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【完結済】俺の彼女は幻かもしれない  作者: Melon
第9章 現実の始まり

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激突

 俺たちはそんな青空の下を歩き、帰宅した。

 靴を脱いでいると、母さんが誰かと話をしている。

 仕事の話でもしているのだろうか。


「ただいまー」


 俺は邪魔してしまわないように、小声で帰宅したことを伝えた。

 母さんからの返事は特に無い。


「......お邪魔します」


「えっ!?」


 しかし、七瀬が挨拶をすると、母さんの驚きの声と共に、様々な物が落ちる音が聞こえてきた。


「あっ......! す、すみません! 虫が飛んできてしまって......。すみません、追い払うので、少々席を外しますね......」


 母さんが通話相手にそう言い、部屋から出てきた。


「な、七瀬ちゃん......。ひ、久しぶりね......」


「......お久ぶりです。それと、倒れてしまってから、色々迷惑をかけてしまって、申し訳ありません」


 七瀬は、俺の母さんに頭を下げる。


「い、いいのよ。色々動いてたのは正道の方で、私は七瀬ちゃんのために何かしてた訳じゃないから......」


「......そうですか」


「あ......そうだ。良かったらお菓子でも食べていかない? 正道の部屋に居れば、後から持って行ってあげるからさ」


「......ありがとうございます。では、お言葉に甘えて......」


 七瀬はお辞儀をし、俺の部屋へ向かう。


「ほら、あんたも早く」


「お、おう......」


 俺の部屋へ向かう七瀬に続き、俺も自室へ向かった。


 七瀬が俺の部屋の扉を開けると、部屋を見渡す。


「前と同じ、殺風景な部屋......」


「あぁ、それは......。俺が正道だってバレないようにするために、私物を全部片づけたからな......」


「......あなたの物は、どこにあるの?」


「え? 押し入れだけど......」


 演劇関連の物や好きな物、それら全てを、押し入れの奥にしまい込んだのだ。

 七瀬の記憶が戻った後も、七瀬に拒絶された悲しみから、元に戻すのを忘れていたのだ。


 俺が押し入れに私物をしまい込んでいることを伝えると、七瀬は無言で押し入れを開ける。

 そして、四つん這いになり、ガサゴソと中を漁りだした。


「な、何するんだ......?」


「何って、元に戻すのよ。手伝ってあげる」


「べ、別にいいって......」


「......これはあんたの部屋じゃない。あんたが演じた、七瀬の部屋でしょ?」


「......え?」


「私は七瀬という人格を失って、正道になった。そして、あんたは正道を捨てて、七瀬になった。でも、今の私は正道の人格を捨てて、元に戻った。だから、あんたも七瀬を捨てて、元に戻れ......。戻りなさい。お互い、幻を見るのはもう終わりよ」


「......分かったよ」


 俺はスマホを机から持ってきて、七瀬の隣に座る。

 そして、ライト機能で中を照らした。


「そこの奥の方......。段ボールの裏側に、色々置いてある」


「ここね......」


 七瀬は段ボールをどかし、帽子やポスターを取り出していく。


「......ん?」


 七瀬は何かを見つけたのか、押し入れの奥に入っていく。

 そして、レッサーパンダのぬいぐるみを手に取り、俺に渡してきた。


「これもあんたの?」


「あ、ああ......」


 昔、演劇を見に行ったついでに寄った動物園で、お土産として買ったぬいぐるみだ。


「ふん。あんたも可愛らしいところがあるのね」


「い、いいだろ別に......」


「さて、こんなもんかしら......」


 七瀬は後ろに下がり、立ち上がろうとした。

 すると、七瀬の頭頂部が、上の段に激突してしまった。

 ゴツン、という鈍い音が聞こえた。


「......っつ~!」


 七瀬は両手で頭を押さえ、うずくまる。


「だ、大丈夫か......?」


 数秒ほどプルプルと震えてから、七瀬は頭を上げた。


「......大丈夫よ」


 口ではそう言っているが、顔は涙目で、どう見ても大丈夫じゃなさそうだった。


「大丈夫じゃないだろ! 今、頭冷やす物持ってくるから待ってろ!」


 俺は立ち上がり、キッチンへと向かった。

 キッチンに入ると、勢いよく冷蔵庫を開け、氷を探す。

 しかし、冷蔵庫の中にちょうど氷が無く、保冷剤しかなかった。


「仕方ない......。これで......」


 キッチンから出ると、誰かにぶつかった。


「きゃ......! 正道、どうしたの! そんな勢いよく飛び出して!」


「七瀬が頭ぶつけちゃって......!」


「あら、大変!」


「ぶつけた部分を冷やした方がいいだろうから、保冷剤借りてくよ!」


 俺は母さんにそう伝え、部屋へと急いで戻った。


 扉を勢いよく開け、椅子に座っていた七瀬に保冷剤を渡す。


「大丈夫か!? こぶとかできてないか!?」


「ち、小さいやつができただけだから......。たいしたことない......」


「と、取り合えずこれで冷やしとけ!」


 俺は七瀬に保冷剤を渡す。


「......ありがと」


 七瀬は保冷剤を受け取り、頭頂部にそっと押さえつけた。


「......私、人に迷惑かけっぱなし......」


「......急にどうしたんだよ。そんなに弱気になって」


「なんでもない......」


「......そうか。......ぶつけたところは大丈夫か?」


 七瀬は、無言で頷いた。

 俺は一安心し、大きなため息をついた。

 疲れてしまった俺は、ベッドに腰を下ろした。


 

 「七瀬ちゃん、大丈夫?」


 母さんが、俺の部屋の扉を開ける。


「は、はい......。大丈夫......です......」


 七瀬は申し訳なさそうに、小声で返事をした。


「そう、良かった......。でも、心配で七瀬ちゃんのお母さんを呼んじゃったから、お母さんと車で一緒に帰ってね?」


「はい......」


「それじゃ、七瀬ちゃんも大丈夫そうだし、お菓子持ってくるわね」


 母さんは部屋の扉を閉め、キッチンへと向かった。


「......そうだ。部屋の片づけを......」


 七瀬は、頭頂部を抑えたまま立ち上がる。


「い、いいって! 今日は休んどけ!」


 俺も立ち上がり、七瀬の肩を抑え、椅子に座ってもらった。

 七瀬が椅子に座ると、俺も再びベッドに座る。


 それから、しばらく無言の時間が続いた。

 途中、母さんがカステラと麦茶を持ってきて、そこでお礼を言ったくらいで、ずっと無言。

 お菓子を食べる時も、お茶を飲む時も無言。



 しばらくすると、外から車の音が聞こえてきたので、七瀬の母さんが迎えにきたのだろう。

 七瀬は保冷剤を机の上に置き、立ち上がる。


「......今度、私の家に来なさい」


「ど、どうして......?」


「......今日、迷惑をかけたからお詫びをしてあげる」


 七瀬は鞄を持ち、頭頂部を手でスリスリと撫でながら、部屋から出ていった。

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