第2話 児童館という名の国際会議
午後。
私はベビーカーに乗せられ、外へ連れ出された。
移動中、私は静かに景色を眺めていた。
電柱、車、自転車、犬、知らないおばあさん。
世界には多くのものがある。
だが、その大半は私の手が届かない位置にある。
なぜ世界は一歳児基準で作られていないのか。
特に自動販売機。
あれはひどい。
色とりどりの魅力的な円筒が並んでいるにもかかわらず、私は押せない。
押せないものを飾っておくのは、ただの挑発である。
「ひーちゃん、今日は児童館に行こうね」
ひよりだ。
だが、児童館。
その言葉に私は身を引き締めた。
以前行ったことがある。
母たちが子を連れて集い、互いの発達状況をさりげなく観察し合う場所。
つまり、外交と諜報の最前線である。
*
到着すると、そこにはすでに複数の赤子がいた。
寝返り派。
ハイハイ派。
つかまり立ち派。
そして、二足歩行を始めた危険分子。
私は母に抱えられて床に下ろされた。
まず周囲を確認する。
マット。
絵本。
積み木。
音の鳴る玩具。
空気で膨らませた馬の玩具。
資源は豊富だ。
だが、資源が豊富な場所には必ず争いが生まれる。
私は近くにある赤い車のおもちゃへ向かった。
ハイハイである。
二足歩行など、まだ必要ない。
地を這う者だけが、床の真実を知る。
あと少し。
指先が車に触れた。
その瞬間、横から別の手が伸びてきた。
丸い手。
柔らかい手。
だが、意志は強い。
同年代の男児である。
彼は私を見た。
私も彼を見た。
言葉はない。
だが、外交とは言葉だけではない。
「だ」
彼が言った。
意味はおそらく「これは俺の玩具である」。
私は返した。
「あ」
意味は「その主張には法的根拠がない」。
彼は車を握った。
私も握った。
膠着状態である。
近くで母が「あらあら、一緒に遊べるかなー」と呑気に言っている。
一緒に遊んでいるのではない。
国際問題である。
ここで譲れば、今後の児童館外交に大きな影響が出る。
赤い車を失えば、次は黄色いバス、青い電車、最終的には音の鳴る太鼓まで奪われるだろう。
私は譲らない。
私は車を引いた。
彼も引いた。
車は動かない。
私は作戦を変えた。
片手を離し、彼の前にあった別のおもちゃを指差した。
「あっ」
彼が一瞬、そちらを見た。
その隙に、私は車を引き寄せた。
勝利である。
外交に必要なのは力ではない。
駆け引きである。
だが、勝利は長く続かなかった。
彼は泣いた。
「うええええええ」
早い。
国際社会への訴えが早い。
母親たちの視線が集まる。
「あら、ごめんね。ひーちゃん、貸してあげようね」
ひよりだ。
そして、貸す。
その概念は知っている。
だが、大人たちの「貸してあげようね」は、ほとんどの場合、実質的な没収を意味する。
一度渡した玩具が戻ってくる保証はない。
所有権の移転である。
「はい、どうぞしよう」
母が私の手から車を取った。
私は抗議した。
「ああああ!」
しかし、母は車を男児へ渡した。
男児は泣き止んだ。
なるほど。
泣いた者が勝つ。
この世界のルールを、私は一つ学んだ。
次の瞬間、私は床に仰向けになり、顔に力を込めた。
「う……」
母が反応した。
「えっ、ひーちゃん?」
ひよりだ。
だが、今は訂正している場合ではない。
「うあああああああ!」
私は泣いた。
全力で泣いた。
理由は赤い車ではない。
制度への不信である。
所有権の軽視、泣き得社会への怒り。
そのすべてを声に込めた。
「あらあら、びっくりしたね」
母が私を抱き上げる。
違う。
びっくりしていない。
計算である。
抱き上げられたことで、私は再び高所から会場を見渡した。
赤い車は男児の手にある。
しかし母のバッグが見えた。
その横のポケットに、おやつの袋がある。
私は泣き止んだ。
戦略目標を変更する。
「まんま?」
母が言った。
そうだ。
その理解力だけは評価している。
おやつとして、小さなせんべいが渡された。
私はそれを受け取り、口に入れた。
勝敗とは何か。
赤い車を失った私は、本当に負けたのか。
いや、私はせんべいを得た。
そして高所から全体を観察する権利も得た。
外交において、目先の争いよりも補給線が重要な場合がある。
私はせんべいをかじりながら、さきほどの男児を見た。
彼は赤い車を口に入れようとして、母親に止められていた。
ふっ。
まだまだ若い。
車は食べ物ではない。
食べられるかどうかの確認は一度で十分だ。
*
児童館を出るころ、私は少し眠くなっていた。
母がベビーカーを押しながら言う。
「今日はいっぱい遊んだね、ひーちゃん」
ひよりだ。
そして遊んだのではない。
今日は多くを学んだ。
泣きは外交カードになる。
玩具の所有権は脆い。
おやつはすべての対立を一時的に凍結する。
そして何より、母は私が眠そうになると帰宅を決断する。
つまり、私のまぶたには撤退命令権がある。
私は目を閉じた。
世界は広い。
だが、このベビーカーの揺れは悪くない。
今は休戦としよう。




