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【完結済】俺の彼女は幻かもしれない  作者: Melon
第9章 現実の始まり

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拒絶

 俺はすぐに母さんに車で送ってもらい、診療所へお見舞いに向かった。

 母さんが駐車場に車を止める前に降り、急いで七瀬の病室へと向かう。


「七瀬!」


 西森七瀬と書かれた紙が貼られている扉を発見し、勢いよく開ける。

 部屋には、七瀬の母親と藤波先生。

 そして、ベッドに座っていた七瀬の姿があった。


 七瀬は、俺のことを見る。

 いや、睨みつけていると言った方が適切かもしれない。

 鋭い視線が、俺を捉え続ける。


「な、七瀬......。もしかして......」


 この目付きは、見覚えがある。

 これは、元の七瀬の目付き。

 人に興味が無い、いや、なんなら見下しているのではないかとも感じ取れる、鋭い視線。


 おそらく、七瀬の記憶が戻ったのだろう。



「チッ......」


 七瀬は俺に聞こえる大きさの舌打ちをする。


「こ、こらっ! ダメでしょ!」


 七瀬の母さんは注意するが、反省の色は見られない。

 そして、俺から視線を逸らし、床を見つめ始めた。


「藤波先生......。もしかして、七瀬の......」


「......はい。七瀬さんの記憶が戻りました」


「......ですよね」


 やはり、七瀬の記憶は戻っていた。


「......ねぇ。そいつと話がしたいから、一旦出ていってくれない?」


「えっ......? いいけど......」


 七瀬の母さんは七瀬に従い、病室から出ていった。


「......勿論、私もですよね」


 藤波先生も自発的に病室から出ていった。


「えっと......」


 俺と七瀬、二人きりの病室。

 とても気まずい。


「......一応確認なんだけどさ。今までのことって、覚えてるのか......?」


「......覚えてるわよ。私が正道として、生活してたこと」


 どうやら、正道として過ごした記憶は失っていないようだ。


「それと、あんたが私と偽って、付け狙っていたこともね......!」


 再び、七瀬は俺のことを睨みつけた。


「つ、付け狙うってそんな......!」


「私の記憶が戻った今なら分かるけど、私はあんな口調でも性格でもない......! あれは、あんたが私に近づくために、親しみやすい性格にしてたんでしょ......! この下衆が......!」


「そ、そんな訳......!」


 無い、とは言い切れなかった。

 実際、そういう意図はあったからだ。


「......ほらやっぱり」


「で、でも! 倒れた七瀬が心配だったから、精神的に追い詰めないように優しい性格にしたのであって......」


「......どうせ、それを利用して距離を縮めようともしてたんでしょ?」


「うっ......!」


 俺は何も言い返せなかった。

 七瀬の予想が、紛れもない事実だから。


「しかも、私から勉強の時間も奪って......! ハッキリ言って、最低。死んでもらいたいくらいだ......。......くらいよ」


 言葉の最後、七瀬は言い直した。

 どうやら、正道として過ごした記憶が残っているせいで、口調が混在してしまっているようだ。


「......だけど、私を支えてくれたのも事実」


「じゃ、じゃあ......」


「だからって、許すと思う?」


「......だよな」


 少しだけ期待したが、その考えは一瞬で打ち砕かれた。


「......許しはしない。だけど、糾弾もしない」


「つ、つまり......?」


「......二度と私に関わらないで」


 七瀬はそう言い放った。

 二度と関わるな。


 その言葉は、俺の心に大きな傷を残した。



 それから、俺は逃げるように病室から出た。


「あら、もういいの......?」


「......はい」


 七瀬の母さんの質問に対し、元気のない返事をする。

 診療所の入口へと向かうと、車を止め終えた母さんがやってきた。


「あれ、お見舞いは?」


「......終わったよ」


「......随分と早いのね」


「......うん」


 落ち込んだ俺を見て何かを察したのか、母さんはこれ以上何も言わなかった。

 そして、そのまま車に乗り込み、家へと帰宅した。



 家に帰った俺は、そのまま不貞寝してしまった。

 七瀬が心配という理由もあるが、それ以上に嫌われてしまったことが辛い。

 まさか、ここまで拒絶されるとは思いもしなかった。


 俺は現実から逃げるように、ベッドに倒れ込み、眠りについた。

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