姉弟デート
服を買い終えた俺と姉さんは、次はいつ、どこで会うか決め、解散した。
家に帰宅すると、深刻そうな顔をしたお母さんに話かけられた。
「ねぇ英治? お母さん、思ったんだけど......。......彼女が居るって、嘘よね......?」
「嘘?」
「だって、彼女が居るって言う割には、ずっと家に居るし、通話したりもしていなさそうだし......。英治、もし嘘なら、ハッキリ言って頂戴。彼女が居ないんだったら、お母さんが今すぐにでもお見合いの準備をするから......」
「あ、安心してよ! 前も言った通り、誕生日の日に紹介するって!」
「本当......?」
「ほ、本当だって!」
「.....っ! 良かったわぁ!」
俺が嘘の報告をすると、母親はとんでもないほど喜び、俺を抱きしめた。
その喜びは、自分の息子が成長したことに対する喜びなのか。
自分の息子が追放されずに済むことに対する喜びなのか。
それとも、音々に続いて二人目の追放者を出してしまい、祖父や祖母たちから出来損ないの親と扱われないことに対する喜びなのか。
母親の真意は、俺には分からなかった。
「で、でもさ。まだ付き合ったばかりで、お互いのことを深く知らないからさ。その......。万が一があるかもしれないじゃん? だから、お見合いの準備だけは一応してくれないか......?」
「わ、分かったわ! お母さん、英治が絶対に追放されないように頑張るわ! 早速、良い相手を探してみるわね!」
お母さんはスマホを取り出し、画面を眺めながら自室へ戻っていった。
「ふぅ......。でも、これで一安心だな......」
これで、姉さんだとバラして、彼女が居ないことが発覚しても、お見合いが上手くいけば追放されずに済む。
追放を避けられそうで安心したので、今日は久しぶりに熟睡できそうだ。
次の日の放課後、俺は姉さんと約束した場所で会うことにした。
駅前の有名な美容室、その目の前の広場だ。
「遅いなぁ......」
俺はスマホで時間を確認する。
約束の時間は既に二十分ほど過ぎているが、姉さんの姿は見えなかった。
「あ、英治!」
姉さんの声が聞こえ、俺は顔を上げる。
美容室の入口を見ると、そこには、髪をセットしてもらったと思われる姉さんの姿があった。
「姉さん、美容室に行ってたのか」
「ごめんごめん。思ったより時間がかかっちゃって......。でも、可愛くなったでしょ?」
姉さんはクルリと一回りし、髪型を見せつける。
今までのポニーテールから一転、髪の毛は結ばず、先端を緩く巻いている。
髪の毛もボサボサだったのに、今はとてもサラサラしている。
「......その割には、服はいつも通りなんだな。......というか、今更なんだけど寒くないのか? 十二月だぞ?」
せっかく服を買ったのに、何故か服はいつもと同じ、シワシワのパーカーだった。
「......実家に帰るまでに、汚したりしたら嫌だなって思って......。それに、私って結構代謝がいいから、このくらいで丁度いいんだ!」
「そうなんだ」
「それよりさ! 実家へはいつ連れてってくれるの?」
「えーっと......。誕生日に紹介するって話してあるけど......。あと、一週間後かな」
「一週間後!?」
紹介するタイミングを聞いた姉は、ジャンプして喜んだ。
そんなに実家に帰れるのが嬉しいのだろうか。
自分を追放した家族たちが住んでいる実家なのに。
(まぁ、姉さんは実家に帰ることはできないんだけどな......)
だが、ここまで嬉しそうだと、両親にバラすことが申し訳なくなりそうだ。
「そういえばさ、今日はなんで俺のことを呼んだんだ? もう俺を説得する必要も無いんだし、実家に帰るまで会う必要も無いんじゃないか?」
「......実はね。今日は、英治に恩返しがしたいと思って......」
「恩返し?」
姉さんはモジモジしながら、顔を赤らめる。
「......英治は嫌なのにさ。それでも私と付き合うって言ってくれてさ。それの......恩返し......。あと、英治が幼い頃に追放されちゃったから、お姉ちゃんらしいことをほとんどしてあげられていないな、って思って......」
突然、姉さんは俺の両手を握る。
「だから! 今日は私の奢り! 今からデートしよう!」
「デ、デート!?」
あまりにも突然だったため、俺は驚いてしまった。
「お姉ちゃんの私が案内してあげるからさ! それじゃ、レッツゴー!」
姉さんは右の拳を空に突き上げると、相変わらず強い力で俺のことを引っ張って歩き始めた。




