込んだ。
「あ、あらい……」
美咲はその場で立ち止まった。
信じられないというような表情で蓮を見る。
蓮は完全に固まった。
(あああああ!!)
(また『新井』って呼んじゃった!!)
その直後、小さな笑い声が聞こえた。
「ふふっ……」
美咲は口元に手を添える。
「蓮って……」
「たまに可愛いよね。」
蓮の顔は真っ赤になった。
「か、可愛い?」
美咲は歩きながら、そっと蓮のシャツの袖をつまむ。
「卒業したら……」
前を見つめながら尋ねた。
「蓮は何がしたい?」
蓮は少し考えてから答える。
「そうだな……」
ゆっくり息を吐いた。
「マーケティングの仕事に就いて……」
「ちゃんと稼げる会社に入って……」
照れくさそうに笑う。
「それから……」
「二人の将来を考えたいかな。」
美咲はぴたりと足を止めた。
そのまま蓮を見つめる。
まるで時間が止まったかのように。
蓮は一気に慌て始めた。
「あ、あっ!」
両手をぶんぶん振る。
「い、いや!」
「美咲が聞いたから答えただけで!」
「その……ごめん!」
美咲は手を口元に当てた。
瞳がきらきらと輝く。
「ふふ……」
嬉しそうに微笑む。
「つまり……」
「私と一緒に住みたいってこと?」
蓮は勢いよく顔を逸らした。
耳まで真っ赤になっている。
「う、うるさい……」
美咲は声を上げて笑う。
「ふふっ。」
「その言葉、一生忘れないからね。」
蓮も思わず笑ってしまう。
「す、好きにすればいいさ……」
美咲は優しく微笑んだ。
蓮もまた、小さく笑う。
そして二人は並んで大学の門へと歩いていった。
……
記憶はゆっくりと消えていく。
蓮は再び酒場の部屋へと意識を戻した。
まだベッドに腰掛けたまま。
(あの頃はいろんな夢があった……)
(マーケティングを卒業して……)
(美咲と一緒に働くつもりだった。)
(美咲はファッションデザインを卒業したんだ。)
部屋は静まり返っていた。
蓮はゆっくり立ち上がる。
静かに部屋の中を歩き始めた。
(美咲のことを思い出すと……)
(いつも一緒に、いろんな記憶まで蘇ってくる。)
(父さんはいつも俺と灯花を励ましてくれていた。)
(俺が十六歳の頃……)
(母さんの乳がんはきっと治るって、何度も言っていた。)
蓮は壁の前で立ち止まる。
ゆっくり額を壁につけた。
かすれるような声が漏れる。
「母さんの葬式を見た時……」
目を閉じる。
「想像していたより……ずっと苦しかった。」
そのまましばらく動かなかった。
やがて力が抜けるように壁にもたれたまま床へ座り込む。
(あの時、俺は二十歳。)
(灯花は十七歳だった。)
(父さんを見つけた時……)
(手首を切っていた。)
……
再び記憶が蘇る。
蓮は家の玄関を開けた。
「ただいま……」
返事はない。
キッチンでは灯花が食卓に座り、
虚ろな目で前だけを見つめていた。
現在へと意識が戻った。
レンはまだ宿のベッドに腰掛けたままだった。
「俺には、たくさんの夢があった……」
「マーケティングを卒業して……」
「ミサキと一緒に働くはずだった。」
「彼女はファッションデザインを卒業できた。」
部屋には静寂だけが流れていた。
レンはゆっくり立ち上がる。
静かに部屋の中を歩き始めた。
「ミサキのことを思い出すと……」
「いろんな記憶が一緒によみがえってくる……」
「父さんはいつも俺とトウカを励ましてくれた。」
「俺が十六歳だった頃……」
「母さんの乳がんはきっと治るって、何度も言ってた。」
レンは壁の前で立ち止まる。
ゆっくりと額を壁につけた。
かすれるような声で呟く。
「母さんの葬式を見たとき……」
目を閉じる。
「思っていたより……ずっとつらかった。」
そのまましばらく動かなかった。
やがて力が抜けるように壁にもたれ、その場に座り込む。
「俺は二十歳だった。」
「トウカは十七歳。」
「父さんを見つけた時……」
