ACパート
部長は現状として
「引受している郵便局は分かったが、もう18時を過ぎて閉まってる。差出側と話ができるのは明日になる」
頭を抱えている状況だ。
森橋くんの書留を紛失した事件は確かにヤバイのだが。
これをより、具体的に、解析していかなければ、郵便局として示しがつかないし。一人の配達員を成長させる上では、いずれは通ることになる。
「その前に状況の整理が必要だ。森橋くん。10-14、飯泉さんの書留がどんな”形状”かは覚えてないか?定形なのか、定形外なのか、ハガキなのか。今は、森橋くんの記憶だけだぞ」
「ううぅっ」
虐めているわけではないが、書留を紛失すると頭が真っ白になって、何を失くしたかすら今知ったようなもの。
泣きそうな顔で
「わ、分からないんです」
怒りたくなる回答ではあるが、森橋くんの本心はその通りである。
どの書留を失くしたのかも覚えていなかったのだから、形まで覚えているわけがない。部長としては怒りそうな部分であるが、木下が割って入って森橋くんをフォローする。
「”受入入力”はしてるんだろ!”受入入力”をしてるってことは、森橋はそれを手にしているのは間違いねぇんだ」
木下のフォローに続いて、山口も答える。
「道順で入力したか?」
「あの、その……してません」
「じゃあ、飯泉さんの前にお伺いした書留はどれだ?」
書留の紛失したケースとして、2番目に有難いのが
”書留がくっつき、お伺いした前の家に一緒に渡しているというケース”
通常郵便でもくっつきによる誤配があるのだから、書留の配達でも起こり得ること。現にハガキタイプの書留でこのような事例はあります。
森橋くんはう~~んっと悩みながら、ぼそっとした声で、自分が記録した書留に指をさしつつ答え。
実にそこへ向かわせるが
『残念ながら受け取ってないそうです』
「そうか」
本来である、飯泉さんの前に配達しているお宅にお伺いし、くっつきがあったかを確認するが……そう都合が良い展開になってはくれなかった。
こうなってくると、この暗い夜でも
「本格的な”山狩”だよな。森橋くんの説教は木下達に任せるぞ」
「お前はどうする気だよ」
「俺も現地に行って、足元確認してくる。書留の記録はコピーしたから。そこのところを一軒一軒確認するしか地道だけどやるしかねぇだろ。謝罪や再発行に関しては、明日にしかできねぇ。今日できることは今日やらねぇとな」
そう言って部長も現地に向かう。夜間配達をしている矢木にもその情報は届き、終わったら、捜索に手伝えとの指示を受けた。当然、実もだ。
「お、俺も!行きます!」
「止めろ、森橋。夜じゃなくても、外に落ちた書留を捜すのは、常識的に考えて、不可能だ」
森橋は責任から自分も捜そうとするのだが、山口の現実的にもあり得ないことを発した上で彼を止め。
なんでこんなことが起きてしまったのか。
どうすれば、書留を失くさなかったのか。
……そーいうトラブルを未然に防ぐ話ではなく。
「”トラブル”が起きたら、無理な話だが。落ち着いて頭を回せ」
トラブルが発生した場合。可能な限り、最善の行動をとることである。
森橋くんはソレを怠ったからこそ、やべーのだ。
新人だからこそ、周囲が落ち着いている。誰だってぶつかるもんだって……木下がこの手の事に落ち着いてできるのは、ベテランの味。
まず。
「……気付いた時だ。リミットは10分」
書留の捜索は時間が大事だ。初動が大事。で、木下も山口も揃えて言うが
「「一人で1時間も黙って捜すな」」
「!」
報告は早めに……。
森橋くんが気付いたのは、17時前。そこから一人で18時まで捜索し、……。結局、みんながザワついて捜索できたのは18時半を過ぎた。これではどうにもできない。
山口達が紛失した書留を特定したり、紛失した場所を捜しに行ったりと……。
「ごめんなさい」
「後先、どっちにしろ。怒られるのは決まってる。一大事を無事解決できるなんて、誰もできやしないから」
書留紛失時の適切な行動として。
A.自分で探す制限時間は10分と決めてください。
その際に自分がやるべき事は、
1.紛失した書留の住所を特定する。
2.紛失したのは”不在の書留”なのか、”配達完了した書留”なのか、”事故処理や転送処理の書留”なのか、”まだ配達してない書留”なのか……。どの状態の書留を紛失しているかどうかで、捜索範囲や手段は異なります。
3.紛失した時間を特定する。この場合、”午前分”の持ち出しをした書留なのか、”午後分”に持ち出す書留なのか。把握しましょう。
4.現時点で判明している、”配達完了となった書留”と”不在になった書留”、”まだ未処理の書留”を出しておくこと。本当に書留の数が合わないのか、今一度確認しましょう。
これらは10分以内でやってください(なるべく、局内でやってください)。
慌てていると、また書留を失くしちゃいますよ。
「ぼ、僕は失くした書留も分からなかった……」
「みんなで協力した方が早い。だが、お前が記録したおかげで書留が特定できた」
「何も分からないんですって状態で報告する奴もいるからな」
B.紛失したと気付いたら報告!!
