表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
69/72

【17話(3/3)】気まずい二人

窓から差し込む朝日で、雷夏は目を覚ました。

夢を見ていた気がする。杏奈の夢だ。


(もう一回寝たら、夢の続きが見られるかしら……)


寝返りを打つと、固い肌触りの枕に違和感を覚えた。

「ん……!?」


飛び起きて、寝ているベッドを確認する。

知らない枕に、知らない掛け布団。


「えっ!?ここ、どこぉ!?」


その時、キィッとゆっくり扉が開き、眼鏡をかけた少年がこちらを覗いた。


「きゃあっ!?誰よあんた!」


反射的に枕を投げつけると、少年は驚いて大声を上げる。


「うわぁーっ!落ち着いて下さい!兄ちゃぁーんっ!お姉さんが起きたーっ!」


そう言って少年は引っ込み、代わりに若い男が現れる。


「兄ちゃんって……あんた、誰?」

「ああ、室長もですか……」


そう言って、明石は前髪を上げて見せる。

「なんだ、明石じゃないの!もう、驚かさないでよね!」

「いや、自分は何も……」

「さっきの子は?」

「弟の耀二郎です。すみません、唐突な客人に舞い上がっているようで」


雷夏は部屋を見回す。

「ってことは、あんたの家、なのよね……?」

「はい。すみません、ご自宅も分かりませんし……でも、怪しい真似はしていません!誓って!」

「別に疑ってないわよ。あたしの方こそ、迷惑かけたわね」

「お気になさらないで下さい。かなり飲んでおられましたが、具合はいかがですか」

「平気よ。今、何時?」


机の上の時計を見ると、朝の7時を指していた。


「えっ、もうこんな時間!?あたし、家に戻る時間あるかしら」

「お住まいの場所にもよりますが、ここの場所自体は研究棟からそう遠くありませんよ。北口までだと、歩いて10分程度です」

「そうなの?なら、タクシーで帰ってシャワーも浴びて行けそうね」

「では、朝食だけ召し上がって行かれますか?ちょうど支度していたところです」


***


リビングに行くと、耀二郎が飛び跳ねながらやってきた。

「ささ、お姉さん、こちらへどうぞ!」


ダイニングテーブルに着くと、彼は目玉焼きとトーストのプレートを持ってきた。

「お姉さんは、朝は和食派ですか?洋食派ですか?」

「基本食べないわ……小さいスティックパンくらい」

「ということは、洋食派ですね!なるほど、うちと気が合うなぁ!」


明石は舞い上がった様子の弟を睨む。

「耀二郎、あんまり室長を困らせるんじゃない。それに、部屋を覗くなと言っただろう」

「だって、吐いたら窒息するかもって兄ちゃんが言うから、心配になったんだよ」


明石は食べかけだった朝食を片付け、卓上のメモにペンを走らせる。

「室長、自分はシャワーと着替えを済ませてきます。ここの住所を書いておいたので、タクシーの電話をする時にご覧下さい」

「ええ、ありがとう」

「耀二郎、変なことは言うんじゃないぞ」

弟に釘を刺し、明石はリビングを出て行った。


耀二郎は向かいに座って口を真一文字に結んだまま、こちらをじっと見てくる。兄の言いつけを守っているらしい。


(食べにくいったらありゃしないわ……)


雷夏がタクシー会社に電話する間も、耀二郎はずっとこちらを見つめていた。


「……あのさぁ、あんたねぇ、喋ってもいいからそんなに見ないでくれる?」


耀二郎はパッと顔を輝かせ、堰を切ったように話し始めた。

「やった!ありがとうございます!自分は弟の明石耀二郎です!兄がいつもお世話になってます!お姉さんは兄の上司であると聞いたのですが、伺いたいことがあります!よろしいでしょうか?」

