体調不良の原因
七瀬と一緒に登校し、学校で会話し、下校した。
それがすごく楽しかった。
家に七瀬を誘ってみたりもした。
自分の私物は全て隠したので、男子の部屋だと思われることもなかった。
俺と七瀬の距離は、少しずつだが、縮まっていっているような気がする。
だがある日、七瀬が体調不良で休んでしまった。
学校が終わり、急いで七瀬の家へ向かう。
息を切らしながらインターホンを押し、七瀬の母さんが出てくるのを待つ。
「あら、七瀬ちゃん......。お見舞いに来てくれたの......?」
「七瀬、いや違う......! 正道は!? 正道は大丈夫なんですか!?」
「大丈夫だけど、まだ若干......」
「すみません! お邪魔します!」
俺は七瀬の母さんの横を通り過ぎ、靴を脱いで階段駆け上がった。
そして、七瀬の部屋の扉を開く。
「正道! 大丈夫!? また倒れたりしてないよな!?」
ここで、俺の心臓が大きくドクンと動いた。
(や、やべ......)
急ぐあまり、俺は口調を崩してしまった。
してないよな、ではなく、してないよね、と言わなければいけなかったのに。
「あ、ああ。大丈夫だ......」
七瀬は親指を立て、俺に見せる。
それを見た俺は、大きく息を吐き、安心したような表情を見せた。
(気にしてないようで良かった......!)
「よ、よかった......」
「はは......。すまなかったな、心配かけさせて......。ほら、汗拭けよ......」
七瀬は、俺に未使用のタオルを渡してくれた。
「ありがと......」
俺はそれを受け取り、顔をゴシゴシと拭いた。
「そういえば、なんで調子が悪くなっちゃったの?」
「昨日食った刺身が傷んでて体調を崩したみたいなんだ......。朝から吐き気やら腹痛が酷くて、まいっちまうよ......」
「吐き気がするなら、あまりお話しない方がいいかな......? ごめんね、喋らせちゃって......」
「い、いいよ......! 気にすんな......! ......うっ......!」
七瀬は咄嗟に口を押える。
俺は慌ててタオルの隣に置いてあったビニール袋を口元へ運ぶ。
吐きそうになっていたが、吐き気が収まってくれたようだ。
「ねぇ......。一人で大丈夫? 私が見ててあげようか?」
「い、いや。大丈夫......。七瀬には迷惑かけられないから......」
「じゃ、じゃあ私は帰るね......? 学校のプリントは机の上に置いておくから......。それじゃあ、お大事に......」
「ああ......。今日はありがとな......」
俺はプリントを机の上に置くと、部屋から出た。
階段を下りる途中、七瀬の母さんを無視して家に上がり込んだことを思い出した。
俺は謝罪しようとしたが、玄関にはいなかった。
おそらく台所にいるのだろうと思い、台所を覗き込む。
七瀬の母さんは、椅子に座り、麦茶を飲んでいた。
「あ、あの......」
「あら、七瀬はどうだった?」
「吐き気はあるそうですが、重症ではなさそうだったので安心しました......。それと、勝手に家に上がったごめんなさい......」
「気にしなくていいわよ」
七瀬の母さんがそう言ってくれて、俺はホッとした。
「でも、何があったんですか? 食あたりらしいですけど......」
「あの子は、食あたりと思ってるのね......」
「え......?」
食あたりだと思っている、ということは、食あたりではないのだろうか。
「......正道くん。学校で、生理って習った? 女の子の日って言われてる、一ヶ月半前後でやってくる日」
「す、少しだけなら知ってますが、詳しいことは......」
「......あれよ」
「あ、あんなに大変なんですね......」
俺は七瀬の苦しむ姿を見て、女性の大変さを知った。
「多分、数日経てば元気になるとは思うから、安心してね」
そうは言われたが、あそこまで苦しむ姿を見せられると、心配で仕方ない。
「でも、食あたりと思い込んでくれてるなら都合がいいわね。お腹を下してるって思ってるだろうし......」
「な、何のことですか?」
「正道くんは気にしなくて大丈夫よ」
「そ、そうですか......」
それから、俺は麦茶を貰い、少しだけ休ませてもらった。
そして、七瀬の家を後にした。
次の日、七瀬が登校できるかは不明だが、家に向かうことにした。
七瀬の家について現状を聞くと、どうやら登校できるそうだ。
だが、昨日はあんな状況だったので、本当に大丈夫なのだろうか。
俺は心配になりながら、七瀬を待った。
しかし、制服姿の七瀬が現れ、俺は嬉しくなった。
「正道! もう大丈夫なの!?」
「ああ、心配させて悪かった......」
七瀬は後頭部を手で掻きながら、俺に謝罪する。
「本当だよ! 心配したんだから......」
「すまん。まだ入院明けで体調が万全じゃないみたいだし、これからは色々と気を付けるよ......。......それじゃ、行こうか。ここで雑談してたら、遅刻しそうだし」
「うん、そうだね」
「それじゃあ、行ってきます」
七瀬が玄関から出て、扉を閉める。
そして、七瀬に手を繋ぐよう促され、手を繋ぎ、学校へと向かった。
「......なぁ、七瀬。ちょっと聞きたいんだけど......」
「ん? 何? 」
「俺と七瀬ってさ。俺の記憶が正しければ、あんまり親しい仲じゃなかったと思うんだよな。学校でもほとんど話さなかったし......」
「......うん。そうだね」
「それなのに、どうしてここ最近はそんなに良くしてくれるんだ?」
俺は、少しだけドキッっとした。
だが、咄嗟に誤魔化すことにした。
「......寂しくなるなって思ったから?」
「寂しく?」
「うん。あんまり親しくなかったけど、それでも、いなくなったら少し寂しくなるなって思って......。実際、正道の入院期間中も少し寂しかったし......」
「そ、そうだったのか......」
「それでね。考えて考えて。私は実は正道と仲良くなりたかったのかなって思ったんだ。だから、いなくならないでほしい。生きてほしいって思って......」
誤魔化しているとはいえ、話していて恥ずかしくなってしまった。
「.....やめよっか。この話。お互い恥ずかしくなってどうにかなっちゃいそうだし......」
「......そうだな」
それから、俺たちは特に話すこともなく歩き続け、学校に向かった。
そして、授業を受け、給食を食べ、また授業を受けて帰宅。
帰り道もまだ登校中の気まずさが残っており、口数は少なかった。
家に帰り、風呂に入り、夕食を食べて、ベッドに入る。
寝ようとしたが、七瀬のことが頭から離れない。
俺と仲良くしてくれる七瀬が、俺のことを頼りにしてくれている七瀬が。
そして、今日の朝、照れ顔を見せてくれた七瀬のことが、頭にずっと残っていた。
やはり俺は、七瀬のことが好きなのだろう。
1・5章 終




