拒絶
俺はすぐに母さんに車で送ってもらい、診療所へお見舞いに向かった。
母さんが駐車場に車を止める前に降り、急いで七瀬の病室へと向かう。
「七瀬!」
西森七瀬と書かれた紙が貼られている扉を発見し、勢いよく開ける。
部屋には、七瀬の母親と藤波先生。
そして、ベッドに座っていた七瀬の姿があった。
七瀬は、俺のことを見る。
いや、睨みつけていると言った方が適切かもしれない。
鋭い視線が、俺を捉え続ける。
「な、七瀬......。もしかして......」
この目付きは、見覚えがある。
これは、元の七瀬の目付き。
人に興味が無い、いや、なんなら見下しているのではないかとも感じ取れる、鋭い視線。
おそらく、七瀬の記憶が戻ったのだろう。
「チッ......」
七瀬は俺に聞こえる大きさの舌打ちをする。
「こ、こらっ! ダメでしょ!」
七瀬の母さんは注意するが、反省の色は見られない。
そして、俺から視線を逸らし、床を見つめ始めた。
「藤波先生......。もしかして、七瀬の......」
「......はい。七瀬さんの記憶が戻りました」
「......ですよね」
やはり、七瀬の記憶は戻っていた。
「......ねぇ。そいつと話がしたいから、一旦出ていってくれない?」
「えっ......? いいけど......」
七瀬の母さんは七瀬に従い、病室から出ていった。
「......勿論、私もですよね」
藤波先生も自発的に病室から出ていった。
「えっと......」
俺と七瀬、二人きりの病室。
とても気まずい。
「......一応確認なんだけどさ。今までのことって、覚えてるのか......?」
「......覚えてるわよ。私が正道として、生活してたこと」
どうやら、正道として過ごした記憶は失っていないようだ。
「それと、あんたが私と偽って、付け狙っていたこともね......!」
再び、七瀬は俺のことを睨みつけた。
「つ、付け狙うってそんな......!」
「私の記憶が戻った今なら分かるけど、私はあんな口調でも性格でもない......! あれは、あんたが私に近づくために、親しみやすい性格にしてたんでしょ......! この下衆が......!」
「そ、そんな訳......!」
無い、とは言い切れなかった。
実際、そういう意図はあったからだ。
「......ほらやっぱり」
「で、でも! 倒れた七瀬が心配だったから、精神的に追い詰めないように優しい性格にしたのであって......」
「......どうせ、それを利用して距離を縮めようともしてたんでしょ?」
「うっ......!」
俺は何も言い返せなかった。
七瀬の予想が、紛れもない事実だから。
「しかも、私から勉強の時間も奪って......! ハッキリ言って、最低。死んでもらいたいくらいだ......。......くらいよ」
言葉の最後、七瀬は言い直した。
どうやら、正道として過ごした記憶が残っているせいで、口調が混在してしまっているようだ。
「......だけど、私を支えてくれたのも事実」
「じゃ、じゃあ......」
「だからって、許すと思う?」
「......だよな」
少しだけ期待したが、その考えは一瞬で打ち砕かれた。
「......許しはしない。だけど、糾弾もしない」
「つ、つまり......?」
「......二度と私に関わらないで」
七瀬はそう言い放った。
二度と関わるな。
その言葉は、俺の心に大きな傷を残した。
それから、俺は逃げるように病室から出た。
「あら、もういいの......?」
「......はい」
七瀬の母さんの質問に対し、元気のない返事をする。
診療所の入口へと向かうと、車を止め終えた母さんがやってきた。
「あれ、お見舞いは?」
「......終わったよ」
「......随分と早いのね」
「......うん」
落ち込んだ俺を見て何かを察したのか、母さんはこれ以上何も言わなかった。
そして、そのまま車に乗り込み、家へと帰宅した。
家に帰った俺は、そのまま不貞寝してしまった。
七瀬が心配という理由もあるが、それ以上に嫌われてしまったことが辛い。
まさか、ここまで拒絶されるとは思いもしなかった。
俺は現実から逃げるように、ベッドに倒れ込み、眠りについた。




