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【18話(1/3)】報告任務

神木の加護を受ける街・煌都(こうと)

訓練校の新入生・(みなと) 陽輝(はるき)は、神木と意思疎通できる女児・猪狩(いかり)美咲(みさき)の身辺警護を任務として請け負う。


美咲と関わるうちに、湊は黒い刃物を持った脱獄囚らの襲撃を受ける。湊は再び来るかもしれない襲撃に備えて槍術の特訓を積んでいるが、幸い美咲に実害が及ぶような事態は起こっていない。(11話)


一方、訓練校の教官・伊織(いおり)は、訓練生の鳩羽(はとば)紫苑(しおん)を使い、脱獄囚と黒い刃物について調査を進めていた。

そして、伊織の元に、ある報告書が届いたようで……?

照東(しょうとう)訓練校の、3年生教室。

鳩羽紫苑は大きくあくびをして、桃色のメッシュが入った髪をいじる。

「ふぁ〜あ……座学マジめんどいわ〜」


眼鏡をかけた同級生、吉川(きっかわ)照臣(てるおみ)が、紫苑の机までやってくる。

「鳩羽、少しは真面目にやれ。さっきも居眠りしていただろう」

「テルちゃんがマジメすぎるんだっての〜。オレは実践で輝くタイプだから、こういうのはやってられないのよぉ〜ん」


照臣は、教室の扉の向こうに目をやる。

「お望み通り、実践のようだぞ。報告という名の、な」

「げえっ!マジでぇ!?」


紫苑が立ち上がると同時に扉がガラッと開き、恰幅のいい教官・伊織(いおり)が入ってきた。


「鳩羽〜!報告の時間だ〜!」

「うわっ、出たぁ!テルちゃん分かってたっしょ!?早く教えてよーっ!」


窓から逃げようとする紫苑を、伊織はむんずと掴んで引きずり下ろす。

「逃げるな!簡単な報告だ!」

「うあぁっ!テルちゃん助けてーっ!」


ジタバタ暴れる紫苑に、照臣は宝具の入った袋を手渡す。

「ほら、お前は実践で輝くんだろう?頑張れよ」

「うわぁ〜ん!友達だと思ってたのにぃ!裏切り者ぉ!」


伊織は紫苑を担ぎ上げ、教室を出て行く。

「報告も任務のひとつ!さあ、報告報告〜!」

「オレもう報告書の作成はヤだよぉ〜っ!任務だけにしてぇ〜っ!」


喚き声が遠ざかっていくのを聞きながら、照臣は淡々と次の授業の準備を始めるのだった。


***


大窓を開けてテラスに出た後、ようやく伊織は紫苑を下ろした。

「今回は至急の報告につき、任務開始前の手順書作成は免除する」

「え、マジ?ラッキー!」


紫苑は嬉々として、宝具のフックが入った腰袋を装着する。書類の作成が面倒なのであって、任務をこなすこと自体は楽しいのだ。


「で、今度はどこに潜入すんの?」

「現在、照東支部の会議室にて管理会議が行われている。輝央(きおう)市から幹部が到着したら、そのまま本部への報告会に移行する予定だ」

「へぇ〜、身内の会議に潜入すんの?ウチのお偉いさんが怪しいワケ?」

「いいや、潜入するのは会議室じゃない。水池(みずち)総将の控え室だ」

「はぁ〜っ!?総将!?」


輝央総将、水池理人(りひと)

煌都の中心地・輝央市を20年近くも守っている、警護隊の最高戦力。

煌都で総将を知らない者はなく、その逸話も様々だ。神木否定派の過激派集団をひと睨みで降参させたとか、大剣のひと振りで10人が倒れたとか。


「オレ、総将と目が合ったら死ぬって聞いたことあるけど!」

「そんなわけあるか!総将は今、照東支部へと移動中のはずだ。報告会へ参加なさるまでに、控え室にこれをお届けしろ。もちろん、誰にも知られないようにな」


そう言って、伊織は懐から輪のようなものを取り出した。

紫苑の首に取り付け、4桁のダイヤルをカチカチと回す。


「ちょっとぉ!コレ、チャリに着けるヤツじゃん!」

「チューブの部分に、とある報告書の写しが入っている。お前が口を利けなくなっても、総将がご自分で取り出されるだろう」

「口を利けなくぅ!?やっぱ死ぬんじゃん!」


伊織は紫苑の腰袋を掴んで揺さぶる。

「宝具、よし!固定、よし!」

「あぁっ、まさか!」

「至急につき、お前をここから放出する!」

「出たぁ!それやめてってば!」


伊織は紫苑の首根っこを両手で掴み、ハンマー投げの要領でぐるんぐるんと振り回す。


「任務、始め〜っ!」

「ギャアアーッ!」

勢いよく放たれた紫苑は、訓練校の建物を越えて飛んでいき、やがて姿が見えなくなった。


***


「ひゅーっ!さすがの怪力!」

拍手をしながら、教官・近衛(このえ)がテラスに入ってきた。


「見てましたよ。相変わらず豪快な送り方ですねぇ、伊織先生!」

「ああ、近衛先生。迅速な報告のためには致し方ないことです」

「まあ、鳩羽なら大丈夫か!……そういえば伊織先生、例の黒い刃物とかいうのは鑑定が終わったんですかい?」

「ええ、すぐに報告書を確認しましたが……あれは、我々の手に余る代物かもしれません」

「ふーん……なら、隊の案件ですかねぇ」


近衛と話しながら、伊織は曇り空を見上げる。


(俺の見当違いなら良いが……どうも、悪い予感がする)


「伊織先生?どうかしました?」

「いえ……近衛先生の方はどうです?授業日数が既にギリギリの生徒は、何とかなりそうですか」

「ああ、湊ですか!あいつは意外と真面目でしたよ。目標さえ設定してやれば、ちゃんと取り組めるタイプです」

「それは良かった。お互い頑張りましょう」


近衛が去った後、伊織は懐から報告書の原本を取り出す。

灯西(とうせい)刑務所からの集団脱走事件。その逃走犯が持っていた、黒い刃物。報告書によれば、それは黒い塗料ではなく「神木の結晶と同一の構造物」であった。


(結晶の色に言及した報告書は過去にたったひとつで、それも黒色だった。そして、その報告書は若き総将が綴り、閲覧制限をかけられていた。きっと、この件はあの人に委ねた方がいい)


伊織はライターを取り出し、報告書に火をつけた。


(この情報の仔細をどこまで明るみに出すのか、それは総将が決定なさるだろう。俺が不用意に広めるべきではない。情報共有の範囲を見定めるのも、報告においては重要なことだ)


落ちた燃えかすを跡形もなく踏みにじり、伊織はテラスを後にするのだった。

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