ABパート
「こうなると、”山狩”だ」
部長が鬼の顔で、そーいう”発言”をするというのは緊急事態に他ならない。
その中で”山狩”は、郵便配達において、最も起きやすい重大事故の1つ。
常識の範囲内で、最大の重大事故というより、犯罪に当たってしまうカテゴリを除けば、こいつがトップと言える。
ちなみに他の二つが
”郵便物の放棄隠匿”
”交通事故”
この2点になったら、もうどうにもならないと上司達は頭を抱えますし。……”放棄隠匿”に関しては、組織や会社よりもその個人に問題がある人でしかないですね(断言)。
”放棄隠匿”は犯罪ですし、罪が消えません。解雇されるだけじゃ済まないので、そうなるくらいだったら、郵便局に荷物を置いてください。配達できませんと言った方が後々楽です。
話が逸れましたが、この”山狩”と言われるほどの出来事。
この出来事はその日、
「「「紛失した書留を探すぞーーーー!!」」」
”書留”や”ゆうパック”などを紛失したという事例です。
先に言いますが、局では半年に1度は起こっています。
そして、新人に限った話ではなく、我々ベテラン勢が紛失するという事例も珍しくありません。他人事ではないよって。
後日談から語らせて頂きますが、(解決の有無は問わないとして)
失くした本人は始末書です。
全体ミーティングを開いて、本人が自ら失くした顛末などを一緒に働く皆様に説明をします。
また、局内で紛失を失くさないための事故事例の討論会をします。
局外の人間達。特に重箱の隅を突くような本部の連中もやってきて、無駄に偉そうなことを喋ります。(これ結構ムカつく)。
1か月くらいは、失くした本人は弄られます(愛の虐めというか、パワハラに当たると思いますが)。
失くした本人が笑って自慢話として語れるくらいの精神力を得てくれないと、またやらかしてくれるので。ホントに気を付けてくださいね。
ではでは、”山狩り”をする部長達。
並びに、1通書留を失くしちゃった森橋くんのお話をお楽しみください。
◇ ◇
チュンチュン
「良い天気だな~」
悪天候の次の日の快晴。一に思うに、
「昨日はなんて日だったんだ」
あの辛さを知ると、普段のお仕事なんて些細な事だったと感じる森橋くん。昨日の疲れが残っているけれど、この快晴だけでちょっとは疲れがとれそうだった。
元気に出勤する森橋くん。今日の物数は……
「少ねぇ~~!」
「はぁ~~!助かった~~!!」
声を出せるくらいには少ない物数である。昨日の疲れが残っているみんなとしては、今日も早く帰って休みたいところ……。
『書留交付でーす』
いつも通りに書留の交付。
数を数えて”交付票”を入力し、書留の”受入入力”
「森橋くーん!」
「はい!」
「今日の荷物にこの”追跡郵便物”ってある?」
その最中に課長が声をかけ、本日配達の中にある”ゆうパケット”の確認。
「これ”夜間指定”になったから、データを削除して頂戴」
「分かりました」
その後すぐに
「森橋ー。先行補助便(9時にきた郵便物)が来たぞ」
「ありがとうございます」
山口から先行補助便のレターパックプラスを2通もらい……、受入登録。
「だはははは、森橋!書留一本追加だぜ~」
「はい!」
木下から転送されてきた”書留”が1本追加され、
「それじゃあ、行ってきますね」
「先に行くぞ」
その間で実と矢木の2人が先行して行ってしまう。
まだまだ、彼等の背中が遠いと思いつつ。道順組立をした書留をしまう森橋くん。自分もそろそろ出ようかと、思ったところに。
「山口~!テメェ、生意気な~!!」
「そっちの配達エリアなんだから行ってくださいよ!」
「せっかく俺は、森橋に一本移動だったのによ~。追加で渡すなぁ~」
続く形で山口、木下が出発。
5分とない時間だったが。森橋くんもすぐに後に続く。
色々とあったとか、なかったとか。
毎日同じように”同じ配達地域”をやっていると、昨日の記憶と今日の記憶がゴッチャになってしまって、やってねぇ処理やらやっていた処理があったりする。
組立した郵便物を積み込んで……。前カバンにも詰め込み作業。
プリンタ用紙と不在票の補充。出発前のトイレ。
台車を押しながらエレベーターに乗り込んだ。
郵便バイクで颯爽と出発する山口と木下を見送りながら、自分も郵便バイクに郵便物を詰め込んでいく森橋くん。
準備完了!ヘルメットを被って出発!
