奥の部屋へ
地裏ムカサは、生身のまま四緑カオリの精神の中にいた。
ムカサの前には、見たことのある家があった。
呪いの家と呼ばれていた。
いまさら、驚きも恐れもない。
だが、カオリの精神に入り、真っ先に遭遇したのが呪いの家というだけで、どれだけ濃く影響されているのか、うかがい知ることができる。
ムカサはもう一度、自分の体内に意識を集中した。龍脈を全身にめぐらせる。レビュアータの毒が抜けきってはいない。だが、それゆえに、カオリに巣食うものから守られているのだろう。
足に力を込めた。足元は地面というわけではないだろう。何かは考えなかった。足の下にある何かを蹴り、呪いの家に向かって飛んだ。
龍脈を操り、すべての力を込めて、家そのものに拳を突き立てた。
呪いの家は歪み、霧散した。
精神の世界だ。物理法則すら意識する必要もない。
ムカサは、飛べると信じた。
呪いの家が霧散したばかりの正面の空間に、頭から飛び込んだ。
短時間にすさまじい距離を移動したような感覚があったが、精神の世界では距離すら意味はない。地面と思われる場所に足をつけ、ムカサは普通に歩くことにした。
幼い頃のカオリと思われる、小さな少女と出会った。
幸せそうな顔はしていなかった。
子供らしいあどけなさのない、ただ体の小さな女の子だった。
様々な年齢のカオリが行きかっていた。
どのカオリも、楽しそうには見えなかった。
喫茶店での明るい態度が、かりそめのものだとしか思えない。
カオリ自身の姿が成長するほど、苦しみ、悲しむ姿が克明に焼き付くようになった。
ムカサは多くのカオリと出会いながらも、歩を緩めずに進み続けた。
行きついた先には、巨大な鋼鉄の扉があった。
精神の中で距離は意味がない。
ムカサの前に出現した扉は、カオリが決して人に見せたくない部分であることを示している。扉の出現が、カオリの意思かカオリの中に侵入した何者かの意図かはわからない。だが、いずれにしてもムカサはためらわなかった。ウィザードのカオリが抵抗できずにいる相手なら、精神のもっとも深い部分に侵入していると想像できたからだ。
扉は重かった。物質の質量ではない。扉の重さはカオリの気持ちの重さだ。
「カオリさん、いま行きます。ミツコ! そこにいるなら協力しろ!」
ムカサの呼びかけがどう反応したのか、扉はゆっくりと開いた。
四緑カオリと、呪香ミツコがそこにいた。