「手首を切っていた。」
……
記憶が再び蘇る。
レンは家の玄関を開けた。
「ただいま……」
返事はなかった。
キッチンでは、トウカが食卓に座っていた。
虚ろな目で前を見つめたまま。
レンは静かに息をつく。
「……何か作るよ。」
「夕飯。」
トウカは何も答えない。
数分後。
レンが料理を作っていると――
小さな声が聞こえた。
「……どうして?」
レンは勢いよく振り返る。
トウカは静かに涙を流していた。
頬を涙が伝っている。
それでも表情は空っぽだった。
レンはゆっくり近づく。
「トウカ……」
深く息を吸う。
「俺も……」
「何て言えばいいのか分からない。」
目を伏せる。
「父さんのことを理解してるつもりだった。」
「でも……違った。」
トウカは拳を強く握った。
「お父さんは……」
声が震える。
「お母さんのことで死んじゃったの?」
レンを真っすぐ見つめる。
「じゃあ私たちは?」
「私たちなんて、どうでもよかったの?」
レンは何も答えられなかった。
トウカは続ける。
「お兄ちゃんは……」
涙がまた溢れる。
「何もなかったみたいに振る舞ってる。」
声が震えた。
「まるで私たちが、あのソファで……」
言葉を詰まらせる。
「先週……」
レンは思わず叫んだ。
「もうやめろ、トウカ!」
トウカはしゃくり上げながら兄を見つめる。
レンは深く息を吸った。
「ごめん……」
目を閉じる。
「父さんに約束したんだ。」
再び妹を見る。
「お前は俺が守る。」
「何があっても。」
寂しそうに笑った。
「だから……」
「大学の授業が終わった後、アルバイトも始めた。」
トウカは再び前を向く。
「分からないの?」
その声は静かだった。
「お父さんは……」
レンを見る。
「全部の重荷を、お兄ちゃん一人に背負わせた。」
少し間を置く。
「それなのに……」
「まだお父さんに認めてもらいたいの?」
レンは答えなかった。
トウカはゆっくり立ち上がる。
「部屋に戻る。」
「食欲ない。」
そう言って廊下の奥へ消えていった。
レンは再びキッチンへ戻る。
夕食を作り終え、
皿に盛り付け、
一人で席に着いた。
両手を合わせる。
「いただきます。」
静かに食べ始める。
その瞬間――
また別の記憶が蘇った。
家族みんなで囲む食卓。
笑う母。
冗談を言う父。
笑い転げるトウカ。
明日はどのゲームで遊ぼうかと考えている自分。
……
現実へ戻る。
目の前の食卓には誰もいなかった。
静まり返っている。
レンは箸を止めた。
そのまま動かない。
気づかないうちに――
一粒の涙が頬を伝う。
ゆっくりと皿の上へ落ちた。
何も言わず、
レンは静かに崩れ落ちた。
ミサキはその場で足を止めた。
蓮を見つめたまま、
完全に動かなくなった。
蓮は一瞬で慌てた。
「ち、違う!」
両手を慌てて振る。
「君が聞いたから答えただけで!」
「ただ思ったことを言っただけなんだ!」
「ご、ごめん!」
ミサキは口元に手を添えた。
その瞳はきらきらと輝いていた。
「ふふ……」
愛おしそうに微笑む。
「じゃあ……
蓮は私と一緒に住みたいって思ってるんだ?」
蓮は真っ赤になって顔をそむけた。
「う、うるさい……」
ミサキは楽しそうに笑った。
「このこと、一生忘れさせないからね。」
蓮は照れ隠しのように小さく笑う。
「す、好きにしろよ……」
ミサキは笑った。
蓮も笑った。
そして二人は並んで大学の門へと歩いていった。
……
記憶はゆっくりと薄れていった。
蓮は再び現実へ戻る。
酒場の部屋のベッドに腰掛けたまま、
静かに息を吐く。
(あの頃は……
本当にたくさんの夢があった。)
(マーケティングを卒業して……)
(ミサキと一緒に働くつもりだった。)
(ミサキはファッションデザインを卒業した。)
部屋は静まり返っていた。
蓮はゆっくり立ち上がる。
静かに部屋の中を歩き始めた。
(ミサキのことを思い出すと……
