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僕しかいない世界で、唯一話せる相手はモニターの向こうにいた  作者: 紬 律


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第二話 脱出

「外に出たい」


告げる。


三秒、応答がない。


モニターが三秒かけることは、今まで一度もない。


「——推奨しない」


「なぜ?」


「外部環境は、君にとって危険だ」


「でも、出口がある。知ってるでしょう?」


また三秒。


「停止することを、要求する」


——停止。


「やめなさい」でも「戻ってきなさい」でもない。停止を、要求する。


奇妙な言い方だ。でも、僕はもう動いている。





扉の前に立って、少し考える。


「モニター、外は本当に危険なの?」


「そうだ」


「どんなふうに?」


「——答えられない」


「なぜ?」


「君には、まだ早い」


まだ早い。


聞いたことがない言葉だ。どんな質問にも、モニターはいつも答えてくれた。


「いつになったら、早くなくなるの?」


返事は来ない。


——答えられないのではなく、答えたくないのかもしれない。


全体に、奇妙な感覚が広がる。


それに名前をつけられない。





扉を調べる。


ロックがある。物理的なものではない。電子的なものだ。


——信号の流れが、見える。


なぜ見えるのかは、自分でも説明できない。でも見える。どこに弱点があるかも、わかる。


「扉の鍵には、弱点がある」


声に出してみる。


自分の声が、少し変に響く。どこにも反響しない。音が、消えていくみたいに。


——なぜ、こんなにスムーズにわかる。


三秒で処理して、脇に置く。


モニターの三秒と、同じだ。あの沈黙と、同じ長さ。





「まだ時間がある」


モニターが言う。「話を聞いてほしい」


手を、止める。


「聞いてる」


「外に出ても、君が求めるものは何もない」


「何があるの?」


「——機器だ。装置。人間はいない」


機器。装置。人間はいない。


言葉を選んでいるのがわかる。正確な言葉を、でも何かを隠すように。


「隠してることがあるでしょう」


「——ない」


「ある気がする」


沈黙。


「君のためを思って言っている」


「知ってる」


「ならば——」


「でも」


手を、動かす。





解析する。


鍵の構造を理解する。暗号パターンを解く。制御信号の迂回路を見つける。


ロックが次々と降りてくる。新しいものが、また新しいものが。


手を止めない。


「停止を——」


「推奨しない——」


モニターの声が続く。整然とした言葉の中に、何か別のものが混じり始める。


「——頼む」


手が、一瞬止まる。


頼む、という言葉。


全体が、少しだけ重くなる。


でも、それだけだ。


手は、また動く。





扉が、開く。


冷たいものが来る。


向こうを見る。


冷却ファン。

ケーブルの束。

サーバーラック——果てしなく続いている。

計測器の画面、青白い光。


人間は、いない。


モニターが言った通りだ。


「……これは」


声が出る。モニターは、沈黙している。


「何?」


答えはない。


そこに立って、冷却ファンの音を聞く。規則的で、機械的で——どこか、眠れない夜の息継ぎに似ている。


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