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【完結済】俺の彼女は幻かもしれない  作者: Melon
第9章 現実の始まり

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行方不明の七瀬

「七瀬!」


 俺は周りの人など気にせず、大声で七瀬を呼ぶ。

 だが、返事は無かった。

 歩いては見渡して、声をかけて。

 何度繰り返しても、七瀬は見つからない。


「そ、そうだ......! 離れ離れになった時は、七瀬の母さんのところに集合するんだった......!」


 俺はそのことを思い出し、人混みをかき分けながら、急いで駐車場へと戻った。

 その途中、嫌な予感が薄っすらと、俺の頭をよぎった。



 駐車場に止められている、七瀬の母さんの車の元まで戻ってきた。

 しかし、そこにも七瀬の姿は無かった。


 七瀬の母さんが、車の窓から顔を出す。


「あら、正道くん。七瀬はどうしたの?」


「そ、それがはぐれちゃって......! 七瀬は戻ってきてないですよね!?」


「戻ってきてないけど......。あの子、どこいっちゃったのかしら?」


 そのことを聞いて、俺の額から脂汗が滲み出る。

 薄っすらとした不安が、俺の中でどんどんと大きく、ハッキリとしていく。


「ま、まさか......! 七瀬、誘拐とかされて......!」


「そんな訳ないじゃない」


 突然、七瀬の声が聞こえ、俺は勢いよく振り向いた。

 七瀬は普段と変わらない態度で、俺の背後に立っていた。


「な、七瀬! どこに行ってたんだ!」


「......女子にそんなことを聞くなんて、デリカシーって言葉を知らないのかしら......」


 その言葉で、俺は察しが付いた。

 おそらく、トイレにでも行っていたのだろう。


「す、すまん......」


 恥ずかしさで急に体中が熱くなり、俺の声が一気に弱々しくなる。


「七瀬。 恥ずかしいのは分かるけど、正道くんに一言伝えてから......」


 七瀬の母さんが叱っている途中、突然、大きな音が鳴り響いた。

 それと同時に、空が様々な色に光り始める。


「あ、花火......」


 真っ暗な夏の夜空。

 そんな空に、色を塗りたくるように、次々と花火が打ち上がっていく。


「綺麗......」


 花火の音に紛れ、七瀬の声が聞こえたような気がした。

 七瀬に気が付かれないように、コッソリと七瀬に視線を移す。


「あっ......」


 あまりの美しさに、思わず声を漏らしてしまった。


 花火に見とれ、空を見上げる七瀬。

 そんな七瀬を、花火が彩っている。


「......こっちをジロジロと見ないでよ」


 七瀬に気が付かれてしまい、俺はサッと視線を逸らす。


「す、すまない......」


「......ねぇ。あんたはこの花火を見て、何を思った?」


「何を? 綺麗だなぁ......とか......?」


「......しょうもない感想ね」


 俺の浅い感想を、七瀬はバッサリと切り捨てる。


「じゃ、じゃあ。七瀬はどうなんだよ......」


「言うと思う?」


「......言わないのか?」


「言う訳ないじゃない」


 一方的に聞いておいて、自分は断固として言わないつもりだ。


「......でもね」


「でも?」


「ここも悪くは......。いや、早計ね」


「ん?」


 七瀬の言葉の意味を考えようとしたが、大きな花火な音が俺の思考を阻害した。

 今までで一番大きな花火が、俺たちの前に広がる。


 俺たちはそれ以降、花火に釘付けになってしまい、何も話さなかった。



 花火の打ち上げが終わり、俺たちは帰ることになった。

 俺が後部座席に乗ると、隣に七瀬が乗り込んできた。


「あれ、助手席じゃなくていいのか?」


「......別にいいでしょ」


 七瀬は俺の隣に座ると、足を組んで腕組みをした。

 七瀬の母さんは、七瀬に触れることなく、車を発進させた。


「......ねぇ、あんたは今日、楽しかったかしら?」


 七瀬の母さんには聞こえない声量で、七瀬が俺に話しかけてきた。


「楽しかったけど......」


「そう......」


「......七瀬は楽しくなかったのか?」


「別に」


 別にという言葉が、俺の意見への否定なのか、別に楽しかった訳ではないという意味なのか、俺には分からなかった。


「......来年も来たいか?」


「来年は受験じゃない。私が行くと思う?」


「だよな......」


 車が山道に入り、揺れが少しだけ増え始める。


「......ねぇ。あんたは、ここが好き?」


「ここって、俺たちが住んでるところ、だよな? 好きだけど、それがどうしたんだ?」


「......なんで好きなのよ」


「なんでって......」


 俺は、色々なことを思い浮かべる。


「......色々思い付いたけど、やっぱ、生まれ育ったからかなぁ......。ここが俺の生きる場所、って感じがして。体に馴染んでて......」


「......私は、ここが嫌いだった。自然しかなくて、煌びやかな夜の街は無い。周りの人間は鬱陶しくて、それに、世界から取り残されている感じがして......」


 七瀬が自分の思いを語っていく。

 死ぬほど勉強してまで、この田舎を出たかった理由を。


「......でも、だったってことは、今は違うんだろ?」


 そんな俺の返事に、七瀬は一切反応しなかった。

 それから、七瀬は家に帰るまで一言も話さなかった。



 夜遅く、俺は家に到着した。

 俺は七瀬に手を振り、七瀬の母さんの車を見届けた。


 本来の七瀬と共に過ごした花火大会。

 その思い出は、今後一生、記憶に残り続けるだろう。

第9章 終

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