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【19話(10/13)】御使の祈り

美咲を誘拐したと告白した女性、鹿鳴明日香。

彼女に案内されて、湊は自宅の洋館に入っていた。


「美咲!」


美咲はこちらに気づくと、顔をくちゃっとさせて駆け寄ってきた。

「みなとさぁん!」

「美咲!」


湊は美咲をギュッと抱きしめた。

「ごめんね、俺がほったらかしにしたから……ケガしてない?痛いところは?」


美咲は眉を下げて、悲しそうに部屋の奥を見る。

「おにいちゃん、あたまいたいの……」

「お兄ちゃん?」


明日香は隣の部屋に繋がる扉を開けた。

「こちらにおられます」


寝室のベッドには、照臣が横たわっていた。

「吉川さん!大丈夫ですか!?」


照臣は頭を押さえたまま、顔をしかめて眠っているようだった。


(吉川さん、頭を殴られたのか!?)


「あんたまさか、吉川さんを殺そうと……!」


湊が詰め寄ると、明日香は慌てて首を振った。


「いいえっ、そんな!この方には何もしておりません!でも、急に意識を失って倒れてしまわれて……何があったのか、私にも分からないのです」


***


成海と狩野夫妻の到着は早かった。

照臣が連絡してくれていたらしい。


狩野が警護隊と警察に対応している間、湊と成海は明日香に事情を聞くことにした。

冬雪は新しいマスクを着けてやってきたが、言葉を発することはなく、明日香の隣で顔を覆って俯いていた。


美咲が弥生の膝枕で甘えているのを遠目に見ながら、明日香は口を開いた。

「何を言おうと私の罪は変わりません。ですが、今になってみると、どうして人さまの大事なお子さまを攫おうなどと思い至ったのか、本当に分からなくて……」

「分からない?自分が旦那に相談したんだろう!」

湊は詰め寄る成海を押さえる。

「成海さん、まずは聞きましょうよ!あんた、分からないって言っても、美咲を狙ったきっかけはあるんでしょ?」


明日香が嘘をついているようには見えない。


「ええ……二度の流産で、精神的な疲弊はありました。それに、会議で御使さまを見て、あのようにかわいらしい子どもが欲しいと思いました。でも、産みたいだけで、本当に誘拐しようだなんて……!」


明日香が話していると、隣の寝室から照臣がふらふらとやってきた。相変わらず頭を押さえて、下を向いている。


「照臣!歩いて大丈夫なのかい!?」

彼は成海の声に頷いたが、すぐに倒れ込んでしまった。


「ああっ、吉川さん!」

湊は慌てて照臣を起こしに行く。

「吉川さん、寝ていて下さい!狩野さんが救急車も呼んでくれたので、病院で調べてもらいましょう」

照臣は黙って頷き、再び寝室へ戻って行った。


成海は心配そうに照臣を見送る。

「照臣はひどい頭痛持ちなんだ。祈念や加護の探知ができる人にはそういうタイプが多いんだけど、今日は僕が無理をさせてしまった」

「そうなんですか……ん?」


湊はふと、部屋の隅に散らばった黒い粒に気づいた。

もともと集めてあったのを、照臣が倒れた時に広げてしまったらしい。


「これ、何ですか?」


明日香がやってきて、再び部屋の隅に粒を寄せる。

「すみません、後で片付けておきます。これは安産のお守りのブレスレットだったのです。御使さまの指に引っかかって、切れてしまい……御使さまにお怪我はありませんので、ご心配なく」


確かに、数珠のブレスレットのお守りはある。だが、煌照祭(こうしょうさい)で同級生の晃記が着けていたように、だいたいは神木の結晶を使用した、翡翠色のものが多い。


「黒でお守りって珍しいですね……なんか、縁起が悪そうですけど」

「でも、会議で頂いたお守りの中にあって……ブレスレットなら普段使いできますし、私の黒っぽい服とも合うので、気に入っておりました」

「誰から貰ったんですか?」

「あの時は頂き物を一気に受け取ったため、誰から頂いたかは分からないのです。それに、鹿鳴家の議員さん方は全員、私が不妊治療中だとご存知ですから」


明日香はそう言った後、悲しそうに自嘲する。

「もっとも、最初からそれが宿命だったのかもしれません。私のような犯罪者のもとに生まれたい赤ちゃんなど、いるはずがありませんから」


美咲は弥生に抱きついて甘えていたが、ピョンっと跳ね起きた。

「あかちゃん!?」


美咲は顔を輝かせて明日香のもとへ駆け寄る。

「ねぇ、あかちゃんできるのぉ?」


すかさず成海が割って入る。

「美咲、離れて!」

「んーん!おにいちゃん、あっちいって!」


美咲は、お兄ちゃんが美咲をこのお家に預けたのだと思っていた。でも、お兄ちゃんは女の人に怒っているようだった。どうやら、女の人が勝手に美咲をお家に連れてきたらしい。

それなら女の人は、どうして美咲をお家に連れてきたのだろう?それがやっと分かったのだ。


お友達の泰星(たいせい)くんには、妹の赤ちゃんがいる。赤ちゃんは、御使さまのお祈りのおかげで無事に生まれてきたらしい。御使さまには、赤ちゃんを助ける力があるのだ。

そしてこの人はお腹に赤ちゃんがいて、美咲が御使さまだと知っている。きっとこの女の人は、美咲に赤ちゃんを助けてもらいたかったに違いない。


美咲は成海に腕を掴まれたまま、明日香の元に歩み寄る。

「さっきはちがうっていったけど、みさきねぇ、ほんとはね、みつかいさまなの!でもようちえんいきたいから、ないしょね!」


そう言って、美咲は明日香のお腹にぴたりと手のひらを当てた。


「あかちゃん、げんきにうまれますように!」


明日香はきょとんとしていたが、やがて目に涙を溜め、肩を震わせた。


「あの、ごめんなさい、違うの……私はあなたを——」


美咲は明日香の言葉を聞かずに、一生懸命お祈りをする。


「だいじょうぶ!なかないで!あかちゃんに、みさきがおいのりしてあげるからねっ!げんきにうまれますように!げんきにうまれますように!」

「……ええ、ありがとう……ありがとうね……」


明日香はその場に崩れ、啜り泣く。


「どしたのぉ?なかないで!」

弥生が美咲の手を取る。

「お嬢さま、行きましょうか。十分お祈りしたでしょう」


美咲は連れて行かれながらも声を上げる。

「なかないでぇ!だいじょうぶよぉ!げんきでねぇ!」

「ええ、ありがとう……本当に、本当に、ごめんなさい……」


美咲がいなくなってからも、明日香は止めどなく涙を溢すのだった。

読んで頂きありがとうございます!

至らぬ点があればすみません。

完結まで頑張ります!

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