迷惑
なんとか七瀬について行き、学校に着く。
そして、玄関で靴を脱ぐ。
「ちょっと寒くなってきたな......」
床の冷たさが、足に伝わる。
靴下を履いているとはいえ、少しだけひんやりとした冷たさを感じた。
「......どうしたの?」
「いや、床が少しだけ冷たく感じてさ」
「そんな細かいことを気にするのね」
「気にした訳じゃなくて、偶然気になっただけだ」
「そう」
七瀬は、せっかく履いた上履きを脱ぎ、床に足を付ける。
「......確かに、冷たいわね。夏の頃とは、大違い」
「七瀬?」
「......何でもない。行きましょ。本当に遅刻しちゃうわ」
七瀬は再び上履きを履き、教室へ向かった。
教室に入ると、坂月先生が椅子に座っていた。
「おはようございます」
「おはよう......ございます......」
「正道くん、七瀬さん。おはようございます」
坂月先生はニコニコしながら、俺たちの挨拶を返してくれた。
そして、七瀬を見つめる。
「......どうしたんですか?」
「最近、七瀬さんが調子良さそうで、先生嬉しいです」
「......別に、変化は無いと思いますけど」
「そうですか? なんだか前と比べて、毎日を楽しそうに過ごしているなって感じがしますけど」
「......そう、ですか」
七瀬はそこで話を切り上げ、席に座る。
「でも、ちょっとクールなところは変わってませんね」
クスッと笑いながら、笑顔を見せる坂月先生。
「確かに、前と比べて変わったよな」
「あんたまで何?」
「いや、別に?」
七瀬が元に戻ってから約四ヶ月。
戻った直後は拒絶され、かと思えばまた一緒にいるようになり、今は人への当たりが若干優しくなったような気がする。
それだけじゃない。
自分の身の回りの物に、興味を持ち始めているような気がする。
いい意味で、子どもに戻ってきているような、そんな気がした。
いつものように授業を終え、放課後。
気が付けば、登校から下校の時まで、七瀬と一緒にいるのが当たり前になっていた。
「なぁ七瀬、今朝の話の続きなんだけど......」
「何?」
「俺が奪ったのは、勉強の時間や人格のことだけじゃないって話......。俺さ、他に七瀬に何か悪いことってしたっけ......?」
「はぁ......」
七瀬は呆れ、大きなため息を着く。
「ご、ごめん! そ、そんなに失望するほど、悪いことをしちゃったのか......?」
「......ええ、したわよ。あんたはとんでもないことを......」
こんな態度を見せるということは、忘れられないレベルで多大な迷惑をかけたに違いない。
しかし、そのことがどうしても記憶に無い。思い出せない。
「あんたのせいで、私の人生計画はめちゃくちゃに狂った。私が努力して積み上げてきた計画を、少しずつ、少しずつ破壊した......」
俺は七瀬の言葉を聞き、急に全身が冷えた。
俺は七瀬に、とんでも無いことをしてしまったのかもしれない。
「ご、ごめん......! 俺、七瀬にそんな迷惑を......」
「......謝ることではないわ。迷惑だとは、思っていないから。......多分」
「ど、どういうことだ......?」
七瀬は俺の疑問を無視し、歩き始める。
「お、おい! どういうことなんだよ!」
「今朝も言ったでしょ? 話はまた今度って。今は話したくないのよ」
「話したくない......。そ、そうか。悪かった」
「......分かればいいのよ」
話を聞く限り、物凄い迷惑をかけたのに、迷惑だとは思っていないということになる。
一体、俺は七瀬に何をしてしまったのだろうか。
「そういえばあんた、誕生日って十二月の末よね?」
「そうだけど。俺、誕生日について話したことってあったっけ?」
「......毎年、坂月先生があんたのことを祝ってるでしょ? 嫌でも覚えるわよ」
「そ、そうか。でも、誕生日がどうしたんだ?」
「......私のお母さんが、あんたのことを祝うって言ってるのよ。私の誕生日の時、計画して、祝ってくれたでしょ? そのお礼をしたいんだって。......楽しみにしてなさいよ」
「お、おう......! ......ちなみに、七瀬は俺のことを祝ってくれるのか?」
「......あんたの今後次第」
「今後次第......」
ということは、祝ってくれない可能性もあるということだ。
まだ祝うか祝わないか、ギリギリの関係ということが、七瀬の言葉から感じ取れる。
だが、俺の誕生日を覚えてくれていただけでも、俺は嬉しかった。




