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俺の彼女は幻かもしれない  作者: Melon
第1・5章 目覚め・現実

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口調

「さ、坂月先生!」


 俺は土下座をしている先生に駆け寄り、先生の肩を掴む。


「お願いします......! どうか、信じてください......! 七瀬さんと一緒に過ごしてきた私たちならきっと、七瀬さんが安定するまでどうにかできると......! そして、信じてあげてください......! 七瀬さんなら、きっと回復するって......!」


 流石に七瀬の両親も驚いたのか、父さんは独り言をやめ、母さんは泣き止んだ。


「せ、先生......! どうか頭を上げて......!」


 七瀬の父さんも坂月先生に駆け寄り、手を掴む。

 しかし、坂月先生は頭を上げようとしない。


「七瀬さんを救うために......! 協力してもらえるまで、頭を上げることはできません......!」


「ううう......。......どうする、母さん......」


 七瀬の父さんは、床に崩れ落ちている七瀬の母さんに意見を求める。


「ど、どうするって言われたって......」


「......受け入れていただけたら、俺たちも徹底的に付き合います。破綻して、嘘がバレてパニックにならないように、徹底的に演技をします。七瀬が退院するまで、七瀬として振る舞う練習をします。だから、俺からも......」


 俺も坂月先生に続き、土下座をしようとした。

 しかし、七瀬の父さんに腕を掴まれ、制止される。


「......分かった。君たちの誠意は分かった......。......だが、少しだけ考えさせてくれないか......」


 七瀬の父さんは、か細い声でそう言った。

 涙を流しつつ、崩れ落ちる七瀬の母さんを支えながら。


「......お願いします。七瀬のために......」


 俺は両親にお辞儀する。

 そして、一向に頭を上げない坂月先生の元へ駆け寄り、肩を軽く叩く。

 しかし、反応が無い。


「......坂月先生!」


 俺は肩を揺すった。

 すると、坂月先生は床に倒れてしまった。

 坂月先生の呼吸が、異様に速い。


「ちょっと! 大丈夫ですか!」


 藤波先生はそう言いながら、坂月先生に駆け寄った。


「......過呼吸です! と、取り合えず坂月先生を病室へ運びますね......! 担架を持ってくるので、正道くんのお母さんは協力してくれませんか!?」


「え、ええ......」


 藤波先生は担架を取りに、走って行った。



 そして、藤波先生と母さんにより、坂月先生は担架で運ばれていった。



 それから、俺と母さんは入口の椅子に座って待っていた。

 藤波先生によると、緊張によるストレスで過呼吸になってしまったそうで、一晩だけ病室で安静にしてから帰るそうだ。

 それだけ伝えると、藤波先生は坂月先生を看病しに戻っていった。

 七瀬の両親は、決して七瀬であることを伝えないということを条件に、七瀬の様子を見に行っている。



 トラブルはあったが、俺たちの思いは伝わったようだった。

 ひと段落し、俺は大きなため息を吐いた。


「正道、あんたは大丈夫? 少し、調子が悪そうだけど......」


「え......? 大丈夫......多分......」


 今までにないくらい緊張した場面だったので、疲れてしまったのかもしれない。

 気を抜いたら眠ってしまいそうだが、反射的に大丈夫と答えてしまった。


「......良かったわね。少なくとも、断固否定という感じではなさそうで......」


「......良かったけど、まだこれからだよ......」


 そう、まだこれからだ。

 これはまだ始まりだ。



 それから、俺と母さんはそれ以上話すことはなかった。

 そして、七瀬の両親が戻ってくるまで、二人揃って眠ってしまった。






 藤波先生に起こされて帰宅した俺は、家に帰り、風呂に入るとすぐにベッドで気を失ってしまった。

 そして翌朝。

 起きると、体が酷く疲れていた。

 気を張りすぎて、体に負荷をかけてしまっていたようだ。

