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【完結済】俺の彼女は幻かもしれない  作者: Melon
第10章 白銀の世界で

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都会への憧れ

 季節は秋になり、周りの景色も緑から赤に変わっていった。

 蝉たちの鳴き声も消え、駆け巡る風も涼しくなった。


 俺はいつも通り、登校をしている。

 いつも通り、七瀬と二人で。


「おはよう。七瀬」


「......おはよう」


 山の山頂付近を眺めていた七瀬に声をかける。


「早く行きましょ。勉強する時間が無くなっちゃうわ」


 七瀬は早歩きで学校に向かう。

 本を読まず、前を見て歩いていく。


「......前まで登校している時ですら勉強してたのに、最近はすっかり辞めちまったな」


「......量を減らした分、質で補うように努力をしてるから」


「そうか」


「だから、もう倒れるなんて恥ずかしいこと、絶対にしないと思うわ。だから、あんたも安心しなさい」


「......ああ」


 話していると、突然、七瀬が立ち止まった。

 七瀬は顔に手を当て、何かを掴む。


「どうしたんだ?」


「紅葉の葉、顔に落ちてきた」


 七瀬は葉を掴み、眺める。

 そして、その葉をボーっと見つめる。


「紅葉の葉、捨てないのか?」


「す、捨てるわよ。ただ、久しぶりにちゃんと見たら、とても綺麗だと思っただけよ」


 七瀬はそう言い、葉を投げ捨てた。

 そして、再び歩き始めた。


「......私は今まで、ここを全て知った気でいた。だからこそ、つまらなかった。ここから出たかった......」


「七瀬?」


「......あんた、東京とか大阪とか、都会は行ったことある?」


「えーっと、一度だけ......?」


「そう。......あんたはその時、何を思った?」


「え? えーっと......」


 俺は、東京へ行ったことを思い出す。

 確かに、この田舎と比べ、東京は何もかもが凄かった。


「凄いなぁ、とは思ったけど......。でも、それと同時に、ここの良さも実感できたよ。毎年、季節が巡って、見た目が変わっていって。それが、凄く綺麗で。それと同時に、俺も変わっていって、世界と一緒に生きてるんだなぁ......。って、実感したよ」


「......そう」


 それから、沈黙が続く。

 一言も発さない二人の間を、強い突風が通過する。


「......私は、全く逆のことを思ってしまったの」


「逆?」


「......私は東京に行って、私の全てを支配された。カッコいい服や可愛い服を着て、自己表現をしながら歩く大人たち。最新トレンドについて楽しそうに話す、女子高生たちの声。美味しそうな、様々な料理の匂い。食べたことが無い、美味なスイーツ。木造建築とは違う、しっかりとしたビルから成る、コンクリートジャングル。ここでは見られない様々な物が、私の五感を、好奇心を刺激した。そして、束縛した......」


 七瀬は、自分の思いを淡々と語っていく。


「そしたら、この田舎が霞んで見えるようになった。私が居るべき場所は、こんな場所じゃない。ここから出なきゃ、そうでないと、世界から取り残されてしまうって思った」


「......それが、あそこまで過酷な勉強をしていた理由か......?」


「ええ......。私はいち早く東京へ戻りたくなった。だから、勉強して、家族に認めてもらって、早くここから出ようとした。私は目標のために、勉強以外の全てを捨てた。欲を捨て、健康を捨て、人間関係を捨てた」


 これが、七瀬の真実。

 周りの人間に興味を持たず、ただひたすら勉強をし続けた、七瀬の真実。

「その結果、私の邪魔をする人間はいなくなるはずだった。でも、そうじゃなかった」


「......俺のことか」


 確かに、俺は七瀬の邪魔をしてしまった。

 七瀬を連れ出し、勉強時間を奪ってしまったのだから。


「......多分あんたは、私の勉強時間を奪ってしまった。とでも考えているんでしょ?」


 俺の考えは、七瀬に筒抜けだった。


「......それもあるけど、それだけじゃない」


「それだけじゃない?」


 俺は七瀬に対し、他に何をしてしまったのか。

 必死に考えてみるも、思い付くことはなかった。


「......こんなに話しながら歩いていたら、遅刻するわ。この話はまた今度にしましょ」


 七瀬は話を切り上げ、歩行ペースを上げた。


「ま、待ってくれ!」


 俺は速度を上げた七瀬に、追いつこうと必死になった。

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