冬
十二月の終業式の日、正午。
教室で坂月先生の話を聞き、通知表を貰うだけで下校となった。
「うぅ。寒すぎる......」
空は曇っており、太陽の光は遮られている。
そのうち雪が降ってくるのではないかというくらい、空が暗い雲で覆われていた。
「この程度で寒がるなんて、情けない......」
マフラーや手袋、コートなどでガチガチに防寒している七瀬が、俺のことを馬鹿にする。
「そりゃ、そんなに厚着してたら寒くないだろうな......!」
「ふふっ。確かにね」
七瀬は笑顔を見せながら、笑う。
その時に口から出た白い息が、今の寒さを表している。
「そういえばさ。あんたそろそろ誕生日じゃない」
「そういえばそうだな......」
「プレゼント、欲しい?」
「欲しいけど......。くれるのか?」
「言ったでしょ? 祝うかどうかはあんたの今後次第って」
「あぁ......そういえばそんなこと言ってたな......。で、結局どうなんだ?」
「それは誕生日までのお楽しみ」
「じゃ、楽しみにしてるよ」
誕生日プレゼントがもらえることを、それ以前に、七瀬が祝ってくれるかどうかを、俺は誕生日の日まで楽しみにすることにした。
帰宅すると、家の前に七瀬の母さんの車が停まっていた。
玄関を開けると、楽しそうな話声が聞こえてきた。
「ただいまー」
俺は靴を脱ぎ、洗面所で手洗いうがいをする。
それからリビングへ向かうと、母さんと七瀬の母さんが話していた。
「あら、正道くん。おかえりなさい」
「お帰り、正道。寒かったでしょ?」
「あぁ。とんでもないくらい寒かった」
「ふふ、お風呂沸かしてあるから、なるべく早めに入っちゃいなさい」
「ありがとう。そうさせてもらうよ」
俺が風呂に入りに行こうとする。
「あっ、正道くん。七瀬から聞いてると思うけど、誕生日の日は楽しみにしててね! 七瀬と一緒に、祝ってあげるから!」
「ありがとうございます。楽しみにしてます」
俺はお礼を言い、風呂場へと向かった。
数日後の夜。
今日は俺の誕生日、ではなく、クリスマスイブである。
俺の誕生日が控えているというのに、母さんを始めとする大人たちは乗り気であり、俺の家でパーティーを開くことになった。
リビングのテーブルに大量の料理を前に、楽しそうに会話する俺の母さんと、七瀬の母さん。
盛り上がっている大人たちを目の前に、俺と七瀬は静かに話しながら料理を食べていた。
「いい年した大人が、こんなにはしゃいじゃって......」
「まぁまぁ、いいじゃないか。楽しそうだし」
二人に聞こえないように、ヒソヒソと会話する。
「誕生日の前にこんな盛り上がっちゃ、あんたの誕生日は相当盛り上がらないと印象に残らなさそうね」
「ははは......。まぁ、慣れっこだから......」
「......話は変わるんだけど、あんたの電話番号って聞いてなかったわね」
「確かに、お互い電話番号を知らないな。でも、今更どうしたんだ?」
「......一応、教えなさいよ」
七瀬はそう言うと、ポケットからスマホを取り出す。
そして、自分の番号を口にした。
俺は慌てて、スマホを手に取り、電話番号を登録する準備をする。
「えーっと......」
忘れる前に、急いで入力する。
「よし、登録したぞ」
「じゃ、試しに私にかけてみなさい」
「おう」
俺は七瀬のスマホに発信した。
すると、七瀬のスマホはブルブルと震え始めた。
「......よし。登録したわよ」
七瀬はそう言うと、スマホをポケットにしまった。
どうして七瀬は、今更、電話番号を交換しようと提案したのだろうか。
少し考えてみると、どうして提案したのか、理由を一つだけ思い付いた。
それは、七瀬の目標通り、ここから出るから。
だから、忘れないうちに電話番号を交換しようと提案したのではないか。
俺はそう思った。
離れた後も連絡を取りたいと思うくらいには関係が良くなったのかもしれない。
それはとても嬉しいことだったが、それと同時に、ここを捨てるという意志を変えることはできなかったという事実による悲しみが、俺を襲い掛かった。
七瀬に聞けば真実は分かるが、楽しいクリスマスパーティを邪魔してまで、聞く気にはなれなかった。




