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ナイトウィザード 二次創作  作者: 西玉
赤の乗り手と蛇の信者
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囚われのウィザード

 地裏ムカサは囚われていた。

 輝明学園に戻るつもりだった。

 学園の敷居を跨いだ瞬間から、上下の感覚を失った。

 自分の体でありながら、体の感覚がしない。

 体内の龍脈を操る龍使いであるムカサとしては、あり得ない事象だ。

 侵魔が開く裏界に、再び巻き込まれたのではないかと感じた。

 だが、より強い力に飲み込まれたのではないだろうか。

 体が動かないのか、動かしても感覚がないのか、それすらも解らない。

 目を開いても、何も見えなかった。

 明りが存在していないのだろうか。

 真の闇で、人間の目は役に立たない。

 夜行性の動物ですら何も見えないような暗がりで、ムカサはただじっとしていた。

 体の感覚が戻らなければ、何もできないのだ。

 いつもの感覚に、神経を向ける。

 いつもの感覚が戻ってくるかどうか、というと全くわからない。

 ひょっとして、そばに呪香ミツコがいるかもしれないが、こちらは見られないままのほうがいい。特に、暗闇から突然出てこられると気分がよくない。

 

 時間の経過は体感ではわからなかった。肉体が存在しているという自覚もない。

 肉体の操作にもっともすぐれる龍使いに対して、これほど強固な感覚の制限を行えるのは、並大抵の相手ではない。

 少なくとも、魔王クラスだと考えていいだろう。

 ひたすら暗い世界で、前方に、赤い輝きが灯った。

 それは小さくとも力強い輝きだったが、周囲には何も映らなかった。

 周囲に、光を反射させるものが存在していないのだろうと感じた。

 赤い輝きが、ゆらゆらと揺れながら、縦に長く伸びた。

 人の形をとろうとしているとは、ムカサの勝手な解釈である。

 赤い輝きが近づいてくる。

 確かに、人の形に近づいていることをムカサは理解した。

 その姿はゆらゆらと揺れ、明確に、人となった。

 ただし、人間ではないだろう。

 炎の中から現れた、輝ける存在は、女の姿をしていた。

 古めかしい武具を身に着けた姿で、ムカサの前に立った。

 女のかたちをした何かに照らされ、ムカサは自分の肉体がまだ存在しているという事実のみを理解した。

「……誰だ?」

「赤の乗り手、そう呼ばれている」

「知らないな」

「そうだろう。人間たちの記録には、私は登場しないからな」

「……ウィザードの記録にもか?」

「そうだ」

 女の姿をしたものは、自らが記録されていないと言った。記録されるべき存在だと主張しているにも等しい。少なくとも、本人はそう思っているはずだ。

「俺に用が?」

「お前には用はない。だが……少し興味を持った。私の手ごまとなれ」

「断る」

「死ぬ方がいいか?」

 おそらく、女の姿に見える『赤の乗り手』は、簡単にムカサを殺せる。

「好きにしろ」

 簡単に殺されるかもしれない。だが、ムカサは折れなかった。生命を諦めることより、ウィザードとしての誇りを守る。その思いがもっとも強いのが龍使いだ。

 ムカサの前に立ち、『赤の乗り手』はムカサを見降ろした。

 視線が交差する。

「助けを呼ばないのか?」

「俺を助けようという物好きなどいない」

 ムカサの頬が殴られた。『赤の乗り手』は、容赦ない一撃をムカサに浴びせた。

 月衣かぐやに守られ、物理的衝撃は及ばないはずのムカサの顔が衝撃に歪む。

 ただの拳ではないのだろう。ムカサは睨み返した。

 さらに殴られる。

 顔だけでなく、腹も、腕も、足も、首も殴られる。

 ムカサは折れなかった。

「ふん。つまらん」

 無表情のままムカサを殴り続け、『赤の乗り手』は背を向けた。


******************


 現実に、ムカサは戻っていた。

 辺りは暗い。

 だが、路上だ。

 どこにいるのか、理解できるまで時間がかかった。

 輝明学園が面した道路上に、ムカサはいた。

 ライトで照らされる。

 車だ。ムカサは車を避けようとして、足元を取られた。

 ミツコが転がっている。

 ムカサはミツコを抱き上げ、路肩に飛んだ。

 車が通り過ぎる。

 少し行って、止まった。

 白いセダンだった。運転席から降りたのは、黒瀬エリッサだった。今日赴任してきたばかりの、ムカサのクラスの担任教師である。

「まさか……地裏ムカサか?」

「黒瀬エリッサ」

「呼び捨てにするな」

 すらりとした男装の美女である。髪は黒いが、肌は日本人離れして白い。黒い瞳とほりの深い顔立ちのコントラストが印象的だ。

「今日は何日だ?」

 呪香ミツコの意識は戻っていない。意識を失ったのがいつなのかはわからない。『赤の乗り手』にさらわれた場所では、どこにいるかもわからなかった。

 黒瀬エリッサから答えが返された。黒瀬が赴任してきた当日に間違いはない。さらわれたまま、数日が経過したということではなさそうだ。

「遅いお帰りですね。残業ですか?」

「ああ。担当の生徒が行方不明で、帰るに帰れなかったのだ」

 まあ、当然だろう。これが小学生だったら、黒瀬は学校に寝泊まりすることになったかもしれないが、ムカサもミツコも高校生である。そこまでの徹底した管理はされていない。ウィザードであることは、世間的には関係のないことだ。

「では、俺たちはどうすればいいですか? 警察は?」

「動いていない。私の責任で処理することになっているよ。ウィザードだしな」

「それは助かります。ミツコを送ってもらえますか? 住所は、学生証を探してください。俺が探したとなると、後々面倒くさいことになりそうですから」

「ああ。ミツコくんのことは任せておけ。家も知っている。ここに赴任する前に調査済みだ」

「……すべての生徒の情報を?」

「まさか。君とミツコくんだけだ」

 ムカサは、意識を失ったままのミツコを黒瀬に渡した。


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