【19話(13/13)】送迎という名の護衛
さらに翌日の、月曜日。
湊は訓練校の教室で、通信機を確認していた。
『依頼主さんへ。今日、美咲の誘拐事件が起きました。この日付を送ってきたということは、何か知っていたんですか?あなたは何者なんですか?』
湊が土曜日に送ったメッセージは、その日のうちに既読が付いた。
しかし、休み明けになっても、返信は来なかった。
(誘拐のこと、前から分かってたのか?美咲がさらわれるって具体的に教えてくれてたら、防げたかもしれないのに……)
謎の依頼人には、不信感しか抱けない。
モヤモヤしながら机に突っ伏していると、晃記が教室に入ってきた。
「湊くん、おはよう」
「ん、おはよ」
晃記は自分の席に荷物を置いて、湊のもとにやってくる。
「湊くん、この土日、何かあった?」
「え、何で?」
晃記は曇った表情で話す。
「土曜の夜、警護隊の隊員さんがいきなり家に来たんだよ。詳しい話をどうのって言ってくるけど、全然分からないし……結局、僕と湊くんを間違えてたみたいでね。僕ら似てるわけじゃないのに、何でだろう?」
(しまった!俺が晃記の名前を使ったから!)
任務に登用されていることも、美咲との関係も、晃記には話せない。だから、この件も説明のしようがない。
「晃記、ごめん、迷惑かけて。俺のせいなんだ……でも、その、何でかっていうのが……」
湊が言い淀んでいると、晃記はニコリと笑った。
「いいよ、言わなくって」
「えっ?」
「湊くん、よく秘密にしたがるじゃないか。でも、それは僕に言いたくないんじゃなくって、誰にも言っちゃいけないからだろう?」
以前、登用訓練生の試験を受けるために席を外した時も、晃記には何があったか言わなかった。
湊の不自然な言動から、何か事情があることは察していたらしい。
「うん……ごめん」
「謝らなくっていいよ。僕は湊くんが後ろ暗いことを隠してるとは思ってないから」
湊の浮かない顔を見て、晃記は笑ってみせる。
「気にしないで!何か困ってるなら僕を頼ってね!僕にできることがあるなら、湊くんの力になるよ」
「うん、ありがと」
***
その放課後。
幼稚園に美咲を迎えに行くと、美咲はいつも通り、元気に玄関から出てきた。
幸い、美咲は自分が誘拐されたことに気づいていない。このままそっとしておいた方がいいだろう。
園を出て研究室への道を行こうとすると、美咲が腕を引っ張ってくる。
「ねぇ、そくていのまえに、あかちゃんみにいこ!」
「赤ちゃん?」
「うん!みさきねぇ、おなかのあかちゃんにおいのりしたの!あかちゃんげんきか、みにいくの!」
(ああ、あの人が妊娠してると思ってるから……)
「うーん……まだ生まれてないんじゃない?」
「えぇーっ、まだぁ?」
たとえ明日香が子どもを授かったとしても、加害者の明日香と、被害者の美咲は、一生接点を持つことはないだろう。
「……美咲。赤ちゃんって、お母さんのお腹の中でおっきくならないと、生まれないんだよ」
「えーっ、いつうまれるのぉ?」
「うーん……美咲が幼稚園を卒業して、小学校に入って、もっとお姉さんになる頃、かな」
「えぇーっ!みさき、まだようちえんなのに!そんなにかかるのぉ〜!?」
「そう。だから、今は気にしててもしょうがないよ」
「そっかぁ……あかちゃん、はやくみたいなぁ」
それから美咲は赤ちゃんの話題を出さなくなった。
だが、この先いつか、美咲は自分が誘拐されていたことに気づくのだろうか。御使として初めて祈りを授けた人物が、自分に歪んだ愛情をぶつけ、大切な兄の命すら奪おうとしていたと知ったら、どう思うだろう。
湊は美咲の手を取った。
「じゃあ、測定行こっか」
「うん!」
美咲との関わりは、単なる送迎ではなく、護衛任務である。自分がしっかりしないと、美咲の心身を傷つけることになりかねない。
改めて、護衛としての自覚を持った湊なのであった。
読んで頂きありがとうございます!
至らぬ点があればすみません。
完結まで頑張ります!




