三つ目の理由
「そういえばさ、七瀬」
「ん? どうしたの?」
「なんでそんなに演劇家になりたいんだ?」
下校中、七瀬に突然こんなことを聞かれた。
「色々理由はあるんだけど......。一つはね、昔両親と演劇を見に行ったことがあってね。その時に主役のお嬢様を演じている人がいたんだけど。その人に憧れちゃって......」
お嬢様に憧れた、というのは嘘である。
本当は、カッコいい王子様や騎士、紳士の役に憧れたのだ。
「いい理由じゃん」
「これが一つ目の理由。二つ目の理由はね......」
俺は少し恥ずかしくなり、言葉がなかなか出てこない。
「大丈夫だって。笑わないから」
「......本当?」
「......理由による」
「......正道を引き留めたかったから」
七瀬は少し驚いた顔をした。
「え、俺......? どういうことだ?」
「正道はこの田舎が嫌で、都会の頭のいい高校に通うことを理由に、都会で一人暮らししたいからでしょ? それで、そのまま大学に行って、就職するつもりでしょ? だから......」
「だから......?」
「......私が頑張って有名になって、ここで活動すれば人が集まるでしょ? それで、ここが観光地にでもなって田舎っぽくなくなれば、もしかしたら戻ってきてくれるかな......って......」
「な、七瀬......」
これは紛れもない事実だ。
七瀬は、田舎であるこの土地が嫌で出ていこうとしている。
だから、ここが田舎で無くなれば、七瀬が戻ってきてくれると思ったのだ。
そうすれば、好きなこの地元で、七瀬と一緒に過ごせると思ったのだ。
「でもさ、独立して自由に活動するとなると、とてつもないくらい大変でしょ......? だから......」
七瀬は、少し申し訳なさそうにしている。
「七瀬、ごめん......」
「え......?」
「七瀬がそんな思いを持っているのも知らずに、勉強ができないことに対して色々言っちまって......」
「いや、勉強してないのは悪いことだし、正道が謝ることじゃないよ......」
「だけど......」
「じゃあさ、申し訳ないと思うなら、応援してよ」
「そ、それは勿論! 当たり前だ!」
「ふふ、それじゃあ私のこと、ちゃんと見守っててね」
七瀬が応援してくれると言ってくれて、俺は嬉しくなった。
「あ、そうだ。演劇家を目指してるというか、演劇を頑張っている理由があるんだけど......」
「もう一つ?」
「うん。でも、それはまだ言えないかな」
「ま、まだ......?」
もう一つの理由。
それは、七瀬を騙すこと。
今の計画のこと。
「い、いつ教えてもらえるんだ......?」
「うーん......。......分かんない」
七瀬が自分を正道ではなく、七瀬であると気が付くまでは言えないので、そう答えるしかなかった。
「わ、分からない......?」
「うん。だから、楽しみにしてて」
「お、おう......」
俺はそう言って、七瀬をワクワクさせるためにそう言った。
そのワクワクが、精神的に良いと思ったからだ。
第3・7章 終