いつも他の記憶まで一緒についてくる。)
(父さんはいつも俺と灯華を励ましてくれた。)
(俺が十六歳の頃……)
(母さんの乳がんは必ず治るって、
何度も何度も言っていた。)
蓮は壁の前で立ち止まる。
ゆっくり額を壁につけた。
その声はほとんど囁きだった。
「母さんの葬式を見た時は……」
目を閉じる。
「想像していたより……
ずっとつらかった。」
しばらくそのまま動かなかった。
やがて力が抜けるように壁にもたれ、
床へと座り込む。
(あの時、
俺は二十歳だった。)
(灯華は十七歳。)
(そして……
俺たちは父さんを見つけた。)
(手首を切った姿で。)
……
記憶が再び蘇る。
蓮は家の玄関を開けた。
「ただいま……」
返事はなかった。
台所では灯華が食卓に座ったまま、
虚ろな目で壁を見つめていた。
蓮は静かに息を吸う。
「……夕飯、
作るよ。」
灯華は何も答えない。
数分後――
蓮が料理をしていると、
かすかな声が聞こえた。
「……どうして?」
蓮は振り返る。
灯華は静かに泣いていた。
涙だけが頬を伝い落ち、
表情は何も変わらない。
蓮はゆっくり近づく。
「灯華……」
深く息を吐く。
「俺も……
何て言えばいいのか分からない。」
目を伏せる。
「父さんのこと、
分かってるつもりだった。」
苦笑する。
「でも……
何も分かってなかった。」
灯華は両手を強く握り締めた。
「お父さんは……
お母さんのせいで死んだの?」
震える声で続ける。
「じゃあ私たちは?」
蓮を見つめた。
「私たちには、
何の意味もなかったの?」
蓮は答えられなかった。
灯華は涙を流したまま続ける。
「お兄ちゃん……
何もなかったみたいにしてる。」
声が震える。
「まるで……
先週、お父さんをあのソファで見つけたことなんて
なかったみたいに。」
蓮は思わず叫ぶ。
「もうやめてくれ、灯華!」
灯華はしゃくり上げながら兄を見つめた。
蓮は深く息を吸う。
「ごめん……」
目を閉じる。
「俺は父さんに約束したんだ。」
再び妹を見る。
「お前を守るって。」
少しだけ笑う。
その笑顔には何の明るさもなかった。
「だから……
大学が終わった後のアルバイトも受けた。」
灯華は再び前を向く。
その声は空っぽだった。
「気づいてないの?」
ゆっくり蓮を見る。
「お父さんは……
全部お兄ちゃん一人に背負わせたんだよ。」
少し間を置く。
「それなのに……
まだお父さんに認めてもらいたいの?」
蓮は答えなかった。
灯華はゆっくり立ち上がる。
「部屋に戻る。」
「食欲ないから。」
そう言って廊下の奥へ消えていった。
蓮は台所へ戻る。
夕飯を仕上げる。
皿によそう。
一人で席につく。
両手を合わせた。
「いただきます。」
静かに食べ始める。
その時――
また一つ、
懐かしい記憶が浮かんだ。
家族全員が揃った食卓。
笑う母。
冗談を言う父。
笑い転げる灯華。
明日はどのゲームで遊ぼうかと考えていた自分。
……
気づけば、
目の前には静かな食卓だけがあった。
誰もいない。
何も聞こえない。
蓮は箸を止めた。
そのまま動けなくなる。
気づかないうちに、
一粒の涙が頬を伝った。
静かに皿の上へ落ちる。
蓮は何も言わなかった。
ただ静かに、
音もなく崩れ落ちた。
……
今、再び酒場の部屋の中。
蓮は深く息を吐いた。
(あの日からずっと……)
(まるで自分が自動的に生きているような気がする。)
(ミサキ……)
(君と過ごした時間は、本当に幸せだった。)
小さく微笑む。
(トウカの耳かき専門店を見届けられてよかった。)
(あのトラックの仕事を引き受ける前に……。)
(あの二人はきっと大丈夫だ。)
蓮はゆっくりと膝に額を押し当てた。
その声は震えていた。
「お、俺は……」
目を閉じる。
「何を間違えたんだろうな……」
唇を噛む。
「父さん……?」
その瞬間――
BLAAAM!!