「これが超大事だからな!!これが遅いからみんなキレそうになってるからな!!」
「は、はい(いや、キレてるじゃん……)」
1人で1時間も捜すより、みんなで10分捜した方が効果が大きいです。
で、山口が言った通り。遅いか早いか、関係なしにみんなキレます。
……早い方が良い理由としては。
1.紛失した書留を特定するためには、発送している郵便局に問い合わせると、早くこちらの不備・不手際による事情も相手側にお伝えしやすいこと。
2.”山狩”をする場合、一人でも多くの人がいると効果が高いです。
3.”午前の書留”がないのか、”午後の書留”がないのか。ハッキリしないと、捜索範囲だけが広がってしまいます。
とにかく、早い報告の方が周囲が対応しやすいですし。なによりも
「紛失してから1時間以内に見つかれば、ほぼお咎めなしだよ」
「え、あ……そうなんですか」
「一時紛失って形にして、上にはテキトーに誤魔化せる。始末書に行かない時もあるよ」
とはいえ、一時紛失で収まってくれるケースというのは、そんなにありません。
”書留”を”速達”として取り扱ってしまった、”大口登録”をせずに渡してしまった。などといったケースでしょうか。マジに路上で”書留”を落としたってのは、見つかりません!!
その可能性をかなぐり捨てて、単なる凡ミスによる紛失であることを祈っていましょう。
一早く報告することでこのような凡ミスが、デカい案件になり得ます(一時紛失な時点でヤバイんですけどね)。
「とりあえず、失くした時は騒いでいい!黙るな!!話は聞く!」
ミスした時は黙らない。意外と大事です。
これが”書留を紛失した際の対応”です。このような配達員の動作一つも、上の連中はじっくり監視してきます。普段は何も見てないくせに腹が立ちますね。
それではここからどうして、森橋くんが”書留”を紛失したのか。
それを振り返っていこうと思う。
◇ ◇
始めに、アホな話をします。
書留の紛失には、”受入入力”をされていないパターン。”受入入力”をされているパターンの2種類があります。
何言ってんだ?って感じかもしれませんが、この2点だけでも推察できることが違います。
書留の交付票は郵便課が作成して頂けるのですが、そもそも、郵便課が作成した書留の交付票の時点で、内部データにミスがあれば……
書留の”受入入力”の時点で不符合が生じて、発覚するケースもございます。
当日、配達する書留は全て”受入入力”を済ませた後、しっかり数が合っているか、入力がされているかは”途中返納”の画面を呼び出す事で分かり、入力がされていない場合は、その”追跡番号”を確認できます。
【書留の数が合っているにも関わらず、端末上で不符号が存在するケース】
その場合、読み込んでいる追跡を間違えているケースによる書留の不符号になります。
”国際書留”や複数のバーコードが使われている”簡易書留”が主にです。
後者の方が体感多いと思います。特にカードの更新・再送といった類で、以前に使われた追跡番号を読み込んで、交付表を発行してしまうと、数が合っているけど、端末上で不符号が出るって奴です。
あとはレアケースですが、郵便課が別の書留を読み込んでいるとかでしょうか。(あんまり聞かないけど)。
郵便課のミスが、そのままこっちにやってくるならいい方です。
これで解決しているのなら優しい話ですが。
