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【完結済】俺の彼女は幻かもしれない  作者: Melon
第9章 現実の始まり

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花火大会当日

 八月の中旬、今日は花火大会の日。



「べ、別に浴衣なんて買わなくて良かったのに......」


 俺は、半ば強制的に母さんに浴衣を着させられた。

 母さんが勝手に買ってきた、紺色の浴衣だ。


「せっかくの思い出作りなんだから、普段の服じゃなくて、浴衣で行きなさいよ」


「べ、別に毎年やるんだし......」


「だって、来年から受験でしょ? この時期に勉強漬けの七瀬ちゃんが、花火大会に着いてきてくれると思う?」


 母さんの意見はごもっともだ。

 来年も七瀬が来るとは、到底思えない。


「さ、うちわを持って、いってらっしゃい。七瀬ちゃんのお母さんが送って行ってくれるんでしょ?」


 俺は母さんにうちわを持たされた。


「あ、もうこんな時間。ほら、早く家の外に出て、七瀬ちゃんを出迎えて上げなさい」


 背中を押され、家の外に出た。

 それから少し待つと、七瀬の母さんの車がこちらへ向かってきた。


 車は家の前で止まり、七瀬の母さんが車から降りる。

 七瀬はいつも通り、助手席に座っていた。

 七瀬の性格から予想は出来ていたが、浴衣ではなく、私服だった。


「正道くん。七瀬を花火大会に誘ってくれてありがとね。この子、ここ最近も結構勉強してたから、いいリラックスになると思うわ」


 七瀬の母さんが後部座席のドアを開ける。


「さ、乗っちゃいなさい」


「あ、ありがとうございます」


 俺は車に乗り、シートベルトを着用する。

 七瀬の母さんがドアを閉めると、運転席に戻り、会場へと向かって走りだした。



 二時間ほどかけて山を下り、祭り会場の近くの駐車場に停車した。


「それじゃ、私はここで待ってるから。九時までにはここに戻ってくるのよ? あ、あと、離れ離れになったら、ここに戻ってらっしゃい」


「はい」


 俺は七瀬と一緒に会場へ向かおうとするが、隣に居なかった。

 俺が七瀬の母さんを聞いている間に、七瀬は一人で歩き始めてしまったようだ。


「お、おい! 待ってくれよ!」


 俺は、七瀬を見失わないように追いかけた。


「なぁ。一人で勝手に行きたくなるほど、来たかったのか?」


「......別に」


「......行きたい店とか、あるのか?」


「......特に」


「まぁ、七瀬は花火大会とか行かないもんな......。よし! それじゃ、俺が案内してやる!」


 正直、この祭りに最近来ていないので、どのような店があるかは分からないが、七瀬よりは詳しいだろう。


「ほら、行くぞ」


 俺ははぐれないように、七瀬の手を握ろうと手を伸ばしたが、手を止めた。

 無理に繋ぐのは良くないと思ったからだ。


 しかし、俺のそんな不安は杞憂だった。

 七瀬が自ら手を伸ばし、俺の手を握った。


「え......」


「......案内するんでしょ? 早く案内しなさいよ」


 七瀬の表情と口調はいつもと変わらず、冷たいままだった。

 しかし、俺のことを信頼し、手を握ってくれている。


「......ああ!」


 俺は七瀬の手を握り、一緒に歩き始めた。



 田舎の街とはいえ、祭りなので人は多かった。

 俺は七瀬とはぐれないように、手をギュッと握っていた。


「......人多すぎ」


「嫌そうだな......」


「......でも、慣れなきゃ。私は将来、都会にいくんだから」


 苦しそうな顔をしながらも、俺に付いてくる七瀬。

 長時間歩くのも七瀬の負担になりそうなので、どこかの店に寄ることにした。


「あ、スーパーボールすくいだってよ。やってみないか?」


「......嫌。子どもっぽいし」


「まぁまぁいいから」


 俺は七瀬の手を引き、スーパーボールすくいの屋台へ向かった。


「いらっしゃい! ポイ三本で三百円ね」


 俺は財布から百円玉三枚を取り出し、店員に渡した。


「はい、三百円ちょうど! どうぞ!」


 俺は店員からポイ三本とボール入れを受け取り、ポイ二本とボール入れを七瀬に渡した。


「......こんなのですくえるの? これ、詐欺じゃ......」


「いいからいいから! 取り合えずやってみろって!」


 店員に聞かれないように大声で遮り、やってみるように促した。

 七瀬は水に浮かぶボールを眺め、小さい物を狙った。


 まずは、小さいものでどのくらい耐えられるかを試すつもりなのだろう。

 慎重に水面に近づけ、そーっとボールにポイを近づける。


 そして、勢いよくすくい上げた。

 しかし、勢いが強すぎたのか、ポイが破けてしまい、ボールは水に落ちてしまった。


「......はい」


 七瀬は俺にポイとボール入れを押し付けた。


「も、もうやらないのか?」


「......手本見せなさいよ」


「よ、よーし......!」


 俺は七瀬にいい所を見せるために、大きいボールに目を付ける。


「はっ!」


 なるべく破けないように、慎重に、かつ、大胆にボールをすくい上げる。

 結果は当然、破けてボールが落ちた。


「プッ......!」


 その瞬間、七瀬が笑ったような気がした。

 俺は急いで七瀬の顔を見るが、七瀬の顔は真顔だった。


「......全然ダメじゃない」


「く、くそー!」


 俺はやけくそで、小さなボールを狙った。

 恥を捨て、とにかく成果を得ることだけを考えた。



「......だから言ったじゃない。詐欺だって」


「うぅ......」


 小さなスーパーボールですら取れることはなく、俺たちは無駄に三百円を消費してしまった。


「ま、まぁ気分転換で......。綿あめでも......」


「綿あめって、砂糖しか使ってないのに、数百円も払わされるやつ?」


「そ、そんなこと言うなって......! じゃ、じゃあ......」


「それより、あれはどう?」


 七瀬が指差したのは、焼き鳥の屋台だった。


「焼き鳥ならそんなに高くないから、味付けが悪くてもガッカリしにくいんじゃない?」


 七瀬は俺の手を引き、焼き鳥の屋台へと向かった。


「いらっしゃい。お、二人とも、カップルかい?」


「チッ......」


「......カップルじゃ、なさそうだな。まあいいや。何にする?」


「もも、塩、一本」


「あいよ」


 七瀬がお金を渡すと、店員は焼き鳥に火を通し、七瀬に渡した。


「ここに居ると邪魔になるから、向こうに行ってるわね」


 七瀬はそう言うと、列から外れた。


「あ、俺はかわ、タレで一本ください」


「了解」


 七瀬の時と同じ様に、焼き鳥に火を通そうとしていた。

 だが、一本だけではなく、三本も焼いている。


「あ、あの。注文は一本だけで......」


「......君、ツンツンした子と一緒で大変そうだからさ。おまけしてあげるから、これも食べて仲良くしな」


 店員が小声でそう言うと、コッソリ焼き鳥をおまけしてもらった。


「あ、ありがとうございます」


「ほら、早く追いかけてあげな」


 俺は急いで七瀬の元へ向かおうとした。

 しかし、辺りを見渡しても、七瀬の姿はどこにもなかった。

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