ブロロロロロロ
……疲れは残っているが、天気の良好は気分を良くしてくれる。バイクは昨日よりも速く進んでいた。
速達や午前配を配りつつ、……
最初の、”NEWトランス”社の配達に入る森橋くん。
本日の書留の本数は、27本。
この班からすれば、全然大した事がない本数。大体はこの”NEWトランス”社が持ってくる。今日も4本がここに当たる。
手渡しするところに書留があるというのは、実質ないも同然である。
「じゃあ、また夕方にお伺いします」
「はい、宜しく~」
これで残り23本だ。
そこからは順当に配達を続ける。
午前分の書留は18本。内、NEWトランス社が4本だから、残りは14本だ。
今日もいつも通り。……そう思えるくらい続けられた。
「配達員さん。これ間違ってましたよ」
「えっ、すみません。今後は気を付けます」
とはいえ、道中で誤配した郵便物を受け取ったりもする森橋くん。気に病むのは、10秒か長くても1分にして、次の配達へと進む。
午前の書留の配達は……完了9つ、不在9つと。半々とはやや不運。とはいえ、そんなもんかと嘆息する。持ち出した午前分の郵便物を終わらせて、帰局する森橋くん。
「おかえり~」
「戻りましたー」
実とすれ違う形で班内で会う。丁度、実は軽い休憩をとろうと動いていたところ。山口と木下はまだ配達中OR帰局途中。矢木は今日の転居届を処理するため、資料整備の真っ最中。
帰局をしたら、不在になった郵便物を棚に戻したり、集荷した郵便物を処理したり……。書留の中間査数は2,3番目くらいになる。(1分ほどのチェックで済むが)。
「森橋くん。再配依頼が2件あるよ」
「ありがとうございます!」
実から再配依頼の札をもらって、該当する書留を2本。”不在登録を削除”する森橋くん。
書留の数を合わせる前に行っており、これによって。
配達は9本。不在は7本。残りは11本となる。
森橋くんの頭ではそうなっているが、端末上では
「……あれ?」
【1通、未入力の書留が存在します】
”交付票”を入れた後で、書留の入力がされていない場合はこのようなメッセージが端末に表示されます。
新人の内はこーいったトラブルには慣れてないので、戸惑うかと思います。
この時は、入力されていない書留の番号を表示させ、該当する書留を受入入力すれば解決します。
「だははははは、休憩休憩」
「やれやれ」
「山口さん!木下さん!ちょっと良いですか、分からないことがあって……」
その時、木下と山口が戻ってきた。森橋はすぐにこのトラブルについて、相談する。すぐに山口が受入入力をしていない書留を探すように指示し、午後分の書留の中からそれを見つける。
「だははははは!俺が渡した書留じゃねぇかよ!」
「ごめんなさい。騒いじゃって」
「もらったらすぐに受入する癖をつけろ」
これで端末内のエラーが無くなり、無事に途中返納ができるようになった森橋くん。
”ここがある意味で、この日の分岐点であった”
無事に途中返納をして、休憩に入り……午後分の道順組立をし、午後分の書留を持ち出しをして、出発する森橋くん。
本人はまだ、まったく”この事”に気付いていない。
それも無理はない話。凄い偶然であるが、少しのミスが上手い事に重なってしまい、”発見”に遅れてしまったのだ。紛失した事に関して言えば、”発見”が早くないといけないのだ。
すでに森橋くんは5時間以上も、書留が紛失した事に気付いていないのだ。
そして、気付いた時は16時47分。
「……あれ?」
NEWトランス社へ集荷をしにいく直前。書留カバンの中身と頭の中に思っている書留の本数が
「ない!……えっ!?ない!!」
書留が1本ない事に焦り出す。
もう配達は残り2コマだけと、あと20分くらいのところである。
◇ ◇
18時頃。
今日の夜間担当は矢木が務めており、彼はすでに出発をしていた。
順当に実力通りの面子が帰ってきているわけだが
「……なんか、森橋。遅くねぇか?」
「だな。あいつの進みはいつもと変わらなかっただろ?」
「手伝いなしで、もう17時半頃には帰って来られるようになりましたからね。ちょっと心配ですね」
普段なら帰って来る頃合いで、30分遅いというのは……何かあったのか?って考える。とはいえ、実達が最悪を考えるわけもない。18時を過ぎてようやくだ。森橋くんが山口に電話をするのであった。
「!森橋から電話だ。……おう!どうした?」
『や、山口さん!すみません』
「は?」
『か、か、書留が一本ないんですっ!!』
「……はい?」
『書留がないんですっ!!』
「はぁ~~~!?」
山口が大きな声をあげて、実と木下もその会話に意識を向ける。山口はちょっと外して、
「実さん、木下さん。森橋が書留が失くしたって言ってるんだが……」
「え?……えーーーー!?」
「だははははは!マジかよぉっ!!」