 それでも俺は、いつも通り通学の準備をし、家を出た。


 昨日のことを思い出しながら、両側が草で生い茂っている道を歩く。

 七瀬の両親を見る限り、七瀬はとても愛されながら育ってきたのだろう。

 だからこそ、一時的とはいえ、娘を騙すことを受け入れてくれるのだろうか。


「......いや、受け入れてもらわないと......」


 七瀬のために、七瀬のためになるはずなんだ。

 だから、受け入れてもらわないと。


「......そうだ。七瀬の演技が上手くなれば、受け入れてもらえるかもしれない」


 今回の作戦は、俺の演技力にかかっているはずだ。

 俺の演技力に不安があり、受け入れにくくなっている可能性もあるはずだ。


 だから、俺の演技が上手くなれば、受け入れてもらいやすくなるかもしれない。


「......おはよ」


 試しに、俺に対する七瀬の挨拶を真似してみた。


「......ねぇ、ちょっといい......?」


 七瀬の特徴であるそっけない態度を思い出しつつ、口に出していく。

 幸い、俺の地声のままでも、七瀬からしたら七瀬の声に聞こえているようだったので、喉への負荷はかからなさそうだった。


「......今思い返してみると、七瀬ってほとんど喋らないよな......」


 俺に対してではなく、教師や親にすらそっけない態度を取っていた。

 それほど俺たちのことに興味がなかったのか、それとも、嫌いだったのか、真意は分からない。


 そこで、一つの疑問が頭に浮かび上がった。


「......病人に対して、こんな態度を取るのはいいのか......?」


 倒れて苦しんでいる七瀬に対し、こんなそっけない態度を取るのは、精神的に問題ないのだろうか。それに、俺の性格と違いすぎるため、何かあった時にうっかり言葉選びを間違えてしまうかもしれない。


「......この点に関しては、相談するか......」


 今は説得力をどうにかするため、七瀬を真似ることだけを考え、学校に着くまでの間、ずっと真似をし続けた。



「あれ......」


 学校に着いたが、学校の校門は閉じていた。

 坂月先生がまだ到着していないのだろう。


「......そもそも、今日って何時頃に来るんだ......?」


 今思えば、元気になっているとしても、準備のためにいったん帰らないといけないため、いつも通りに来ないはずだ。

 やらかしたな、と思いつつ、草むらに座り込む。

 幸い、朝なので気温は高すぎず、少し暑い程度だった。


「......おはよう、先生」


 坂月先生が来るまでの間も、口調を真似る練習を続ける。


「......正道、調子はどう? ......そう」


 七瀬の数少ない会話の場面を思い出し、必死に真似ていく。


「......やっぱり、そっけないと精神的に良くなさそうだよなぁ......」


 俺はゴホゴホと軽く咳払いする。


「......正道、おはよう! ......坂月先生! おはようございます!」


 こちらの方が、明るくていい気がする。


「......そうだ」


 俺は思いついた。

 この口調であれば。



 そんな俺の思考は、車が近づいてきた音によって掻き消えた。

 音が聞こえる方向を見ると、坂月先生の車がこちらに向かってきていた。


 車は校門の前で止まり、中から坂月先生が慌ただしく出てきた。


「ごめんね! 少し寝過ぎちゃって......! 今、校門と校舎の鍵を開けるから......!」


「それより先生、体調の方は大丈夫ですか......?」


「藤波先生のおかげで、体調の方は何とか、ね......。......お財布の方は厳しいけど......」


 少しだけ笑いつつ、校門を開けながらそう返事をした。


「......先生、昨日はありがとうございました。七瀬のために、頭を下げてくれて......」


「......当然ですよ。先生が生徒のために動くのは、当たり前なんですから......」


 先生は鍵を開け、門を開く。


「さ、授業を始めましょう。......七瀬さんのことをどうするか、ご両親のことを考えなら......」


 先生はそう言って、校舎へ向かって歩いて行った。

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