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俺の彼女は姉です嫌です助けてください  作者: Melon
第1章

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7/12

紹介

 ふと、店内の時計を見ると、いつの間にか六時半になっていた。


「......って、もうこんな時間か! そろそろ帰らないと、怒られちまう」


 俺はピザを急いで頬張る。


「ふぅ......。ご馳走様でした。......姉さんごめん。せっかく奢ってもらったのに、ほとんど味わって食べられなくて......」


「いいよ。気にしないで。それより、急いで帰らないといけないんでしょ? 早くお店から出ようよ」


 姉さんは席から立ちあがり、財布を取り出す。

 カウンターの店員に領収書を渡し、お金を払う。


「姉さん、今日はありがとうな」


「今度は、英治が倍返ししてね?」


「えっ......? 倍......!?」


「冗談だって、冗談」


 姉さんと会話しながら、ファミレスの外に出る。


「......次は、俺の誕生日の時に会う感じか?」


「そうだね。その時はちゃんと、買った服を着ていくよ」


「......じゃあ、俺の家の近くに公園があるだろ? そこに、午後の六時に集合で」


「りょーかい! じゃ、まったねー」


 姉さんは手を振りながら帰っていった。

 俺も手を振り返し、急いで家に帰ることにした。


 次に会うのは、両親に姉さんを紹介する日。

 両親に姉さんだとバラす日。


 姉さんと別れる日。






 今日は俺の誕生日。

 家族に約束していた通り、彼女を紹介する日。


「英治! お待たせ!」


 家の近くの公園のブランコ、そこに一人で座っていると、姉さんがやってきた。

 いつものシワシワなパーカーとジーパンではなく、一緒に買いに行った新品の服を着ていた。


「ちゃんと服を着てきたのか」


「当然でしょ! それに、ちゃんとメイクもしてきたよ!」


「うーん......。あんまり違いが分からないけど......」


「ひっどーい!」


 姉は、俺の頬を指で挟む。


「ほ、ほめんなはい......」


「英治からしたら違いは分からないけど、両親からしたら私にずっと会っていないんだし、問題無いでしょ! 多分!」


「多分かよ......」


「まぁまぁ、大丈夫だって。ほら、行こ」


 姉さんは、俺の手を繋ぐ。


「いつも思ってたんだけど、英治の手、温かいね」


「そういう姉さんは、冷たいな」


 俺は姉さんの冷たい手を握りながら、家に向かった。



「も、戻ってきた......!」


 家が見えてくると、姉さんの手が更に冷たくなり始めた。

 それほど、姉さんは緊張しているのだろう。


 だが、そんな姉さんを、俺は切り捨てなければならない。

 俺は、姉さんとではなく、他の人と正式にお付き合いしたいのだから。


「というか、私たちの家って、凄く大きいよね......」


「まぁ、昔はお偉いさんだったみたいだからな」


 俺たちの家は、普通の家ではない。

 都内の郊外の広大な土地に建っている、和風の屋敷だ。

 部屋の数は二十を超えており、まるで武家屋敷である。


 家の前には、俺たちの両親が待っていた。


「英治、お帰り! ......その方が、英治の彼女さん?」


「おお、美しい立派な方じゃないか!」


「手まで繋いじゃって、仲が良さそうねぇ......」


 俺の両親は、姉さんのことをマジマジと見つめる。

 どうやら、姉さんということには気が付いていないようだ。


「初めまして! 私、深谷縷々(ふかやるる)って言います。英治くんとは偶然仲良くなって、お付き合いしています。ね? 英治くん?」


「あ、えっと......」


 深谷縷々では無い。

 この人は追放された、神谷音々だ。

 姉さんに無理やり、付き合っているフリをさせられている。


 この三つを言うだけでいい。

 それで、姉さんが付きまとってくる日々が終わる。


「こ、この人は......」


「ど、どうしたの? 英治くん?」


 姉さんの手が、露骨に汗ばんできたのを感じる。

 そして、手を握る力が、だんだんと強くなっていく。

 姉も俺の考えを察しているのだろう。


 言わなきゃ、ずっと姉さんが付きまとってくる。

 毎日毎日、家族に付き合っているというアピールをしながら生活しなければいけなくなる。


「え、英治......? ちょっと、大丈夫?」


 お母さんが、俺のことを心配する。

 自分は今、どんな顔をしているのだろう。



 姉さんは、無理やり俺に関わってきて、俺の生活を破壊した。

 恋人を作る機会も奪った。

 最悪だ、最悪な姉だ。


 だけど、姉さんは俺に優しくしてくれた。

 俺の成長に感動してくれた。

 そんな姉を、最悪の姉として切り捨てられるのか。


 それに、姉さんにも考えや訳があるのかもしれない。

 わざわざ追放された実家に、恨んでいるであろう実家に、俺の人生を奪ってまで戻ろうとするなんて。


 姉さんの考えを、真実を知らずに、このまま切り捨ててもいいのだろうか。



「......この人は、少し前に出会って、趣味が合うから、仲良くできると思って......。付き合うことになりました......」


 俺が喋った瞬間、姉さんの手の力が一気に抜ける。


「なるほど、趣味で......。なら、良い関係になれそうだな。母さん」


「ええ! そうね! 縷々ちゃんだっけ? いらっしゃい! 神谷家は貴方を歓迎するわ! この後、英治の誕生日パーティーを行うから、一緒に英治を祝ってあげて!」


「は......はい!」


 姉さんは裏返った声で返事をする。

 返事を聞いた両親は、玄関へ向かって歩き始める。


「はぁ......はぁ......」


 運動をした訳でもないのに、息が苦しい。

 そんな俺を、姉さんは抱きしめた。


「わっ、どうしたんだよ......!」


「英治、ありがとう......!」


 姉さんは、俺の耳元で囁いた。

 今にも泣き出してしまいそうな、細い声で。


「さ、行こう......!」


 姉さんが歩き始め、俺も歩き始める。

 そして、俺たちは家へと入る。


 追放された姉さんは、約十年ぶりに実家の敷居を跨いだ。



 正直、ずっと姉さんと付き合うつもりはない。

 だから、いつかは両親にバラすつもりだ。


 これは、俺の本当の彼女ができるまでの、一時しのぎ。

 そう、一時しのぎ......。

第1章 終

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