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【完結済】俺の彼女は幻かもしれない  作者: Melon
第4・8章 不信・幻の崩壊

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七瀬の誕生日

 七瀬の誕生日の数日前。

 母さんがふもとの街に買い物に行くと言うので、一緒に買い物に来ていた。

 そして、寄りたい店があると伝え、母さんと別行動をすることにした。


 目的は当然、七瀬の誕生日プレゼントを買うことだ。

 そのため、色々な店を巡っているが、なかなか良いプレゼントが見つからない。

 そもそも、七瀬の好みが全くと言っていいほど分からないので、良いと思える物が見つかるはずがない。


 そんな俺は、次の店に入ることにした。

 そこは、個人経営と思われるアクセサリーショップだった。


 ネックレスやブレスレットなど、様々なアクセサリーが陳列されている。

 実際の宝石が使われている高価な物もあれば、数千円で購入できそうなお手頃のアクセサリーも並べられていた。


 並べられている商品を見ていると、ふと、金属の指輪が目に入った。

 鉄でできているそうで、本物のダイヤモンドの代わりに、作り物のダイヤモンドが使われていた。

 ただの鉄製の指輪なので、今月のお小遣いだけで購入できるほど安かった。


「指輪かぁ......」


 指輪と言えば、プロポーズ。

 俺は、七瀬にプロポーズする妄想をしてしまう。

 そして、二人で結婚指輪をはめ、二人で式を挙げる、というところまで想像したところで、俺は現実に戻ってきた。


「でも流石に、中学生の恋愛で指輪は重いよなぁ......」


 俺は指輪の売り場から離れようとした。

 だが、他のコーナーを見ては指輪を見に来て、また離れては身に気て、を繰り返してしまう。


「重いのは分かってるけど......」


 重いのは分かっている。

 だが、自分の気持ちをしっかりと伝えたい。

 七瀬が戻ってしまう前に、七瀬と仲良くできる今のうちに。



「......これ、ください」


 気が付けば、俺は指輪を購入していた。




 七月二十五日、金曜日。

 今日は七瀬の誕生日。



 俺はいつも通り、七瀬の家に迎えに来ていた。


 最近、七瀬の元気が無いような気がしていた。

 なので、少しテンションを上げることにした。


 俺は七瀬の家の扉を開け、息を大きく吸い込んだ。


「ハッピーバースデー!」


 俺は七瀬を大声で祝った。


「あ、ありがとう......」


 しかし、七瀬の反応は微妙だった。


「あれ? あんまり嬉しくなかった......?」


「い、いや嬉しいよ! ありがとう......」


「それじゃ、誕生日会の話でワクワクしつつ、学校行こうか」


「お、おう......」


 俺は七瀬の手を繋ぎ、登校した。



 学校に到着し、坂月先生と少し話をした後、いつも通り授業が始まった。

 授業中、七瀬に視線を移動させると、七瀬はウトウトしていた。


 俺が肩を叩いて起こそうとするが、少し目を覚ましてはすぐに寝てしまう。

 坂月先生も何度か起こしているが、すぐに眠ってしまった。


 最初はオロオロしつつも起こしていた坂月先生だが、それ以降は七瀬を起こすことは無かった。

 七瀬の体調不良を想定したのか、誕生日だから大目に見たのかは分からない。



 そのまま時刻は過ぎていき、下校の時間となった。


「......正道! ......正道! 起きて!」


 家に帰らないといけないので、流石に無理やり起こすことにした。


「んぅ.......。......はっ!」


 起きた七瀬は時計を確認する。


「い、いつの間に......四時......?」


「正道、今日はずっとボーっとしてて、まともに授業を聞かずに帰る時間になっちゃったんだよ! 眠るごとに私が起こしても、ボーっとしたままだし......」


「ま、まさか......。ち、ちなみに坂月先生は何か言っていたか......?」


「起こしても起こしてもずーっと眠そうだったから、オロオロしてたよ」


「そ、そうか......。悪いことしちまったな......」


 申し訳なさそうな顔をする七瀬。


「あ、そういえばこのあと誕生日会か......。早く帰らないと......」


「あ、待って!」


 俺は七瀬の腕を掴み、引き留める。


「坂月先生が車で送ってってくれるから、帰る準備が終わるまで待ってて、って言われてるの。」


「そ、そうなのか」


「うん。だから、もう少し待ってよ」


「ああ......」


 七瀬が着席すると、俺も自分の席に着いた。



 七瀬が朝から夕方まで寝てしまったということは、おそらく、夜はほとんど寝れていないのだろう。


 もしかしたら、だんだん症状が改善し、記憶が戻ってきているのかもしれない。

 そして、それが不安で不安で仕方ないのかもしれない。


 当然だ。

 自分の知らない記憶が、自分の中を埋め尽くしたら、不安になるはずだ。


(......本当に、そろそろかもしれないな)


 誕生日でポジティブになったところで、七瀬に真実を伝えるべきかもしれない。

 このまま不安にさせてしまっては、また振り出しに戻ってしまう。


(来週の月曜に、藤波先生に相談するか......)


 正直、七瀬とまた関われなくなることが悲しい。

 だが、これも七瀬のためだ。



 それから、数分ほど沈黙が続いた。

 蝉の鳴き声だけが響き渡る気まずい空間に、俺は耐えられなくなった。

 そんな俺は、七瀬の現状確認を聞いてみることにした。


「ねぇ、正道......」


「......なんだ?」


「......落ち着いて、聞いて欲しいの。そして、正直に話してほしい」


 今、七瀬は不安に襲われているかもしれない。

 だからこそ、落ち着くように前置きをした。


「な、なんだよ......」


「......最近、変な違和感ってない? ......明らかに、体調不良とか、そういうことに関係していなさそうな......」


「......っ! ど、どうして......そんなことを......」


 動揺する七瀬。

 もしかしたら、俺が思っている以上に、症状の回復が進んでいるのかもしれない。

 それを体調不良によるものだと思っているから、こんな反応をしたのかもしれない。


「......今は私を信じて答えてほしい」


 俺がそう言うと、七瀬は真剣に考え始めた。

 それから、数秒、数十秒と時間が流れていく。


「......いや、特には......」


 この答えは、本当に事実に気が付いていない故の答えなのか。

 それとも、何かがきっかけで俺たちが作り上げた幻に気が付いてしまい、そこから不信感を持ってしまった故の答えなのか。


「......そう。なら、いいんだけど......」


 不安な時に質問責めをするのは良くないと思い、これ以上は聞かないことにした。


「あ、正道くん。起きたんだね」


 教室の外から、坂月先生が声をかけてきた。


「もう......。今日は許しますけど、今度からは夜更かしせずにちゃんと寝て、居眠りしないようにしてくださいね......!」


「は、はい......。今日は本当にすみませんでした......。これからは気を付けます......」


 七瀬は頭を下げ、謝罪した。


「......さ、先生のお説教はここまで。これ以上空気が悪くなったら、この後の誕生日会を楽しめなくなっちゃいますもんね。車の準備はできたので、一緒に行きましょう」


 先生はそう言い、玄関に向かって歩いて行った。


「私たちも行こ」


「お、おう......」


 俺たちも後に続き、教室を後にした。



 それから、俺たちは坂月先生の車に乗り、七瀬の家へと向かった。

 誕生日会のことを話しながら、田舎道を進んでいく。


 俺と先生は楽しく話していたが、七瀬はほとんどの時間を窓の外を見て過ごしていた。

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