【19話(6/13)】決闘、再び
時は少し遡り、湊と照臣が美咲を探している頃。
成海は、馴染みのある屋敷の庭を歩いていた。
かつて、自分が暮らしていた場所。
今や、奪われてしまった場所。
叔父は美咲の居場所をエサにした。
しかし成海は、それを教えてもらうだけで済ませるつもりは無かった。
(美咲の居場所だけじゃない。この決闘で、僕は全てを取り戻す!)
***
武を尊ぶ猪狩家のしきたり、決闘。
どちらかが降参するまで戦い、勝者は敗者が賭けたものを得る。
邸宅の外れに設けられた決闘の場には、既に叔父の啓三がいた。少し離れたところには、侍従たちも固まって立っている。
啓三はこちらを見るなりニヤリと笑う。
「来たな。おい、それを出せ」
啓三の合図で、侍従たちが二人がかりで木箱を提げ、蓋を開けた。
猪狩家の家宝、猪牙刀。かつて、成海の父が愛用していた宝刀だ。
決闘の場に、狩野も到着した。
啓三は猪牙刀を担ぎ、狩野に声をかける。
「おい、遅いぞ。早く始めろ」
(本当は今すぐにでも、狩野に美咲の捜索を頼みたいのに……)
猪狩家における序列は、成海より啓三の方が上だ。
狩野が成海に仕えていても、さらに上の啓三に逆らうことはできない。
狩野は一礼して、成海に視線を送る。
成海は頷いてみせた。
(大丈夫。絶対に勝って、美咲の居場所を吐かせるよ)
狩野が決闘の進行を始める。
「猪狩家、決闘決議。申込者は……どちらに致しましょう」
成海が応じる。
「僕でいい。賭けるものは……全部だ」
啓三が嘲笑う。
「全部!?おいおい坊ちゃん、正気か?」
「……では、申込者、猪狩啓二の長男・猪狩成海。賭け物、己に関する全ての事物」
成海の思い切った言葉を聞いて、狩野は一瞬動きを止めたが、その後は滞りなく進行をこなした。
「では、続きまして……受諾者、猪狩第二邸頭領・猪狩啓三。賭け物は?」
成海が啓三を睨む。
「お前も全てを賭けろ」
「フン、俺はそんなバカな真似はしねえ。ま、妹に関する情報と、この屋敷ぐらいにしとくか」
狩野は頷く。
「では、賭け物、猪狩美咲の情報と、猪狩第二邸。見届け人は、私、狩野彰治が務めます」
賭け物の宣言が終わり、啓三と成海は対峙する。
成海は宝刀を持っていない。
狩野が自分の宝刀を貸そうとしたが、成海がそれを拒んだ。
「大丈夫だよ。始めてくれ」
***
決闘が始まると、啓三は成海に向けて猪牙刀を振り回す。
「丸腰だろうと手加減はしねえ。お前から奪ったこいつで、叩きのめしてやるよ!」
成海は啓三の太刀筋を読み、俊敏にその攻撃をかわす。
しかし、脚に一撃受けてしまった途端、動きが緩慢になっていく。
猪牙刀には、ほのかな白い光が灯っている。
啓三の祈念は大したものではないが、猪牙刀そのものの重量に殺傷能力がある。いわば、大理石でできた太刀のようなものだ。
一度捕まってしまうと、身体中に重い打撃を浴びせられる。
成海の色素の薄い肌は、すぐに痛々しい青アザまみれになった。
***
侍従たちは、身を寄せ合って決闘を見守っていた。
成海に猪牙刀が振り下ろされるたび、彼女たちは肩を震わせて顔を覆う。
しかし、侍従の中でも美晴だけは、ずっと決闘を直視していた。
(あの坊ちゃん、前とそう動きが変わっていない。今回は宝刀も無いし、ますます分が悪い)
美晴は、立会人を務める狩野に目をやった。
彼が決闘を止める気配は無い。
(伯父さん、まだ止めないの?それとも、あの坊ちゃんがここから勝てると信じているのかしら)
***
成海は分かっていた。狩野は終了の合図をしない。
今のまま決闘を終えると、成海は全てを失ってしまう。
成海のためを思うからこそ、いかに成海が傷つこうとも、続行せざるを得ないのだ。
(まだだ、まだやれる……死ぬ寸前なんて、こんなものじゃないはずだ……!)
読んで頂きありがとうございます!
至らぬ点があればすみません。
完結まで頑張ります!




