新たなる生活の始まり
それから、俺は演技力を上げるための練習をしつつ、七瀬にお見舞いに行く日々を過ごした。
七瀬の体調は回復していき、ついに退院できることになった。
ある日の下校中、車に乗った七瀬の母さんとすれ違った。
「あ、こんにちは。七瀬のお迎えですか?」
「ええ、そうよ」
「......じゃあ、明日から本格的に始まるんですね」
「......そうね。......私も頑張るから、頼んだわよ。正道くん......。いや、七瀬ちゃん、ね」
「お互い頑張りましょう。......正道のお母さん」
「それじゃ、行くわね」
「はい」
俺はペコリとお辞儀をし、七瀬の母さんの車を見送った。
そして、俺と一緒に登下校をすることを条件に、家から学校へ通うこととなった。
俺と七瀬の制服を入れ替えているので、俺はスカートで登校するのだが、慣れなくて少し恥ずかしい。
だが、それを我慢して七瀬を迎えに行き、玄関で準備が終えるのを待つ。
少し待つと、俺の制服を着た七瀬が玄関に来た。
「おはよー。よく眠れた?」
俺は七瀬に挨拶をする。
「んー、まあまあかな......」
俺と七瀬が話していると、七瀬の母さんが割り込んできた。
「......七瀬ちゃん。正道のことをよろしくね」
「はい! 任せてください!」
「じゃ、いってくるよ」
七瀬はそう言い、玄関の扉を閉じた。
「じゃ、行こうか!」
俺は七瀬の前に手を出す。
「な、なんで手を繋がないといけないんだよ」
「だって、途中で倒れたりしたら危ないでしょ」
「でも、手を繋ぐのは恥ずかしい......」
「いいじゃん! どうせ家から学校まで人なんてほとんどいないんだし!」
そう言い、手を繋いだ。
そして、俺が先に進む形で学校に向かうことになった。
いつもは学校に行くために、使われていない畑や林、数軒の家しか存在しない退屈な道を、時間をかけて一人で歩いていた。
だが、今日は違う。
七瀬がいるので、退屈することはなかった。
今日は霧が発生しており、遠くの景色は見えなかった。
だが、そんな風景も幻想的で、美しかった。
「霧......。霧かぁ.....」
無意識に、ボソっと口に言葉を出してしまった。
「ど、どうしたんだ?」
「私たちの人生もさ、霧が発生した今みたいに、先が見えないよね」
「なんだよ突然」
「いや、霧を見てたら、ふと思って......。今は学校っていうはっきりした目標があるから進めるけど、人生でも今日みたいに進んでいけるかなぁって......」
「......でもさ、将来の夢とかはあるだろ? だったら、それを目標にして歩けば進んでいけるんじゃないか?」
七瀬に、なんかいい感じのことを言われた。
「あー。確かに......。じゃあ安心だね!」
「安心ってわけではないと思うけど......。ちなみに、七瀬の夢って何だ?」
七瀬は、俺の夢について聞いてきた。
「......笑わない?」
「......内容による」
「......実は私ね。将来演劇の役者になって食っていきたいんだ」
「演劇ねぇ......。大変なんじゃないのか? 演技の練習は勿論、体力を付けたりもしないといけないし......」
「うん......。でも、どうしてもなりたいんだ。演者として有名になって、この地元を人気にしたい」
少しだけ恥ずかしくなったが、夢を言い切った。
「七瀬、いいやつなんだな。しかも、ちゃんと将来も考えてて......」
「そう?」
「俺なんて、とりあえず勉強してここから出ていくことしか考えてなかったし......」
だからこそ、中学二年生の今から必死に勉強して、この田舎外の、頭のいい高校に合格し、一人暮らしの許可を貰う。
それが、七瀬の夢であり、七瀬の倒れた理由。
「ちなみに、演劇の練習ってしてるのか?」
「実はちょっと......」
「へぇ。うまくなったら見せてくれよ」
「うん......!」
夢について話していると、いつの間にか学校の前までたどり着いていた。
「学校も久しぶりだなぁ......」
七瀬が学校を眺めながら言う。
「そういえば、俺がいない間お前一人だったんだろ? 寂しくなかったのか?」
寂しかった。
片思いしている七瀬と接点が無くて、ずっと寂しかった。
だが、そんなことを言えるはずがない。
「流石に私のことを不憫に思ったのか、先生がずっといてくれたよ。それに、正道がいた時だって全然話してなかったから、先生がいなかったとしても全く問題なかったと思うよ。多分」
「......言われてみればそうだな」
「でも、いないよりはいた方がいいからね。正道が来てくれて嬉しいよ」
「はは、そう言われると照れるな......」
照れる七瀬。
そんな七瀬が、とても可愛かった。
「今までは恥ずかしくて話しかけられなかったけどさ。私たちも仲良くなったわけだし、これからはいっぱいお話しようね!」
俺は、七瀬とこれからたくさん話をしたいと思い、そう言った。