「”受入入力”をしてないで書留失くすケースは、まず見つかってないぞ」
そうです。
”受入入力”がされてなく、モノも無くなってたら、見つかりません。
手がかりが0でモノを捜すのは、不可能です。
で、今回の森橋くんのケース。
”受入入力”がされていて、書留を紛失しているケース。
外で紛失した以外のケースからお話します。
”配達完了”OR”不在入力”OR”転送・還付入力”をせず、途中返納をしているケース。
配達員も郵便課も、やっているのは人間なので、凡ミスは普通にあります。
配達完了の数と、不在入力の数、転送・還付の数を郵便課が数えてくれるんですが、1日に何十人・100回くらいやっていると、流れ作業になっていきます。
配達員も例外でなく、
複数の書留がある場合、1つだけ完了をしちゃって、渡しちゃっているケース。
確実にいるであろうお客様に、配達完了を先に入力してしまい、やっぱりいなくて、不在票を書き込んでしまうパターン。速達と一緒に書留を手渡しちゃうパターン。”転送・事故”処理の書留を通常郵便と混同させてしまう。
配達員側の操作ミスなどの、うっかりによるミスはあります。
ただし、その場合。正当受取人であるお客様に、書留が届いている事が多いです。(それでも良くねぇけど)。
それらの可能性もないとすれば、
”外で・完全に・紛失しています。”
「不自然なところなんだが。なんで10-14、飯泉の書留が今になって紛失したんだ?」
「え?」
「道順通りになら、ここは午前中に回っている地域だろ。実際、森橋は今日、20街区までやってきてるんだ」
木下が気になった点をあげた。
17時に1本の書留がねぇと、騒ぎ立てたが……。その1本は、午前中に通っているはず。仮に通り過ぎたっていう事もあり得るとしても、……”中間査数”を怠ってないのなら、書留の数に不符号が生じているか。
まぁ、言っちゃいけねぇけど。
「そもそも、午後の持ち出し分を間違えてたんじゃねぇか?そこのところ、数えてたのか?」
「……え~……書留数が合わない画面とかが出てたので、その」
書留が無くなった時間は、午前で間違いない。
それに気付いたのは、夕方。
森橋くんの大きなミスは、その気付き。昼間の内にできた気付きだったのだ。そこは怒られポイントであるが、
「とにかく、午前の事を思い出せ。俺は書留をお前に渡した。で、”受入入力”を午後便の時にした。おそらく、この時、すでに。お前は飯泉の書留を見失ってる」
「……う~~~ん」
「書留の保管箱にも入れてねぇんだし。……紛失にしろだ。お前はまだ、その飯泉の書留の形状も思い出せてねぇんだ!振り返れ」
森橋くん。木下のアドバイスでゆっくりと、今日の9時半ごろ。書留を授受した時の様子を振り返る。
書留を受け取って、そこで数も数えて机に戻った。
入力をしている時に……。
ゆうパケットの再配依頼が来たから、それに対応をしていた。
その後すぐに9時便の郵便物を受け取った。
また入力をしている時に……。
木下が書留を区間移動票を出して自分に渡してきた。
これは交付票を読んでいたが、受入入力を忘れていた。だから、午後に数が合わないトラブルが起きた。
不明な点としては、午前中の途中返納の数は、実際に”合致”しているのだ。
確実に”飯泉”の書留の入力はしている。
その前後はどうだった……?
