【19話(12/13)】黒い結晶
事件から一夜明けた翌日。
湊は祈念室に赴き、警護隊と警察の聴取を受けていた。
「ええと、君が湊陽輝くんでいいんだよね?」
隊員に尋ねられて、湊は首を傾げる。
「えっ?はい、そうですけど」
「巻幡くんっていうのは友達?同級生の名前を使ってたの?」
昨日、祈念室の信徒に話しかけた際、湊は晃記の名前を使った。どうやらそれが隊員の混乱を招いたらしい。
「ああ、それですか。関係者じゃないフリをしようと思って、言っただけです」
「そういうことだったのか……まあいいや、それじゃあ、昨日のことについて聞いていくよ」
***
湊と隊員が話している様子を、物陰から覗く者がいた。
「湊陽輝!また何かを任されているのか……!?」
訓練校の2年生、小昏。
熱心な信徒である彼は昨日、祈念室で神教師の講話を聞いていた。しかし、そこへ宝槍を手に突撃してきたのが、あの湊陽輝であった。
「あいつ、神聖な祈念室を踏み荒らして……!どうしてあんな奴が研究室への立ち入りを許されているんだ!?僕の方が絶対に信仰を深めているというのに!」
小声でぶつぶつと呟きながら、小昏は湊の動向を伺うのであった。
***
聴取が終わった後、湊は病院へお見舞いに向かった。
照臣の病室には、ちょうど紫苑もいた。
「吉川さん、まだ顔色悪いですね……」
紫苑が、照臣の頭をヨシヨシと撫でる。
「検査は異常ナシだってさ。ま、加護や祈念の探知って脳の検査でも測れないから意味ないよねぇ。多分、美咲ちゃんの探知で、脳にすっごい負荷がかかったんだよ」
照臣は、紫苑の手を弱々しく退ける。
「いや……普段は探知のせいだが、今の原因は、何となく分かっているんだ」
突如、病室の扉が勢いよく開き、恰幅のいい男性教官・伊織がズカズカと入ってきた。
(この先生、確か紫苑さんと関係ある人だっけ?)
伊織は、持っていたカゴを机の上に置いた。
「吉川、旬の果物を食べて休め!栄養と睡眠は全てを解決する!」
カゴの中には深い紙皿が入っており、ひと口サイズに切り分けられた柿が並んでいた。
「うおぉーっ!ウマそう〜っ!」
紫苑の手を素早く叩き落としてから、伊織は爪楊枝を3本取り出し、突き刺していく。
「鳩羽、行儀が悪い!楊枝で食べなさい」
(この先生、用意がいいな……)
「それで吉川、例のものは採取できたか?」
伊織に尋ねられ、照臣は頭を押さえながら、備え付けの引き出しに手を伸ばす。
「ああ大丈夫だ。俺が取ろう。吉川は柿を食べて寝ていなさい」
伊織は引き出しを開け、黒いものをつまみ上げた。
「おお、まさにこれだ!でかした、吉川!」
ひと粒の、黒い玉飾りだ。
(あっ!あの奥さんのブレスレット……?)
伊織は玉飾りを透明な小袋に入れ、封をした。
柿を貪る紫苑から爪楊枝を取り上げる。
「よーし、鳩羽。これをすぐに照東支部へ持って行け!俺は解析班に連絡しておく」
「えぇーっ!?オレお見舞いに来たばっかなのにー!」
「つべこべ言うと投げるぞ!屋上から!」
「げっ……へいへーい」
紫苑は小袋をポケットに入れてから、病室の窓を開ける。
「テルちゃん、ちょっくらショトカさせてね〜ん」
紫苑はひょいと窓枠に飛び乗り、庇を伝って隣家の屋根に飛び移って行った。
伊織は通信機でメッセージを送り、病室の窓を閉めた。
「これで煩わしい申請を省略でき、迅速な報告が可能となった。吉川、お手柄だぞ」
照臣の顔色は、先ほどより良くなったように見える。
「あれ?吉川さん、大丈夫ですか?」
「ああ。この頭痛は恐らく、あの玉のせいだった」
「えっ?何か悪いものなんですか?」
伊織が代わって答える。
「我々も分かっていることは少ないが、あれは結晶と同じ成分でありながら、結晶とは異なるものだ。湊陽輝訓練生、君も見たことがあるだろう……黒色の、結晶状の構造物を」
そう言われて、湊は考えを巡らせる。
「黒い……まさか、脱走犯が持ってた、黒いナイフ?」
伊織は頷く。
「そうだ。あれを解析した結果、結晶と同成分であることが判明した。まだ不明な点が多いゆえ、他言はしないように」
黒い結晶を用いた、黒い刃物に黒いブレスレット。
誰が何のために作ったのか、湊が知るのはもう少し先のことである。
読んで頂きありがとうございます!
至らぬ点があればすみません。
完結まで頑張ります!