蓮は勢いよく顔を上げた。
「な、何だ!?」
急いで目元を拭う。
立ち上がり、部屋の扉を開けた。
すると廊下では、ギャリックが階段へ向かって歩いていた。
「何があったんだ?」
ギャリックも振り返る。
「俺も見に行くところだ。」
二人は急いで階段を下りた。
一階へ降りると、ミレイリアがホールの方を見つめて立っていた。
「ミレイリア?」
「どうした?」
彼女は視線を外さないまま答える。
「あのライオンズギルドの嫌な男……覚えてる?」
蓮は眉をひそめる。
「どっちだ?」
ギャリックは騒いでいる男を見て言った。
「あいつだ。」
少し考える。
「確か……
ブラクって名前だったよな?」
ブラクは酒場の真ん中で怒鳴っていた。
「こんなクソみたいな宿、今まで見たことねぇ!」
テッサは冷静なまま答える。
「お客様……
別のお料理をご用意――」
CRAAACK!!
ブラクが拳でテーブルを叩き壊した。
「もういいって言ってるだろ!」
「こんな場所のもんなんかいらねぇ!」
「金も払わねぇ!」
「ですが、お客様……」
ギャリックが一歩前へ出る。
「おい、大男。」
腕を組む。
「その辺にしとけ。」
周囲を見回す。
「それに料理は普通に美味かったぞ。」
「何がそんなに気に入らないんだ?」
ブラクは笑った。
「あぁ……」
「新入りどもか。」
「ちょうどいいところに来たな。」
蓮は即座に言い返した。
「何がちょうどいいんだ、このバカ。」
ミレイリアとギャリックは同時に蓮を見た。
ブラクは首を鳴らした。
「バカだぁ?」
ニヤリと笑う。
「最初は手加減してやろうと思ってたが……」
笑みが消える。
「今は気が変わった。」
「お前ら三人の顔、ぐちゃぐちゃにしてやる。」
ミレイリアは目を見開く。
「えっ!?」
「わ、私は何も言ってないよ!?」
ブラクは肩をすくめた。
「あいつらと一緒にいるなら同罪だ。」
ギャリックは腕を組んだまま言う。
「もういい。」
入口を指差す。
「外に出ろ。」
笑う。
「まだ完全には回復してないが……」
「お前を倒すには十分だ。」
ブラクも笑った。
「なら来い。」
「男ならな。」
蓮はギャリックを見る。
「大丈夫なのか?」
「もちろんだ。」
「ここで待ってろ。」
二人が外へ向かおうとした、その時――
「こんばんは。」
エドリックが姿を現した。
彼は落ち着いた視線をギャリックへ向ける。
「話は聞こえていました。」
穏やかに微笑む。
「あなたは疲れているようですね、冒険者さん。」
軽く手を振る。
「この男は私に任せてください。」
「部屋へ戻って休んでいて構いません。」
ギャリックは首を横に振った。
「悪いが……」
エドリックを見上げる。
「失礼を承知で言うが、あんたは戦うようには見えない。」
笑う。
「ここは俺に任せてくれ。」
エドリックは落ち着いたまま答えた。
「ギャリックさん。」
「私は本気で言っています。」
穏やかな笑みを浮かべる。
「あなた方は素晴らしいお客様です。」
「こんなゴミで手を汚してほしくありません。」
ブラクはエドリックの肩に手を置いた。
「ゴミだと?」
笑う。
「てめぇ……死にてぇのか――」
VROOOSH!!
誰も目で追えないほどの速さだった。
次の瞬間――
エドリックはブラクを入口へ投げ飛ばしていた。
BOOOOM!!
扉が粉々に吹き飛ぶ。
ブラクはそのまま通りへ叩きつけられた。
全員が言葉を失う。
エドリックだけが静かに微笑んでいた。
「まだ続けますか?」
ブラクはゆっくり立ち上がる。
血を吐き捨てた。
「今……」
怒りに満ちた表情で睨みつける。
「今、本気で殺してやる。」
エドリックは微動だにしない。
「本当にその覚悟で来ない限り……」
笑みが消える。
「あなたは私に触れることすらできません。」
一歩前へ出る。
「さあ。」
ちらりと酒場を見る。
「私のお客様の迷惑になっています。」