「……あ」
森橋くん。ついに思い出す。毎日、仕事をしていると
「そういえば、俺。午前中に配達先で書留が一部入力されてない事に気付きました」
「な、なにを今になって言ってるんだ、テメェーーーー!!」
よくよく考えてみたら、森橋くん。
全部の書留を入力していなかった……。
「4通あった、NEWトランス社はやってたんです!そこから数件ほど!でも、確か。……そう!午後みたいな画面じゃないですが、『受入入力がされてません』みたいな画面が出てきて、普通に直で処理してたんです」
4,5件ほど。”受入入力”がされていない書留を午前中の配達最中にやっていた。受入を忘れるというのは、良くある話だ。定形外の書留や時間指定のものとかは特にある。
「その時に書留カバンの中を見て、残りが12通だって確認したんです。”受入入力”も念のためしました。そこで午前の持ち出しは18通だって……」
「そこで間違ってるんだろうが!!お前が午前中に持ち出してたのは、19通なんだよ!実際のところ!」
「そこに実を向かわせるから!!」
木下と山口は森橋くんの思いだしが正しいか確認するため、書留の受入時刻を確認し始める。
……すると、確かに4通ほど。
受入時刻が11時20分頃に集中しているのだ。
ちなみに飯泉の書留の受入時刻は9時30分頃。……受入していなかったのは、途中で色んな奴が声をかけられたからの、うっかりだろう。たぶん、森橋くんも。その時点で持ち出していたのは、18通だと決めつけていた。だから、合わなかったことに疑問も持たなかった。
「その書留はちゃんと受入していて、正当処理をしているな……」
「外で落とした可能性以外も出て来たぞ、これ。ワンチャン」
「?????」
午後の分も数えておけば、ホントに気付けた。中間査数は午前の書留の数だけじゃなく、午後の書留の数もちゃんと数えてください。
森橋くんはまだ、マジで現地で落としたんじゃないかって……思っているが。木下と山口は頭を回しながらのこと、ホントにワンチャン。書留が見つかる可能性が出て来た。
書留を紛失した後、見つかる可能性は……30%です。悪運の良さが大事になります。
1%でもそれを引き上げるのなら、ホントに毎日ちゃんとしてください。こんなことに運を使ってはいけません。
落とした書留をお客様に拾われるといった事もあります。
そうでなくても、発見される事もあります。
◇ ◇
『現地で確認したという場所に来ましたが……残念ながら、落ちていませんね』
この時間まで落ちてたら苦労しないんだけどね。
実が言われた場所までやってきたが、結局は見つからなかった。
しかし、案外。それで良かったのかもしれない。
「森橋が”書留”を落とした事実はなさそうだな」
『ですけど、配達先で書留の受入入力とかやらないでくださいよ。危ないんですから』
偶然が重なったことでミスはするので、ホントにその偶然を減らす努力はするべきです。
森橋くんがやらかしたのは、この場所で間違いない。
やらかした事を簡単に言うと、
【不在書留の中に飯泉さんの書留を入れてしまった】
というモノである。
一から全部を入力していて、その時でも飯泉さんの書留を受入入力し、”入力済み”の画面になっただろう。本人、2回も入力しているのに思い出せていないが……。
その最中にやっているのだ。
本人は受入入力しか頭になく、その時に不在の数と未処理の数を数えているわけもない。
そして、局に戻った後。
”中間査数”をしている中で、まだ未入力の書留があると表示され、木下や山口に助けをもらった。
未入力の書留がある場合、現在の書留の総数とかは出ないで、エラー表示である。森橋くんの頭の中では完了9、不在9。……再配依頼が2件掛かっていたから、全部で16通なのは違いない。
その中で
「ん?」
不在の紙片がくっついていない郵便物が出て来る。
これを瞬時に書留だって、気付くのが普通なものだが。頭の中の数と一致していると、気付かないものだ。おまけに
「集荷物もいっぱいだな」
配達先から持ち戻ってくる郵便物といえば、誤配した郵便物か……配達先で集荷したものである。書留のことばかり考えていたから、集荷した郵便物の処理は2の次であり(それでOKだが)。全部を一々確認するわけもない。これが集荷した郵便物です~って感じで
ポ~~~イッと
集荷の籠の中に……。
郵便課も淡々と中に入っているのを淡々と処理していくだけであり……
「見つかったぞーーーーーーー!!!」
捜索から3時間後。
本来、集荷したモノなんて、通常郵便物が基本である。その中に一般書留が混ざってましたって事は、あり得ないからこそ、分からないものだ。入力の処理なんか何もしちゃいない。
「「おおおおおーーーーーー!!」」
紛失した書留が見つかると、周囲から大きな歓声が沸くものだ。拍手喝采である。見つけた人にはボーナス払いをするべきである。一時紛失した奴は給与カットで。
ともあれ。
「森橋このやろーーー!!」
「ぎゃあああああ」
見つかって歓喜に包まれた後は、同僚+上司からのボコボコサービスタイムである。
反省点は色々ですが……。
見つかりやすいケースとして
1.お客様に拾われ、郵便局に届けてくれる。
2.どこかのお客様に2つ渡してしまう。
3.誤区分や集荷したところから出て来るなど
運がよければ、見つかるものである。




