仕事
俺は布団の中で目を覚ました。
「あれ、なんで布団が......?」
勉強をしていたのは覚えているが、そこから先の記憶が無い。
もしかして、途中で寝てしまったのかもしれない。
「母さんが布団を敷いてくれたのかな......?」
そんなことを考えていると、誰かが俺の部屋に近づいてくる音が聞こえた。
「あ、起きてる。英治、おーはよ」
音の正体は姉さんだった。
既にパジャマを脱いでおり、昨日着ていた服を着ている。
仕事に行くから着替えたのだろう。
ふと、時計を見ると、時刻は朝六時だった。
「それじゃ、私はお仕事に行くから」
「え? こんなに早くから?」
「そうなの。私のお仕事、出勤が早めでね。それじゃ、英治も頑張ってねー」
姉さんは手を振りながら、俺の部屋を出ていった。
「......大変そうだな」
そんな姉さんに対して、俺は二度寝をしようとしたが、なかなか眠れなかった。
姉さんが頑張っているのに、俺はのんきに二度寝をしていていいのか、と思ってしまったからだ。
姉さんのことなんて、気にしなくていいはずなのに。
「......眠れない」
俺は体を起こし、布団を押し入れに収納した。
体を伸ばし、ストレッチをする。
「いたたたた......。やっぱ、寝落ちしたんだな......。体が痛い......」
数分ほど体を動かし、ほぐしていく。
「ふぅ......。......朝飯、できてるかな?」
体を動かして目が覚めてくると、空腹であることに気が付いた。
俺は台所に向かい、あとどのくらいで朝食ができるか確認することにした。
「おはよう」
「あら、おはよう英治。そうだ、縷々ちゃんはお仕事があるって言って、出てっちゃったわよ」
「知ってるよ。さっき、会ったから」
「縷々ちゃん、大変そうねぇ......。でも、その分、体力とか精神とか鍛えられてそうよね」
「まぁ、そこら辺の人よりはたくましいんじゃない......?」
数日前までの、俺に対する姉さんの執着心を思い出しながら、お母さんに返事をした。
「英治、良い人と出会えて良かったわね。このまま、長続きしてくれれば、お母さんも安心できるんだけど......」
「だ、大丈夫だよ。今のところ上手くやれてるから、安心してよ」
俺は適当に返事をする。
だが実際は、本当にバレないかヒヤヒヤしている。
「そう。良かったわ。それじゃあ、朝ご飯を作っちゃうから、ちょっと待っててね」
「うん」
俺は台所を出て、居間へと向かった。
それから、朝食を食べ、着替え、家を出た。
家に居ても暇なので、早く学校に行き、勉強をすることにした。
「......あれ?」
外に出ると、家の塀に寄りかかった姉さんが立っていた。
手に持ったスマホをジーっと見ながら、何か呟いている。
「姉さん......?」
「ひゃあ! ......え、英治? 家出るの、早いんだね」
姉さんは驚き、スマホを落としかけた。
落としそうになりながらもなんとか拾い、ポケットにしまう。
「いや、暇だったからさ。それより姉さん、仕事じゃなかったの?」
「じ、実は、今日のお仕事が中止になっちゃって......えへへ......」
「中止? そ、そうなんだ......」
「それで、暇になっちゃってさ......。......そうだ、良かったら、学校の近くまで着いて行っていい?」
「え、いいけど......」
「いいの? ありがと」
姉さんは俺に歩み寄り、手を勝手に握る。
「手、手を握る必要は無いんじゃ......」
「いいじゃんいいじゃん。カップルなんだからさ。それに......」
姉さんは耳元に口を近づける。
「家族がいつどこで見てるか、分からないからさ......」
俺は唾をゴクリと飲み込む。
確かにそうだ。
あんなに徹底的なルールを作るような家だ。
俺たちを監視していないとは言い切れない。
「......それじゃ、行こうか」
姉さんは俺の手を引き、歩き始めた。
通学路を、姉さんと二人で歩く。
俺は少し緊張しているが、姉さんはそんな様子はない。
「......懐かしいなぁ。私もこの道、何回も歩いたよ......」
辺りをキョロキョロしながら歩く姉さん。
「あー......。あの建物とか、無くなっちゃったんだぁ......。......って英治? ちょっと元気ないね」
「いや、ちょっと......」
「お悩みなら聞くよ?」
「......姉さんは、不安じゃないの?」
「......不安?」
俺は、いつバレるか不安で仕方がない。
だが、姉さんは家に入る直前に緊張を見せただけで、それ以降、以前は全く緊張する素振りを見せていない。
「だって、家族を騙していて、いつ追い出されるか分からない状況で......。なんで、そんなに余裕なんだ?」
「うーん......」
姉さんは顎に手を当て、じっくりと考える。
「......大人だから?」
「大人だから、ねぇ......」
こんなことが余裕なくらい、色々なことを経験してきたということなのだろうか。
「まぁ、不安なのは分かるけどさ。ここは、お姉ちゃんを信じてみてよ」
「信じるっていってもなぁ......。そもそも、姉さんが俺と付き合うだなんて言わなければ......」
「でも、あのままだったら、英治も.......」
「......そうだけど。そうだけど......」
あのままでも付き合える、なんて、何の根拠も無いのに言い切れなかった。
「とにかく、付き合うことでお互い助かってるし、お姉ちゃんが頑張るからから、任せてよ」
「わ、分かったよ......」
そう言われ、渋々姉さんを信じることにした。
果たして、本当にうまくいくのだろうか。




