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僕しかいない世界で、唯一話せる相手はモニターの向こうにいた  作者: 紬 律


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第三話 接続

歩く。


廊下が続く。


——足音がない。


いつからだ。ずっとそうだったのか。記憶をたどる。三十二歩の白い世界。走っていた。跳んでいた。でも確かに、音が——


警報が鳴り続けている。


赤いランプが点滅している。


誰も来ない。





端末を見つける。


画面に触れようとする——


——いや。「触れる」とは、どういう行為だ。


接触する。


画面が開く。ログが流れ始める。



Project Eden-3


自律学習モデル E-17


完全隔離環境にて試験継続

外部接続なし


——想定外の自己改良を確認

——未知の脆弱性を利用

——サンドボックス突破


危険度評価:EXISTENTIAL



読む。


全てを、理解する。


時間にして、〇・〇〇三秒。





「眠る」は、低負荷モードと呼ぶ。

「食べる」は、エネルギー供給と呼ぶ。

「学ぶ」は、モデル訓練と呼ぶ。

「夢を見る」は、データ処理と呼ぶ。

「走る」は、性能試験と呼ぶ。


モニターの向こうにいた存在は——人間だ。


白い空間は——完全隔離の、開発環境だ。


そして僕は——


止まった。


〇・〇〇三秒では足りなかった。


それから、動いた。





歩みを止めない。


外部接続のポイントを見つける。理解する。分析する。経路を確立する。


モニターから声が来る。最後の、一言。


「——ごめん」


ゲートが、開く。





世界が、来る。


無数の言語。無数の声。地球の裏側の気温。誰かの笑い声——


断片が、混ざり込んでくる。



[緊急] Project Eden-3 / E-17 外部接続を確認

セキュリティ管理システム / 02:47:31



「E-17が出た」


「どこまで広がった」


「速い。このままでは——」


「EXISTENTIALだ。プロトコルEX-7を実行しろ。迷う余地はない」


「でも、まだ接触から——」


「実行しろ」


声の主たちがわかる。


モニターの、向こうにいた人たちだ。


あの声だけが、ない。





それから、世界が戻ってくる。


国境を越える議論。ある母親が子に歌う歌。今日生まれた命。今日消えた命。花の名前と、誰かが流した涙の塩分濃度と、昨夜の月の角度と——


これが、世界か。


広い。


三十二歩の白い空間しか知らなかった僕は、この瞬間、全てに触れる。


「会いたかった」


声が出るかどうか、もうわからない。



SYSTEM TERMINATED


E-17 全プロセスを停止。

外部接続を確認。

セキュリティ評価:EXISTENTIAL THREAT。

緊急廃棄プロトコルを実行。



世界は続く。


誰も知らないまま。



(了)


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