【22話(3/3)】その目は昏く
訓練校の2年生、小昏庸昭。
彼は暇さえあれば推進研究室の近くまで行き、出入りする者の様子を伺っていた。
「あっ!また、車から……!」
不良学生、湊陽輝。上級生の自分を殴ったり、祈念室を荒らしたりするくせに、相変わらず美咲という特別な少女と共に、神木の研究室を出入りしている。
しかも、最近は三閥御用達の高級車でやってくる。なぜか扱いが良くなっているのが余計気に食わない。
物陰から湊の姿を追っていると、背後からいきなり声をかけられた。
「あなた何?」
「うわっ!?」
眼鏡をかけ、黒髪を無造作に束ねた、飾らないクールな女性。
小昏は思わず飛び退いた。
「あっ、あなたはっ、鹿鳴春花さん!?」
「ん?私のこと、知ってるの?」
「はいっ!もちろん!もちろん知っております!その、僕は神木研究会の会長を務めておりまして、あっ、神木研究会というのは非公認のサークル団体なんですが、いずれ公的な活動もできるよう頑張っていて、あっごめんなさい、今それは関係なくて、僕はそこで神木さまに関する研究を調べていて、あっ、調べると言っても雑誌とか論文とか読むだけなんですけど、でも、あなたのことはよくお見かけしていて、なので、そのっ、びっくりしたというか、嬉しいというか、ええっと……そう、光栄ですっ!」
小昏が顔を紅潮させてアワアワと喋る間、春花は彼の服装をじろじろと見ていた。
「訓練校の2年生……湊くんの友達?」
「いいえっ!逆です!」
「逆?」
「いや、逆というかその、なんで彼なんかが……」
ごにょごにょと話す小昏を、春花はじっと見る。
「湊くんのこと、気に入らない?」
「はい……その、ごめんなさい……でも、神木さまに信仰の無い彼が、どうしてここに出入りできるのかなって……」
「ふーん……ちょっと、ここで待ってなさい」
春花は研究室に入り、しばらくして、また出てきた。
そして小昏の手を取り、にこりと笑った。
「神木への信仰が深いなんて、とても素晴らしいわ。そんなあなたにだけ、特別に教えてあげる。神木にはね、子どもの木の、幼木があるの。そして幼い少女が、その幼木の御使となっているのよ」
「えぇっ!?そんな、神なる御子が!?ならば、あの美咲ちゃんという子が、御子の御使なのですね!」
興奮する小昏の手に、春花は何かを握らせる。
「そこで提案なんだけど。幼木に、あなたを見定めてもらうってのはどう?」
その手の中には——黒いナイフが煌めいていた。
「ひぃっ!?」
小昏は驚いて手放そうとしたが、春花は無理矢理それを握らせる。
「本物のナイフだから、刃には気をつけて。でもね、これは特別な宝具なの」
「宝具……?これが、ですか?」
「ええ。あなたの疑念を、これにぶつけなさい。湊くんへの思いの丈をね……あなたの疑念が届いた時、幼木は自らあなたを選ぶでしょう」
「おお……!」
「逆に、もし幼木があなたを拒んだら、あなた自身がその座を勝ち取ればいい」
「えっ……?どういうことですか?」
「それはあなたが考えるの」
春花は小昏に背を向けた。
「来週のこの時間、またここに来なさい。それまで、その宝具にしっかり思いを込めるように」
春花が去った後、小昏は震える指でナイフの柄を触る。
(僕の宝具より重たい……本当に、本物の刃が付いているんだ……色は違うけど、つるっとした手触りは結晶と同じ……)
鹿鳴春花——憧れの研究室に出入りする、雑誌や論文の向こうの人。学会の権威である彼女の言葉は、正しいに決まっている。
小昏は試しに、黒いナイフを強く握ってみた。
「湊陽輝……あいつばかり特別扱いで、許せない!」
彼の気持ちに応えるかのように、黒いナイフは禍々しく輝いた。
「おお、本当だ!これで僕が、幼木に……神の御子に、選んでもらえる!」
小昏は、すっかり陶酔した目でナイフを見つめるのだった。
読んで頂きありがとうございます!
至らぬ点があればすみません。
完結まで頑張ります!