さすがにこれが他班だったら、無関心に笑ってから協力をするのであるが。自班の事となると、焦り出すのは当然だ。こーいうミスは木下の方が大ベテランとして落ち着いていて、指示を出す。
「森橋。お前、今。どこにいる?」
『え、えっと!書留を探してて、その!今、35-2のグラスマンションです!』
「お前はそこでジッとしてろ。今からそっちに実を向かわせる!!」
「わ、分かりました!残りの配達があれば、私が引き受けます!それと他の課長達にも伝えておきますね!」
……書留がないと気付いた時は、すぐに局に報告しろって事なんだが。森橋くんは自分一人で周囲を探しに行ってしまったらしい。それが40分くらいだ。見つかりっこねぇだろって、山口と木下は思う。
書留がねぇって事は
「で、どのお宅の”書留”がねぇんだ?」
重要になってくるのは、どの書留がねぇかだ。
それが
『わ、分からないんです!山口さん、木下さん!』
「「はぁ!?」」
『どうすればいいんですか!?』
パニック&パニック。書留が1本内と正常な考えができないものだ。森橋くんはどの書留がないのか、分からずに探しているという状況だ。
「番号を言え!森橋!」
『え!?』
「書留の番号だ!確認画面を開いて、1本足りてない、書留の番号をこっちで調べる!調べろ!」
『は、はいっ……番号は……』
書留の追跡番号を検索する。
これを検索しても、現在、どのような処理がされているかまでしか分からないが、……。会社内のPCで検索すれば、”いつ”受入入力をしたか、”引受”をした郵便局がどこなのかが特定できる。……時間は掛かるが、紛失した書留が誰宛てのモノかが判明できる。
山口は課長達が扱うPCをお借りして、森橋が紛失した書留を捜しつつ……。
「こーいう時に書かせて良かったな」
木下は、事前に森橋に紙に書かせた書留の記録を確認する。
この時、郵便課から午前中に返納した不在の書留と完了の配達証を照らし合わせながらの作業……。
書留を紛失すると分かるのだが、その特定には数十分は擁する。
「お待たせー、森橋くん!書留がないって本当なのかい?」
「実さーん。ごめんなさい!どれだか分からないんです!」
「落ち着きなさい。まだ配達は残っているかな?」
「NEWトランス社の集荷はしたんですけど、残り2コマ分がまだ……」
「そうか。とりあえず、私がもう一度、確認してみようか。それから残りの配達は私が行くから、君は局に戻って、木下さんと山口くんの指示に従いなさい」
実が森橋くんと合流。2人で慎重に午後分の書留の総数を数える。森橋くんはもう4回、5回とやっていて、やっぱり数が合っていない。
「完了4つに不在が3つ。確かにないね」
実際に確認した上で、実が木下に連絡。
今の持ち分を報告して、最終的に残っている1通の書留を割り出してもらう。
森橋くんが記録していた紙と照らし合わせた結果……。
「……分かったぜ。10-14の飯泉さんの書留だ。この書留がない!」
◇ ◇
グシャァ……
「あ~~~、やりやがったかぁ」
部長は頭を抱えつつも、年に2度はあるであろう、書留の紛失事故だ。木下達の尽力のおかげで書留の場所は特定できたが、森橋くんの致命的なミスが2点発覚してしまった。
そこんところは帰って来てから締め上げるとしてだ。冒頭のように
「こうなると、”山狩”だ」
周囲に一声発して、今残っている局員達を総動員して、まずは局内を大捜索させる。
書留を紛失しているケースで最もありがたいオチが”局内に書留が残留している”というケースである。
残留しているケースとしては
1.該当する区分口や事故区分口、空いている区分口に入っている。配達原簿の透間に入っているケースもあります。
2.書留の保管箱内に入っている
3.机の下に落ちている。
などといった場所をみんなで捜索しています。
局内のことであれば、いる人間を総動員すればすぐの事ですが……中々、見つかったケースはありません。
残念なことに
「外で落としてやがるな。俺も直で観たぜ」
あの木下も笑わずに現状を分析する。
実が森橋くんが残している通常配達を終えてから、怒られる前提で”飯泉さん”のお宅に尋ねに向かった。
”局外”で書留紛失したケースとして、”速達”と勘違いしてポストに投函しているケースだ。
取り扱いとしては間違っているが、お客様にお届けされているとしたら謝罪だけで穏便にやり過ごせる可能性が出て来る。もちろん、森橋くんは始末書行きであるが……
『木下さん、実です。今、飯泉さんのお宅を訪ねたんですけれど』
「おう、どうだった」
『残念ながらご不在ですね。ただ、ポストの中は空です。今日は何もなかったんじゃないかと思います』
「うげ~、マジかよぉぉ」
”局外”で書留紛失。最も多いケースになるよなぁ~って思っていたが、その通り。
マジでどこで紛失したのかが、分からねぇ展開である!!
「も、戻りました」
そして、ボロボロな表情になっている森橋くんが局に戻ってきた。




