都会への憧れ
季節は秋になり、周りの景色も緑から赤に変わっていった。
蝉たちの鳴き声も消え、駆け巡る風も涼しくなった。
俺はいつも通り、登校をしている。
いつも通り、七瀬と二人で。
「おはよう。七瀬」
「......おはよう」
山の山頂付近を眺めていた七瀬に声をかける。
「早く行きましょ。勉強する時間が無くなっちゃうわ」
七瀬は早歩きで学校に向かう。
本を読まず、前を見て歩いていく。
「......前まで登校している時ですら勉強してたのに、最近はすっかり辞めちまったな」
「......量を減らした分、質で補うように努力をしてるから」
「そうか」
「だから、もう倒れるなんて恥ずかしいこと、絶対にしないと思うわ。だから、あんたも安心しなさい」
「......ああ」
話していると、突然、七瀬が立ち止まった。
七瀬は顔に手を当て、何かを掴む。
「どうしたんだ?」
「紅葉の葉、顔に落ちてきた」
七瀬は葉を掴み、眺める。
そして、その葉をボーっと見つめる。
「紅葉の葉、捨てないのか?」
「す、捨てるわよ。ただ、久しぶりにちゃんと見たら、とても綺麗だと思っただけよ」
七瀬はそう言い、葉を投げ捨てた。
そして、再び歩き始めた。
「......私は今まで、ここを全て知った気でいた。だからこそ、つまらなかった。ここから出たかった......」
「七瀬?」
「......あんた、東京とか大阪とか、都会は行ったことある?」
「えーっと、一度だけ......?」
「そう。......あんたはその時、何を思った?」
「え? えーっと......」
俺は、東京へ行ったことを思い出す。
確かに、この田舎と比べ、東京は何もかもが凄かった。
「凄いなぁ、とは思ったけど......。でも、それと同時に、ここの良さも実感できたよ。毎年、季節が巡って、見た目が変わっていって。それが、凄く綺麗で。それと同時に、俺も変わっていって、世界と一緒に生きてるんだなぁ......。って、実感したよ」
「......そう」
それから、沈黙が続く。
一言も発さない二人の間を、強い突風が通過する。
「......私は、全く逆のことを思ってしまったの」
「逆?」
「......私は東京に行って、私の全てを支配された。カッコいい服や可愛い服を着て、自己表現をしながら歩く大人たち。最新トレンドについて楽しそうに話す、女子高生たちの声。美味しそうな、様々な料理の匂い。食べたことが無い、美味なスイーツ。木造建築とは違う、しっかりとしたビルから成る、コンクリートジャングル。ここでは見られない様々な物が、私の五感を、好奇心を刺激した。そして、束縛した......」
七瀬は、自分の思いを淡々と語っていく。
「そしたら、この田舎が霞んで見えるようになった。私が居るべき場所は、こんな場所じゃない。ここから出なきゃ、そうでないと、世界から取り残されてしまうって思った」
「......それが、あそこまで過酷な勉強をしていた理由か......?」
「ええ......。私はいち早く東京へ戻りたくなった。だから、勉強して、家族に認めてもらって、早くここから出ようとした。私は目標のために、勉強以外の全てを捨てた。欲を捨て、健康を捨て、人間関係を捨てた」
これが、七瀬の真実。
周りの人間に興味を持たず、ただひたすら勉強をし続けた、七瀬の真実。
「その結果、私の邪魔をする人間はいなくなるはずだった。でも、そうじゃなかった」
「......俺のことか」
確かに、俺は七瀬の邪魔をしてしまった。
七瀬を連れ出し、勉強時間を奪ってしまったのだから。
「......多分あんたは、私の勉強時間を奪ってしまった。とでも考えているんでしょ?」
俺の考えは、七瀬に筒抜けだった。
「......それもあるけど、それだけじゃない」
「それだけじゃない?」
俺は七瀬に対し、他に何をしてしまったのか。
必死に考えてみるも、思い付くことはなかった。
「......こんなに話しながら歩いていたら、遅刻するわ。この話はまた今度にしましょ」
七瀬は話を切り上げ、歩行ペースを上げた。
「ま、待ってくれ!」
俺は速度を上げた七瀬に、追いつこうと必死になった。




