【19話(8/13)】対決・鹿鳴冬雪
鹿鳴冬雪は、湊の相手を警護班に任せた後、自宅に戻っていた。
美咲の様子を見に行こうとしたその時、通信機が鳴る。
「おー、早かったじゃねえか。もう終わったのか?」
通信機の向こうから、ため息混じりの声が聞こえてくる。
『終わった?……ああ、別の意味でな……!』
「はぁ!?まさか負けたとか言わねえよな!?」
神事局との合同会議の後、妻が御使の少女を欲しがるようになった。自分があの子どもを鹿鳴家で預かるべきだと意見したばかりに、妻を本当にその気にさせてしまったようだった。
鹿鳴家で後継者の男児を産む重責。長年に渡る不妊治療。ずっと妻の心身に負担を強いてきたことを思うと、簡単に断ることはできなかった。
御使・猪狩美咲の身辺を調査したところ、兄の成海は叔父の啓三に生家を奪われており、事あるごとに目の敵にされていることはすぐに分かった。
利害の一致。
啓三は成海を疎んでおり、彼から全てを奪おうとしている。
対してこちらは、肉親の成海がいなくなれば、美咲を手に入れやすい。
猪狩家の決闘とかいう狂ったしきたりを利用すれば、成海を排除できる。そう考えた冬雪は、猪狩啓三に共同の奸計を持ちかけたのだった。
「おい、どうしてくれんだよ!?こっちはお前があいつを始末できる前提で動いてんだぞ!」
『はぁ……知るかよ、んなこと……』
啓三との通話はプツリと切れた。
冬雪は手首の通信機を外し、床に叩きつけた。
「あぁっ!クソがっ!」
そこへ、青ざめた妻がふらふらとやってきた。
「明日香?」
「あなた、ごめんなさい……!私、とんでもないことをしてしまったわ……!今からでも警察に——」
「はぁ!?お前が言いだしたんだろ!俺らはもう引けないところまで来てんだよ!」
冬雪は縋ってくる明日香を振り払った。
「いいか、これは誘拐じゃない。れっきとした保護だ。神木への信仰心が足りない連中から、御使を守るんだろ!」
そう言い残し、冬雪は自室に向かった。
飾ってあった、豪奢な宝槍を手に取る。
(ったく、どいつもこいつも!俺がやるしかねえ!)
冬雪は自宅を出て、再び祈念室へ向かうのだった。
***
祈念室にて、湊はもう一人の警護班員と対峙していた。
「おいおい、まだ手こずってんのか!天下の警護班さまがどうしたってんだよ!」
苛立った声を上げながら、冬雪が戻ってきた。
手にはきらびやかな宝槍を持っている。
(あいつ、さっきは余裕そうだったのに、どうしたんだ?もしかして、美咲が脱出できたのか?)
冬雪は班員を押し退ける。
「もういい!俺がやる!お前らは退避だ!」
班員は、もう片方のダウンした班員を担ぎ、祈念室を出て行く。
「待て!お前らが誘拐の実行犯だろ!」
湊は班員を追いかけようとしたが、今度は冬雪に阻まれた。
「まずはお前から片付ける。その次にあのクソ兄貴だ」
そう言って、冬雪は湊に宝槍を突きつける。
湊も宝槍を構え、祈りを込めた。
冬雪は湊の眩い宝槍に動じることなく、むしろ鼻で笑う。
「おやおや、とんだ命知らずがいたもんだなぁ。鹿鳴家を相手に宝槍で戦おうなんて!」
冬雪は宝槍を振り下ろす。
それを受けると、手がビリビリと痺れた。
(一振りが重いっ……!)
飛び退いて距離を取ろうとするが、冬雪はお構いなしに間合いを詰め、攻撃を重ねてくる。
訓練校の宝具は安物で、軽い素材に結晶の粉末をコーティングして作られている。しかし、高級な宝具ほど結晶の割合が増え、その分宝具の重さも増える。
祈念の問題ではなく、シンプルに槍としての重量に圧倒されてしまうのだ。
(結晶の輝きは無いから、祈念は得意じゃないのかもしれない。でも、重い槍をぶん回すだけの体力はあるってか……!)
冬雪の攻撃を受けることに集中していると、宝槍への祈念もままならない。
「ほらっ、足元がお留守だぞ!」
「わっ!?」
冬雪の宝槍に足元をすくわれ、湊は尻餅をついた。
立ち上がろうとしたが、喉元に宝槍の切先をぴたりと当てられた。
「勝負あったな。鹿鳴家の宝具は鹿角槍。俺らは宝槍の扱いをこれでもかって叩き込まれるんだよ」
そう言う冬雪は、マスク越しでも分かるくらいにニヤついている。
(こいつ、ムカつく!一発殴ってやらないと気が済まない!なのに、こんな奴に負けて——)
湊は怒りと悔しさを滲ませたが、ふと気づいた。
(いや、待てよ……どうして宝槍での勝負にこだわらないといけないんだ?)
湊は喉元の宝槍を掴み、綱引きのように勢いよく引き寄せた。
「なっ!?」
バランスを崩した冬雪の胸ぐらを掴む。
「宝槍で負けたから何だってんだよ!」
自分の宝槍を投げ捨て、冬雪のマスクを掴んだ。
「そのツラ見せろ!引っ叩いてやる!」
「何しやがるっ!やめろっ!」
激しく揉み合った末に、湊は冬雪のマスクを剥ぎ取った。
「えっ……!?」
湊は怒りを忘れて、呆然と冬雪の顔を見つめた。
冬雪の鼻と唇の間には、ぎょっとするような赤黒いアザが広がっていた。
読んで頂きありがとうございます!
至らぬ点があればすみません。
完結まで頑張ります!




