静かな夜
地裏ムカサは、夜のお勤めにいそしんでいた。
何もいやらしいことではない。
毎日の日課として、自らが仕える魔王レビュアータに祈りを捧げながら、背中に鞭を打つのだ。
いつものように鞭を打ち、月衣で守られた肉体にも抵抗しきれない傷がつき、皮膚が裂け、肉を割り、血がしたたる。
いつもの状況だ。
だが、今回は違った。
魔王レビュアータをイメージした大蛇と地球の像は、相変わらず静かにたたずんでいる。
何も変わりはない。
変わる要素はない。
何も聞こえない。
いつもの通りだ。
ただ、ムカサの勘違いかもしれない。
だが、ムカサは違和感を覚えた。
夜、祈りとともに自らの肉体を傷つけ、魔王レビュアータの存在を感じ、眠りにつく。
この日ばかりは、魔王の気配を一切感じることができなかった。
魔王がただ、目覚めるだけで、世界が滅びると言われるレビュアータである。深い眠りについたままであれば、その方がいいのだろう。
だが、ムカサはただ魔王が眠っているだけだとは思えなかった。
あるいは、ムカサが魔王の存在を感じ取れなくなってしまったのだろうか。
ムカサの行為が魔王の不興を買い、魔王に見捨てられてしまったのだろうか。
ただの勘違いかもしれない。
魔王の存在を、気配だけで判断するのがそもそも間違いなのかもしれない。
ムカサはいつもと同じに肉体をいじめ、違和感に手を止めた。
少し考え、再開する。
結局、大量の血で部屋を汚すことになって、ムカサは茫然とした。
これほどの血を流してなお、魔王レビュアータの気配すら感じられない。
ムカサは、ウィザードの力を失ったのではないかと疑った。
全身の龍脈を操り、背中の傷を塞ぐ。
簡単に血が止まった。
ムカサは戸惑った。
考えた。
結果として、寝た。
諦めたのだ。
ムカサは横になった。
寝る時は、つねにうつ伏せである。
眠ろうとした。眠ろうと努力しながら、いつか見た、魔王レビュアータの、この世界での姿を思いだした。
寝巻を着た女子大生といった出で立ちだった。
可愛かった。
ムカサの血をすすり、ムカサを瀕死にまで追いやったが、後悔はなかった。
同時刻に、東京を巨大地震が襲っていたが、ムカサはその関連までは考えなかった。
いったい、何が起こっているのだろうか。
何もわからないまま、ムカサは眠りに落ちた。




