【エピローグ】
都内には白い雪が舞い降りていた。
「急に寒くなったね」智視が屋内だというのに手袋をしたまま言う。
喫茶店「フィリップ・マーロウ」には、久々に善と智視だけだった。
季節は冬。十二月になり、街はむやみやたらと電飾で彩られて、少々落ち着きがない。クリスマスに向けて、クラス内でもぽつりぽつりカップルができている。
最近はなんとも居心地が悪くて困る。
そんなことを智視に言うと「まあ焦るなってゼンちゃん。二月には受験も終わるんだし」と言う。善は少し顔が赤くなる。
松本さんを見送ったあの日、高橋先輩とは空港を散策した。
それから何度か、善は先輩と会うことがあった。放課後に図書館で一緒に勉強したり、ちょっと喫茶店によって帰る、という程度だった。街でショッピングとか映画とか、そういうデートらしいデートは一回もしたことはない。
告白らしい告白も、まだしていない。だから二人はまだ、付き合っていない。
高橋先輩が言うには「善には待つ義務がある」のだそうで、その時はもう少しだけ先になりそうだった。
松本さんからは一通、エアメールが届いた。
ニュージーランドのホームステイ先の家族と撮った写真と、手紙が同封されていた。どうやら、楽しそうにやっているようだ。
智視にも一通届いているらしいが、中身は教えてくれなかった。
喫茶店のベルが鳴る。
「すみません、遅れちゃって」
コートや髪についた雪を払いながら、沖弓は言った。
「おー桃っち、お疲れさん」智視が手をあげる。
夏休みが明けたころから、沖弓さんは探偵サークルに入った。
動機ははっきりしていた。「リリー」である。
野球部の事故に関連してインタビューを行っていた彼女は、やはり「リリー」と何か因果関係があると考えているようだった。野球部の一塁手は不可解な発言をしているし、彼女の所属するメディア研究会のメンバーの二人も軽傷ではあるが、事故にあったのだという。
「確かめなきゃ、うかうか学校生活なんて送ってられません」
そう言う彼女を見て漆崎先輩は「一年の頃の鈴木にそっくりだな」と言った。
「さっそくですけど、うちのメンバーが面白い情報を掴んできました」沖弓は言う。「倉木が過去の事件を洗ってたんですけど、2013.12.5の本間晶の事故、目撃者がいたんです。近所に住んでるおじいちゃんで、本間さんは赤いパーカーをいつも着ていたらしく、時々見かけていたみたいで、覚えていました。それで加瀬が昨日聞き込みに――」
善と智視はぽかんとして沖弓を見ていた。
「な、なんですか? なんかわたし変ですか?」
沖弓は眉をひそめる。
「ううん、別に」善が言う。
「ただ、元気だなって」智視が笑って、ほうじ茶をすする。「桃っちって初めてあった時、正直もっとおとなしめのやつだと思ってたけど、うるさいよね」
沖弓は、智視を睨みつける。
「まあまあ、そんな悪い意味じゃない」善が代わりに弁解する。
「じゃあどう言う意味なんですか? 荻原先輩」
「うーん、なんて言うんだろうな」
智視が引き取る。「とりあえず桃っちさ、いろいろ愚痴ってる割には、メディア研究会のやつらのこと好きだろ? ツンデレ?」
「嫌いですよ? あんなオタク共」沖弓は真顔で言う。
「でも、頼りにしてるでしょ? 倉木くんのことも、加瀬くんのことも」
「――まあ、多少は」
さくさくと答えながら、沖弓はノートパソコンを開き始める。そしてため息をついている。
「いいですよね。先輩方は何だか学校生活が充実している感じで。智視先輩は自分持ってるって感じだし、荻原先輩は受験待ちで付き合うの確定だし」
「別にまだ決まってない」善は訂正を入れる。
「桃っちだって充実してるでしょ?」智視が言う。
「わたしがですか?」沖弓はきょとんとして聞き返した。
智視は腕を組んだ。「うん、なんていうか。ね? ゼンちゃん」
善は沖弓を観察した。じろじろ見ないでくださいと怒られた。
「すまんすまん、でも確かに最近は『キラキラ』してる」
「そうそう! 桃っち煌めいてるよ」
その時、彼女は不思議な表情になった。
真顔になったかと思うと、しばらくして少し寂しそうに眉を歪めていた。
その目は、善でも智視でもない、テーブルの片隅を見つめている。
数秒、沈黙があった。なんとなく、壊してはいけない気がする沈黙だった。
それは善も智視も、なんならマスターも多分、そう感じていた。
そして沖弓は小さく笑って「うん、さようなら」と言った。
「ん? どした? 桃っち」
「いや、なんでもありません! さ、報告の続きです。先輩方ちゃんとメモとってくださいよ!」
善は、沖弓の瞳にちらりと光るものを見た。
これにて完結となります。
お読みいただきまして、ありがとうございました。
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【自作予告】
◆そのまま私に銃口を向けて、引き金をひいてください! -不死身の魔女と魔導銃-
ナイフに刺され、銃に撃たれ、毒薬を飲み、魔法で切り刻まれ――
殺されたい願望をあの手この手で叶えようする頭のおかしい魔導師、スズ・ラングハイム。
彼女は五百年前。召喚術師によりユールテミアに転生した不死身の魔女だった。
時を経て、同じくユールテミアに召喚され「魔導銃師」として軍に属していたテオ・ザイフリートは、火属性による最高出力魔導銃「ノヴァ」を愛用していた。彼に出会ったスズは……
「そのまま私に銃口を向けて、引き金をひいてください!」
当然そんなことをすぐに引き受けることができないテオ。
その後、行動を共にすることになったスズとテオの、異世界ファンタジー軍記。
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というわけでずっと描いてみたかった異世界転生ジャンルに飛び込みます。
興味を持ってくださったら、ぜひお読みいただけたらと思います!
よろしくお願いいたします!




