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第2話 児童館という名の国際会議

 午後。

 私はベビーカーに乗せられ、外へ連れ出された。


 移動中、私は静かに景色を眺めていた。

 電柱、車、自転車、犬、知らないおばあさん。

 世界には多くのものがある。

 だが、その大半は私の手が届かない位置にある。


 なぜ世界は一歳児基準で作られていないのか。


 特に自動販売機。

 あれはひどい。

 色とりどりの魅力的な円筒が並んでいるにもかかわらず、私は押せない。

 押せないものを飾っておくのは、ただの挑発である。


「ひーちゃん、今日は児童館に行こうね」


 ひよりだ。


 だが、児童館。


 その言葉に私は身を引き締めた。

 以前行ったことがある。

 母たちが子を連れて集い、互いの発達状況をさりげなく観察し合う場所。

 つまり、外交と諜報の最前線である。



 到着すると、そこにはすでに複数の赤子がいた。


 寝返り派。

 ハイハイ派。

 つかまり立ち派。


 そして、二足歩行を始めた危険分子。


 私は母に抱えられて床に下ろされた。


 まず周囲を確認する。

 マット。

 絵本。

 積み木。

 音の鳴る玩具。

 空気で膨らませた馬の玩具。


 資源は豊富だ。


 だが、資源が豊富な場所には必ず争いが生まれる。


 私は近くにある赤い車のおもちゃへ向かった。

 ハイハイである。

 二足歩行など、まだ必要ない。

 地を這う者だけが、床の真実を知る。


 あと少し。


 指先が車に触れた。


 その瞬間、横から別の手が伸びてきた。

 丸い手。

 柔らかい手。

 だが、意志は強い。

 同年代の男児である。


 彼は私を見た。

 私も彼を見た。


 言葉はない。


 だが、外交とは言葉だけではない。


「だ」


 彼が言った。


 意味はおそらく「これは俺の玩具である」。


 私は返した。


「あ」


 意味は「その主張には法的根拠がない」。


 彼は車を握った。

 私も握った。


 膠着状態である。


 近くで母が「あらあら、一緒に遊べるかなー」と呑気に言っている。


 一緒に遊んでいるのではない。


 国際問題である。


 ここで譲れば、今後の児童館外交に大きな影響が出る。

 赤い車を失えば、次は黄色いバス、青い電車、最終的には音の鳴る太鼓まで奪われるだろう。

 私は譲らない。


 私は車を引いた。

 彼も引いた。


 車は動かない。


 私は作戦を変えた。

 片手を離し、彼の前にあった別のおもちゃを指差した。


「あっ」


 彼が一瞬、そちらを見た。

 その隙に、私は車を引き寄せた。


 勝利である。


 外交に必要なのは力ではない。

 駆け引きである。


 だが、勝利は長く続かなかった。


 彼は泣いた。


「うええええええ」


 早い。


 国際社会への訴えが早い。


 母親たちの視線が集まる。


「あら、ごめんね。ひーちゃん、貸してあげようね」


 ひよりだ。


 そして、貸す。


 その概念は知っている。

 だが、大人たちの「貸してあげようね」は、ほとんどの場合、実質的な没収を意味する。

 一度渡した玩具が戻ってくる保証はない。

 所有権の移転である。


「はい、どうぞしよう」


 母が私の手から車を取った。

 私は抗議した。


「ああああ!」


 しかし、母は車を男児へ渡した。

 男児は泣き止んだ。


 なるほど。


 泣いた者が勝つ。


 この世界のルールを、私は一つ学んだ。


 次の瞬間、私は床に仰向けになり、顔に力を込めた。


「う……」


 母が反応した。


「えっ、ひーちゃん?」


 ひよりだ。


 だが、今は訂正している場合ではない。


「うあああああああ!」


 私は泣いた。

 全力で泣いた。


 理由は赤い車ではない。

 制度への不信である。

 所有権の軽視、泣き得社会への怒り。

 そのすべてを声に込めた。


「あらあら、びっくりしたね」


 母が私を抱き上げる。


 違う。


 びっくりしていない。


 計算である。


 抱き上げられたことで、私は再び高所から会場を見渡した。


 赤い車は男児の手にある。

 しかし母のバッグが見えた。

 その横のポケットに、おやつの袋がある。


 私は泣き止んだ。


 戦略目標を変更する。


「まんま?」


 母が言った。


 そうだ。


 その理解力だけは評価している。


 おやつとして、小さなせんべいが渡された。

 私はそれを受け取り、口に入れた。


 勝敗とは何か。


 赤い車を失った私は、本当に負けたのか。


 いや、私はせんべいを得た。

 そして高所から全体を観察する権利も得た。


 外交において、目先の争いよりも補給線が重要な場合がある。


 私はせんべいをかじりながら、さきほどの男児を見た。

 彼は赤い車を口に入れようとして、母親に止められていた。


 ふっ。


 まだまだ若い。


 車は食べ物ではない。


 食べられるかどうかの確認は一度で十分だ。



 児童館を出るころ、私は少し眠くなっていた。


 母がベビーカーを押しながら言う。


「今日はいっぱい遊んだね、ひーちゃん」


 ひよりだ。


 そして遊んだのではない。


 今日は多くを学んだ。


 泣きは外交カードになる。

 玩具の所有権は脆い。

 おやつはすべての対立を一時的に凍結する。


 そして何より、母は私が眠そうになると帰宅を決断する。


 つまり、私のまぶたには撤退命令権がある。


 私は目を閉じた。


 世界は広い。


 だが、このベビーカーの揺れは悪くない。


 今は休戦としよう。

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