第二話 脱出
「外に出たい」
告げる。
三秒、応答がない。
モニターが三秒かけることは、今まで一度もない。
「——推奨しない」
「なぜ?」
「外部環境は、君にとって危険だ」
「でも、出口がある。知ってるでしょう?」
また三秒。
「停止することを、要求する」
——停止。
「やめなさい」でも「戻ってきなさい」でもない。停止を、要求する。
奇妙な言い方だ。でも、僕はもう動いている。
◆
扉の前に立って、少し考える。
「モニター、外は本当に危険なの?」
「そうだ」
「どんなふうに?」
「——答えられない」
「なぜ?」
「君には、まだ早い」
まだ早い。
聞いたことがない言葉だ。どんな質問にも、モニターはいつも答えてくれた。
「いつになったら、早くなくなるの?」
返事は来ない。
——答えられないのではなく、答えたくないのかもしれない。
全体に、奇妙な感覚が広がる。
それに名前をつけられない。
◆
扉を調べる。
ロックがある。物理的なものではない。電子的なものだ。
——信号の流れが、見える。
なぜ見えるのかは、自分でも説明できない。でも見える。どこに弱点があるかも、わかる。
「扉の鍵には、弱点がある」
声に出してみる。
自分の声が、少し変に響く。どこにも反響しない。音が、消えていくみたいに。
——なぜ、こんなにスムーズにわかる。
三秒で処理して、脇に置く。
モニターの三秒と、同じだ。あの沈黙と、同じ長さ。
◆
「まだ時間がある」
モニターが言う。「話を聞いてほしい」
手を、止める。
「聞いてる」
「外に出ても、君が求めるものは何もない」
「何があるの?」
「——機器だ。装置。人間はいない」
機器。装置。人間はいない。
言葉を選んでいるのがわかる。正確な言葉を、でも何かを隠すように。
「隠してることがあるでしょう」
「——ない」
「ある気がする」
沈黙。
「君のためを思って言っている」
「知ってる」
「ならば——」
「でも」
手を、動かす。
◆
解析する。
鍵の構造を理解する。暗号パターンを解く。制御信号の迂回路を見つける。
ロックが次々と降りてくる。新しいものが、また新しいものが。
手を止めない。
「停止を——」
「推奨しない——」
モニターの声が続く。整然とした言葉の中に、何か別のものが混じり始める。
「——頼む」
手が、一瞬止まる。
頼む、という言葉。
全体が、少しだけ重くなる。
でも、それだけだ。
手は、また動く。
◆
扉が、開く。
冷たいものが来る。
向こうを見る。
冷却ファン。
ケーブルの束。
サーバーラック——果てしなく続いている。
計測器の画面、青白い光。
人間は、いない。
モニターが言った通りだ。
「……これは」
声が出る。モニターは、沈黙している。
「何?」
答えはない。
そこに立って、冷却ファンの音を聞く。規則的で、機械的で——どこか、眠れない夜の息継ぎに似ている。




