付き纏う姉さん
警察から解放された俺と姉さんは、明日の夕方、駅前の喫茶店で会うと約束した。
そこでハッキリと、付き合いたくないと言ってやることにした。
「英治! こっちこっち!」
喫茶店に入ると、奥の方の席に座っている姉さんが立ち上がり、手を振りながら俺のことを呼んだ。
「ちょ、姉さん......! 店の中なんだから、静かにしてくれよ......!」
俺は姉さんに近づき、耳元で囁いた。
「あっ......。ご、ごめんね......」
姉さんはションボリとしながら座る。
俺はそんな姉さんを見て、ため息をつきながら椅子に座った。
「それで、昨日のことなんだけど......」
「嫌だ」
「な、なんで!」
「だから、声がでかいって......!」
「あぅ......」
姉さんは口を抑え、周りをキョロキョロと見た。
周囲の客がこちらを見ていたため、姉さんは恥ずかしさで顔を赤らめた。
「そ、それで、なんで嫌なの?」
「シスコンじゃないから」
「別に、フリをするだけならいいじゃん......」
「それでも嫌だ」
「むむむ......!」
俺はキッパリと断るが、姉はどうにかして言葉を捻り出し、俺を説得しようとしている。
そんな姉を無視し、俺は店員を呼び止め、コーヒーとサンドイッチを頼んだ。
「む、無視しないでってばぁ......!」
「別にいいだろ。無視したって無視しなくたって、姉さんからしたら結果は変わらないんだから」
「ひ、酷い!」
「とにかく、姉さんとは付き合えない。無理、絶対に、無、理、だ」
「そ、そんなに言わなくても! だったら......! だったら、付き合わざるを得ない状況にしてやるー! 覚えてろよー!」
姉さんは立ち上がり、喫茶店を出ようとする。
「ちょ、ちょっと待て! 自分が飲食した分の料金は......」
「頼んでないから大丈夫ー!」
姉さんは走って喫茶店から出ていってしまった。
「な、なんだあの執着心は......」
俺はあまりの実家への執着心に、若干引いてしまった。
この日をきっかけに、姉さんによる妨害工作の日々が始まった。
ある日の放課後、俺は家に帰ろうとした。
しかし、校門の隅に隠れ、じーっとこちらを睨みつける、姉さんの姿があった。
周囲の生徒からは奇異な目で見られているが、姉さんは全く動じていない。
俺は関係者だと思われたくないので、無視して帰宅することにした。
「えーいじ! 一緒にかーえろ!」
姉さんは突然、俺の腕に抱きついてきた。
「は!? 何してんだよ!」
俺は腕を引っこ抜こうとするが、姉さんの力は思っていたよりも強く、ビクともしない。
「ちょ......! 強い! なんて力だ!」
俺が姉さんから逃げるのに苦戦していると、友人に出会ってしまった。
「え、英治? その人は姉か?」
「そ、そうなんだ......」
「私は、英治の彼女の縷々《るる》! 英治がいつもお世話になってます!」
「はぁ!?」
姉さんは俺との関係と名前を偽り、自己紹介をする。
「そ、そうなんですか」
友人がそう言うと、俺の元に近づく。
「英治、いいな。可愛い年上の彼女がいて」
「いや、ちがっ......! もがっ!」
弁解しようとしたが、俺は姉さんに口を塞がれてしまう。
「これからも英治と仲良くしてあげてね」
姉さんはニコニコしながら、帰っていく友人に手を振った。
「な、何してくれてんだ! マジで!」
「だって、付き合ってくれないんだもん」
姉さんはムッとしながら、俺を睨む。
「あれ、英治くん?」
「あ......!」
声が聞こえた方を向くと、同級生の女子生徒が立っていた。
「その人はお姉さん? いや、姉弟の距離感じゃないし......。彼女さん?」
「いや、姉さんで合って......」
しかし、姉さんは再び俺の口を塞ぐ。
「そうそう。英治の彼女だよ!」
「え、でも、今英治くんが姉さんって......」
「こういうプレイなんだ! 英治ったら、お姉ちゃんが大好きすぎて、彼女の私にお姉ちゃんになってほしいって、毎日毎日おねだりするから、仕方なく......」
「......うーわ」
クズを見るような目で、俺のことを見つめる同級生。
(マズイ......! これはマズイ......!)
そう思った俺は、どうにかして姉さんの手をどかそうとした。
そこで、俺は姉さんの手をベロベロと舐めた。
こんなことしたくなかったが、力で勝てない以上、こうするしかなかった。
だが、姉さんは手を一切離さない。
まるで、何も感じていないみたいだ。
「英治くん、キモ......」
同級生は俺にそう吐き捨て、家へ帰っていった。
終わった。
恐らくクラス中に、いや、クラスや学年を跨いで、学校中にこの噂が伝わるに違いない。
同級生が曲がり角を曲がり、見えなくなると、姉さんは手をどかした。
「ぷはっ! な、なんで離さないんだ......!」
「ふっふっふ......! 私が弟の唾液如きで、手を離すと思うなよ!」
姉さんは自信満々に言う。
凄いムカつく。
「このままだと悪い噂が広がって、英治は誰とも付き合えなくなるんだから、早く私と付き合ったほうがいいよ! じゃ、また明日!」
姉さんは俺に手を振り、どこかへ行ってしまった。
「さ、最悪だ......!」
このままでは、姉さんの言う通り、誰とも付き合えなくなってしまう。
そうなれば、姉さんと付き合う以外の手段が無くなってしまう。
「だったら......!」
こうなったら、本気で勝負だ。
俺は意地でも姉さんを避けて、絶対に誰かと付き合うと決めた。
そのために、家に帰って計画を練ることにした。




