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俺の彼女は姉です嫌です助けてください  作者: Melon
第1章

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6/12

落ち込む姉さん

 何個かゲームを遊ぶと、俺たちはゲームセンターを出た。


「......ごめん。本当にごめん......」


「いや、いいよ。気にしてないから」


「うぅ......。その慰めの言葉が、逆に辛い......」


「......じゃあ許さない」


「ひぇん......。慰めてくれないのも辛い......」


「じゃあどうすりゃいいんだ!」


 姉さんはとてつもなく落ち込んでしまっているようだ。

 俺は姉さんの自己肯定感を戻すいい方法は無いか考えながら、辺りをキョロキョロと見渡した。


 しかし、恋愛経験が無い俺に、女性のことなど分かるはずが無い。


「と、取り合えずさ。どこかお店で休憩でもしようよ」


 特に疲れている訳でもないが、姉さんを落ち着かせるために、一旦どこかのお店に入ることにした。

「そうだ、あそこに行こうよ」


 俺は一番最初に視界に入ったイタリアンのファミレスを指差した。

 しかし、姉さんは特に反応を示さない。

 俺は仕方なく、姉さんの手を握り、ファミレスの中へと連れて行った。


「いらっしゃいませー。二名様ですか?」


「はい、二名です」


「二名様ごあんなーい」


 店員に案内され、俺は席に着いた。


「ほら、姉さん。美味しい物でも食べて、元気出そうぜ」


「私なんか私なんか私なんか私なんか......」


 姉さんはブツブツと言い続け、俺と目を合わせようとしない。


「......姉さん。ありがとうな」


「......え?」


「姉さんは不器用かもしれないけどさ。姉さんなりに気を使ってくれて、デートに誘ってくれたんだろ? ......俺は、それだけでも嬉しいよ」


「......本当!?」


 突然、姉さんの悲しそうな表情から一転、急に笑顔になる。


「はっ!?」


「ふふふ......! 私が弟にボロクソに言われた程度で、落ち込むと思う?」


「じゃ、今までのは......」


「......英治が、どのくらい彼女に優しくできるのかなって、試してみたの」


「お、俺を騙してたのか!?」


 俺は前のめりになり、姉さんに強く言う。


「......英治、成長したね」


「え?」


 姉さんの目元が、少しだけキラリと光る。


「ううん。なんでもない」


 姉さんは目を擦り、メニューを俺に手渡した。


「ほら、好きなの食べなよ。奢ってあげる」


「え、いいよ。悪いし......」


「遠慮しないの! ほら、選びな!」


「それじゃ......」


 俺はメニューをパラパラとめくる。


「じゃあ、ピザで」


「ピザね。じゃあ、店員さん呼ぶね」


「姉さんはいいのか?」


「私はお腹空いてないから」


 姉さんが呼びベルを押すと、数十秒後に店員が注文を受けにきた。


「ご注文をお伺いいたします」


「こちらのカマンベールチーズピザを一枚ください。注文は以上で」


「かしこまりました」


 店員は注文をメモすると、厨房へと向かった。


「なあ、本当に何も食べなくていいのか?」


「いいのいいの。そんなことよりさ、家族に会ったらどうするか決めておこうよ」


「決めておくって、例えば?」


「まず、名前だよね。この前、咄嗟に縷々って名乗ったけど、その名前をそのまま使おうかなって思ってるんだ」


「あぁ......あの時の......」


 嫌な思い出が蘇ってくる。

 あの日以降、俺はクラスのみんなから白い目で見られ続けている。


「あと、お化粧とかした方がいいよね......。顔でバレそうだし......」


「うーん、どうだろう。十年も経ってるし、意外と気が付かないんじゃないか? だって......」


 俺は口を咄嗟に閉じた。


 俺たちのお母さんは、姉さんの追放後、ほとんどと言っていいほど姉さんの名前を言っていなかった。

 まるで、記憶から消えてしまったかのように、だ。


 だから、姉さんのことは覚えていないのではないか、と言いかけてしまった。

 しかし、そんなことを姉さんが知っては、家に居づらくなってしまうのではないか。


 そう思った俺は、言うのを止めた。


(......って、俺は何を考えているんだ!)


 ここで、俺は我に返る。

 そもそも、姉さんを実家に帰すつもりなどない。

 両親に姉さんだとバラし、引き離してもらうつもりなのに。


 それなのに、どうして。


「だって? どうしたの、英治?」


「あ、いや、何でもないよ。あはは......」


 俺は笑って誤魔化した。


「......お母さんはさ、私が追放された後、私のお話ってしてた?」


「え......?」


 姉さんはまるで、俺の考えを見透かしているかのように、的確な質問を投げかけてきた。


「し、してるよ! 音々が追放されて、寂しいね......って......」


「そ、そう」


 姉さんは笑う。

 だが、その笑顔は、純粋な笑顔ではなく、無理やり作ったような笑顔のようだった。



「お待たせしましたー」


「あ、ありがとうございます」


 しばらく姉さんと会話していると、注文したピザが運ばれてきた。


「それじゃ、いただきまーす」


 俺はピザカッターでカットして、一切れを口に運ぶ。


「うん。美味しい」


「美味しそうでなにより」


「姉さんも食べなよ」


 俺は別の一切れを持ち、姉さんの前に差し出す。


「え? いいって私は。英治が食べなよ」


「いいよ。奢ってもらっておいて、しかも、一人で食べるなんて、申し訳ないし......」


「......そう? じゃ、一切れだけ......」


 姉さんはそう言うと、俺からピザを受け取る。

 と思いきや、口を大きく開けた。


「え?」


「食べさせてよ」


「じ、自分で食べてくれよ......」


「えー......。恋人同士なのに......」


「そ、それは偽りの関係だろ!」


 すると、姉はガッカリしてしまった。


「......分かったよ。食べさせるよ......」


「本当!?」


 姉さんは喜ぶと、再び口を開ける。

 俺は姉さんの口へとピザを運ぶ。


「あーむ」


 姉さんは一切れの半分ほど食べ、モグモグと口を動かし始めた。


「うーん......! 久しぶりに食べたけど、美味しいねー」


「......残りは自分で食べてくれよ」


「はーい」


 俺は残ったピザを姉さんに渡そうとした。

 すると、姉さんは俺の手に持っているピザを咥えた。


「なっ......!」


 突然のことだったので、俺は驚いてしまった。


「うーん。おいひぃ......」


「な、何してんだよ!」


「ドキッとした?」


「べ、別に......」


「そう? 顔が赤いけど......」


「気のせいだって! 照明のせいで、顔が赤く見えるだけだって!」


「そう?」


「そうだって!」


「ふーん......」


 姉さんはテーブルに備え付けてあるナプキンで口を拭きながら、ニヤニヤした顔で俺のことを見つめる。

 そんな姉さんから、無意識に顔を逸らしてしまった。


「やっぱり、意識してるんだ」


「してないって!」


「ははは。分かってるよ。からかってごめんね」


「まったく......」


 俺は呆れながら、再びピザを食べ始めた。


(もし、姉さんと付き合うフリをするとなったら、毎日こんな感じでからかわれるのか......?)


 そうなってしまっては、毎日苦労することになるだろう。

 だからこそ、両親の目の前で、この人は姉さんだと言わなければ。

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