変化
次の日、俺は一人で登校することにした。
勿論、七瀬と出会わないように、早めに家を出た。
七瀬と復縁したような状態になったとはいえ、気持ちの切り替えができなかったからだ。
いつも通りの通学路を歩いていると、遠くに人影が見えた。
「あれ?」
そこに立っていたのは、腕組みをしている七瀬だった。
俺は七瀬の元へ駆け寄る。
「七瀬......? なんでこんなところで立ってるんだ......?」
「あんたを待ってたのよ。三十分くらい前から」
「なんでそんなことを......」
「私が倒れたら、誰が面倒見るのよ」
俺は困惑した。
少し前まで俺のことを嫌っていたのに、態度が急変したからだ。
「母さんに送り迎えしてもらうのはやめたのか?」
「......いつまでも迷惑かけていられないでしょ」
俺なら迷惑をかけてもいいのか、と心の中で思ったが、七瀬を刺激しないために言わないでおくことにした。
「不満?」
「い、いや......」
「そう。なら、早く行くわよ」
七瀬は早歩きで学校に向かって歩き始めた。
俺もそれに追いつけるように、精一杯歩いた。
(な、何があったんだ......?)
昨日の時点では、取り合えず一緒に居られるようになって良かった。
その程度にしか考えていなかったが、本当にどういう心境の変化があったのだろうか。
学校に着くと、俺と七瀬は着席した。
「......ねぇ、あんたって、一日どのくらい演劇の練習してるのよ」
「え!? どうしたんだ急に......?」
「何? 私が雑談しちゃいけないって言うの?」
「いや、そういう訳じゃ......」
ここ数年、本来の七瀬が自主的に話しかけてくることは、伝言以外では一切無かった。
しかも、会話の内容が雑談である。
だから、俺は大きな声が出るほど驚いてしまった。
「えーっと......。平日は二時間。休日は長くて七時間くらいか......? 声を出す時は迷惑になるから、運動や散歩に行くって言って、外で練習してるぞ」
「ふーん......」
「......ちなみに、七瀬はどうなんだ? 毎日勉強してるだろうけど、何時間くらいなんだ?」
「私は学校での学習時間を除いて、平日は七時間、休日は十四時間よ」
「じゅ、十四!?」
来年に受験を控えているとはいえ、多すぎる勉強量に、俺は再び驚き、大声を出してしまった。
「そ、そりゃ倒れる訳だ......」
「それほど、私がここから出たいって気持ちが本気だったってことよ」
「本気だった......?」
本気だったということは、今はそう思っていないのだろうか。
「流石の七瀬も、二回も倒れたら控えるか......」
「......まぁな。......ゴホン。まぁね」
咳払いをし、言い間違えを誤魔化す七瀬。
相変わらず、俺の口調が残ってしまっているそうだ。
「でも、ここから出たいという気持ちは変わらないんだな......。じゃあ、あと一年半くらいで、七瀬ともお別れか......」
「そういうことに......。なるわね......」
若干言葉をつっかえさせながら、返事をする七瀬。
「......なぁ。もしかして、調子が悪いのか?」
「突然何よ」
「......いや、何でもない」
今日の七瀬は、どこか変だ。
俺のことを待ち構えるし、返事もキッパリと言い切らない。
もしかして、七瀬の中にまた、俺の人格が蘇ってきているのではないだろうか。
そう思っていると、坂月先生が教室に入ってきた。
「おはようございます......!」
坂月先生は挨拶をすると、教卓に鞄などの持ち物を置いた。
「おはようございます」
「......おはようございます」
珍しく、七瀬も挨拶をした。
そんな七瀬を見て、坂月先生はきょとんとしている。
「......七瀬、体調が悪くなったらすぐに言えよ」
俺は七瀬を心配し、一度会話を終わらせようとした。
「言われなくても分かってるわよ......」
口では分かってると言ってるが、態度は相変わらず冷たいままだった。
「え......。えええええぇ!!!!」
坂月先生は突然笑顔になり、七瀬の前に駆け寄る。
「ど、どうしたんですか!? あの七瀬さんが正道くんとお話してるだなんて!」
「......別にいいじゃないですか。私が誰と会話しようと」
「いや、そういう訳じゃなくて......! 七瀬さん、他人のことが嫌いだと思ってたから......」
「......嫌いでしたよ、実際」
「えぇぇ......! 酷い......!」
坂月先生は苦笑いしながら返事をした。
(嫌い、でした......?)
本当に、七瀬に何があったんだろうか。
昨日までは理由を気にしていなかったが、今はかなり気になり始めていた。




