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【完結済】俺の彼女は幻かもしれない  作者: Melon
第3・7章 謎・不安

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忘れたフリ

「えっ!? あー......。実は、演劇練習の一環で、発声練習をしてたんだけど......。今日起きたら喉が少しおかしくなってて......。ゴホッ.....」


 俺は驚きつつも、咄嗟に嘘を付いた。


「ちょっと待ってろ。のど飴持ってきてやるから」


 七瀬は靴を脱ぎ、台所へのど飴を取りに行った。


(な、なんでだ......?)


 日頃から練習はしていたが、声は枯れていないはずだ。


「あー、あー......」


 小さい声を出して確認してみるも、違和感は無い。


(ま、まさか......)


 少し前、七瀬は幻覚の症状が改善されたのか、俺のことが七瀬ではなく、正道に見えたと言っていた。

 つまり、今度は俺の声が七瀬の声に聞こえる症状が改善されたのかもしれない。


 本来、これは喜ばしいことだ。

 七瀬が、元に戻ろうとしているのだから。


「ほら」


「あ、ありがと......」


 俺は七瀬からのど飴を受け取り、飴を口に放り込んだ。


「それじゃ、行こうぜ」


「うん......」


 俺と七瀬は、学校へと歩き始めた。



 少し歩き始めた頃、俺は考えた。

 七瀬は現在、症状が良くなってきている。

 もう少し状況が良くなり、本人も気が付き始めたタイミングで、落ち着いて真実を伝えるのがベストだろう。


 だが、そんな考えを邪魔する、忌々しい考えが心の奥に潜んでいた。


 七瀬と離れたくない。


 記憶が戻り、元の生活に戻れば、七瀬は俺から離れていくだろう。

 七瀬の回復を喜ぶべきであるのに、俺はそんなことを少しだけ思ってしまっていた。



 学校に着き、教室へと向かう。

 教室の扉のガラス窓から、椅子に座っている坂月先生の姿が見えた。


「おはようございます。今日は早いですね」


 七瀬が坂月先生に挨拶する。


「おはようございます。先生」


 それに続き、俺も挨拶をした。


「あっ、おはようございます。二人とも」


「先生、今日はどうしたんですか? いつもはチャイム直前に教室に入ってくるのに」


「今日は職員室じゃなくて教室で作業をして、気分転換でもしようかなーって思って......」


 俺と坂月先生は、そのまま会話を始めた。

 しかし、何かを感じたのか、坂月先生は七瀬のことを見た。


「......あれ? どうしたの、正道くん......? 体調悪い......?」


「あ、あの......。俺よりも、七瀬の方が......」


「七瀬さん......?」


 今度は、俺のことを見始めた坂月先生。

 俺の顔をじっくりと見て、様子を伺う。


「先生の目からは、特に調子が悪そうには見えないけど......」


「いや、見た目じゃなくて、声が......」


「......あっ!」


 そういえば、今の七瀬は俺の声が、七瀬の声ではなく、実際の俺の声に聞こえていることを思い出した。


「ど、どうしたんだ、七瀬......?」


「あ、いや。何でもないよ! 今宿題やり忘れたことを思い出しちゃって......。すみません坂月先生......。休み時間にやるので......」


 俺は再び嘘を付き、誤魔化すことにした。


「あら、仕方ないですね。今回だけですよ」


「本当にすみません......」


 俺は坂月先生に謝った。


「じゃあ、少しでも早く終わらせるために、今からやります」


 俺は自分の席で歴史の問題集とノートを広げた。


「あの、先生。さっきのことなんですが......。七瀬の声......」


「七瀬さんの声?」


「今日は七瀬の声の調子が悪いと思うんですけど、特に違和感はありませんでしたか?」


「えーっと......。私からは、特には......。......もしかしたら先生、耳が悪くなってるのかも?」


 先生は耳を触りながらそう言った。

 当然、坂月先生には普段から俺の声が聞こえているので、変化など分からないはずだ。


 このままでは、七瀬が違和感を覚えてしまう。

 どうにかして坂月先生に事情を伝え、話を合わせて怪しまれないようにしなければ。


 そこで、俺は急いでノートに文字を書いた。


「ちなみに、今日の七瀬さんの声ってどんな感じだった?」


「えっと......。いつもより声が低い感じがして......。本人は声が枯れたって言ってますけど......」


「あら......。それは少し心配ですね......。正道くん。教えてくれてありがとうね」


 七瀬はそれを伝えると、自分の席に着いた。


「......あれ、範囲ってここでいいんだっけ?」


 俺は文字を書く手を止め、立ち上がる。

 そして、坂月先生の元に問題集とノートを見せに行った。


「あら、どうしたの?」


「実は、宿題の範囲を忘れて......」


 そこで、俺は問題集と共に、ノートを見せた。

【今、七瀬には男子の声が聞こえている。話を合わせて】と書かれたノートを。


「......あぁ。宿題の範囲は、二十ページから、二十二ページまでよ」


「ありがとうございます! 必ず放課後までに終わらせます!」


 俺は先生にお礼を言い、席に戻った。

 先生の反応的に、察してくれたと思う。


 とりあえず誤魔化せそうで、俺は安心した。


 だが、七瀬を騙すためとはいえ、やってきた宿題をもう一度やらなければいけないのは辛かった。

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