「あんた、急に喋るわね……まあいいわ、何?」

「お姉さん、ご結婚は?」

「してないけど……何?」

「じゃあ、恋人とか、気になってる殿方は?」

「殿方って……別にいないわよ。だから何?」


耀二郎はテーブルの向こうから身を乗り出してくる。


「そうしたら、うちの兄など如何でしょうか?」

「なっ!?」


唐突な言葉に、カッと顔が火照るのを感じる。

「無いわよ!あたし36よ!アラフォーなのよ!」

「年齢差など関係ありません!兄は真面目一辺倒ですが、一途で優しくて、自分はオススメです!」

「はぁ?」

「是非、ご検討下さい!自分は学校があるので、これにて失礼します!」

耀二郎はカバンを引っ掴み、勢いよく家を出て行った。


入れ替わりで、明石がリビングに戻ってきた。

何だか気まずく感じてしまう。

「耀二郎、失礼なことを言っていませんでしたか?昨夜からずっと落ち着きが無かったもので」

「ええ、まあ、大丈夫」


前髪をまだ整えていないせいで、普段とは違って見える。


(前髪があるだけで、こんなに変わるものかしら?こっちの方がずっといいじゃない……って、何考えてんのよ、あたしは!)


「えぇーいっ!」


雷夏は、明石の前髪をぐしゃっと掴んで引っ張り上げた。


「痛いっ!いきなり何をするんです!?」

「うるさいっ!こうしないと落ち着かないの!」

「分かりました、セットしますから」


なぜか怒っている彼女に戸惑いながら、明石は洗面台に立った。

(湊くんは下ろせと言い、室長は上げろと言い……皆、勝手なことを……)


***


訓練校の教室で、湊陽輝はファンクラブの3人と昼休憩を過ごしていた。


「明石くん、何だか嬉しそうだねぇ〜」

瑛心(えいしん)に言われて、耀二郎は大きく頷いた。

「ああ、分かるかい?実は昨日、兄が女の人を連れてきたんだ!」


湊は、夜の街に消えていった明石と室長を思い出す。


(明石さんが?まさか室長!?)


「耀二郎。それってもしかして、派手で気が強くて、なんかトゲトゲしい人だったりする?」

「あれ、湊くんも知っているのかい?きっとその人だよ。兄は主導権を握るようなタイプではないし、お似合いだと思わないか?」


(えぇーっ!?明石さんが?室長と?)


「自分の見立てでは、少なくとも兄の方は気があるね!今度お願いしようっと!恋愛成就!」


耀二郎はスキップしながら自分の教室に戻っていった。


***


その日の夕方。

研究室のオフィスで、雷夏は明石に書類を見せていた。


「先日のミーティングで、学会に要望書を出したでしょう?回答が届いたわ」

「ありがとうございます……ああ、やはり補助金の減額は譲れないと」

「これ、姉さんに見せたらどうなることか……想像しただけで頭が痛いわ」

「それは、昨夜飲み過ぎた影響では?」

「ちょっと、掘り返さないでよ!あたしも悪いと思ってるわよ……」


雷夏はふと、オフィスの扉から覗く視線に気づいた。

「ん?あんた、どうしたの?」


美咲を帰りの車まで見送った後、湊が戻ってきていた。

湊は扉の隙間から顔を出す。


「……なんか、二人とも距離近くないですか?」


そして、何かを察したように息を呑む。

「あっ……!やっぱりそこってデキてるんですか!?」

「やっぱりって何よ!?」


湊は二人に向かって交互に指を差す。

「ん?明石さんと室長さんが結婚したら?伯母さんの旦那?」

「だからあんたっ、おばさんって言わないのっ!」

「ま、後はお二人だけで楽しくどうぞ!」

雷夏は湊の方へカツカツと詰め寄ったが、湊はバタンと扉を閉め、逃げるように帰っていった。


残された二人の間に、ぎくしゃくした空気が漂う。


「……えぇーっと……男子って、ほんとそういうの好きよね!まあ、勝手に言わせておきましょ!」

「え、ええ、そうですよね。自分も気にしないでおきます」

「えぇーっと、何だっけ?そうそう、要望書の回答ね!どこまで見たかしら……」

「あー、確か、補助金が……あれ、見つからない……」


平静を装うように努めながらも、終始ぎこちない二人なのであった。

読んで頂きありがとうございます!

至らぬ点があればすみません。

完結まで頑張ります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