【20話(3/3)】若き家長
美晴が休憩室へ戻ろうと歩いていると、成海がバルコニーに佇んでいるのに気づいた。
「——失礼致します。旦那様、まだお風呂に入られていないのですか」
「ああ、美晴か。色々考え事をしていてね」
成海はバルコニーを出て、自室を指した。
「お入り。少し話をしよう」
***
美咲の部屋とは対照的に、成海の部屋は殺風景だった。
だだっ広い部屋なのに、家具は書斎机とベッドだけ。教科書や参考書はカーペットの上に山と積まれ、制服はベッドの角に引っかけてある。宝具の猪牙刀は、部屋の隅に立てかけてあった。
「旦那様、本当に本棚を新調しなくてよろしかったのですか?クローゼットも……」
「しばらくはこれで大丈夫だよ。父さんの書斎机が残っているだけで十分さ。それに、美咲の部屋や洋服を優先してあげたかったからね」
成海は猪牙刀を手に取り、鞘を外した。
大きな刀身が一瞬で青白く光る。
「狩野は宝刀を扱うけど、君も宝具を使うのかい?」
「いいえ、私、祈念の方はさっぱりでして……」
成海は猪牙刀を鞘に納めた。
「ふぅ……祈念はいいよ。あの時の決闘で、僕は祈念を通じて、自己の回復と強化ができるようになった。これがなかなか便利でね。こうやって回復祈念を挟めば、疲れることなく無限に活動できるんだ」
「しかし、それはお身体に悪そうですが……」
「まあ、祈念は脳に負担がかかるから、純粋な体力の回復だけでは補えないだろうね。大丈夫、徹夜はしないように気をつけているよ」
成海は猪牙刀を持ったまま、書斎机に寄りかかる。
「それで……美咲はどうだい?」
「初めてお会いした時よりは、心を許して下さったようです。しかし、お母様がいらっしゃらないのを気になさっているご様子で……お母様が生きていらしたら、と考えることもあるようです」
成海は、美晴の話をじっと聞いていた。
「そうか。僕には母さんを覚えてるとしか言ったことが無いのに……僕には遠慮して、寂しいなんて言えないのかな」
そう言って、手に持っていた猪牙刀を撫でる。
「母さん……母には、強くなくていいから優しい人になるよう言われた。でも、今の自分は逆を進んでいるような気がするよ」
「……と、申しますと」
「あの叔父が捨て置いた収集品が意外に高く売れたから、しばらくは生活に困らないだろう。でも、これを維持するには、稼ぎが必要だ。早く警護隊の要職に就いて、この第二邸で不自由なく暮らしてみせる……僕の強さは稼ぎに繋がり、稼ぎでこの家を保つことが、また僕の強さの誇示に繋がる。そうすれば、叔父のように美咲を脅迫材料にする奴だっていなくなるだろう」
美晴は、成海の言葉に決意のようなものを感じた。
(旦那様、過去のご両親の思い出に縋っているわけではないのね。お嬢様の後ろ盾として、強くありたいと思っておられるのだわ。ご自身だって、まだお若いのに……)
「——旦那様。真に優しさを捨てたなら、侍女が頬を打たれようと、それを庇いなどしませんよ。少なくとも、以前の環境ではそうでした」
美晴は、扉の前で深く一礼した。
「旦那様は、強いと同時に、お優しい方です。お一人で抱え込まずに、私共を頼って下さいませ。それでは、失礼致します」
成海は、美晴に向かって静かに微笑んだ。
「……ありがとう。これからも、美咲を頼むね」
美咲は両親がいない寂しさを抱えており、成海は家長としての責任を抱えている。
この兄妹を、生涯を通して支えていこうと心に誓った美晴なのであった。
読んで頂きありがとうございます!
至らぬ点があればすみません。
完結まで頑張ります!




