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ナイトウィザード 二次創作  作者: 西玉
呪いの家
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精神の中へ

 地裏ムカサは、四緑カオリを組み伏せていた。正確には、四緑カオリの姿をした何者かだ。

 肉体はカオリのものだろう。姿の変異は一時的なもので、ムカサの下でカオリはごく普通の人間のように身もだえていた。

「地裏、カオリさんを放せ」

 ムカサの肩に、犬神ヤシャの手が置かれる。ムカサは、犬神に事情を詳しく説明する時間がなかったことを悔いた。カオリを開放しなければ、犬神がムカサを攻撃し始めるのは時間の問題だ。

 カオリを押さえつけていた手を放す。ムカサはたちあがる。カオリは、床の上で上半身だけを起こし、陰陽師の正装の乱れを直した。その所作は、昨日のカオリと何ら変わるところがなかった。

「地裏、何の真似だ?」

 犬神の問いに答える余裕は、ムカサにはなかった。犬神はムカサの前に出ようとしていた。ムカサは腕で犬神を制しながら、カオリに尋ねた。

「カオリさん、まだ、そこにいますか?」

「当たり前だ」

「当然じゃない」

 犬神とカオリの返事が重なった。ムカサは、カオリの一言で、カオリの中身が入れ替わったと感じた。カオリの所作になんら疑うところはない。だが、魔王へと覚醒しつつある存在に対して有効な結界を張るほどの術者が、何もなかったかのようにふるまうこと自体が不自然だ。

 カオリに攻撃をすることは、背後の犬神が許さないだろう。ムカサは自分の服を破った。服を破り、指を首筋に這わせた。傷口がまだ深く残っている。昨晩、蛇の魔王に体内深く毒を注ぎ込まれた傷だった。

 二つの丸い傷を、指先で抉る。血がほとばしった。

「ただの血です。ちょっと寝返りをうつだけで、この東京を巨大な地震で破壊しそうになる、魔王の力が宿っているわけじゃない。ただし、少しばかり、毒が混ざっています」

 血に濡れた指先を、ムカサはカオリに向けた。カオリが震えるのがわかった。

「辞めろ」

 かすれた声で、カオリが拒否した。

「地裏、辞めろ」

「犬神先生、ほんの少しだけ、時間を下さい」

 ムカサは背後の教師を見もしなかった。

「なに?」

 犬神が戸惑った瞬間、ムカサは踏みだしていた。指先を、カオリの額に近づける。効果があるかどうかはわからない。だから、ムカサは押し付けなかった。近づけただけで止めた。

「辞めろ! その汚らわしい魔王の毒を近づけるな!」

 カオリの肉体は、飛び退り怒号した。顔が崩れていた。カオリの顔が歪み、ムカサが昨日遭遇した、女の顔があった。その顔の女が実在したとは、今となっては思えなかった。世界結界の垢は、大量のプラーナを持つイノセントの影響で、無意識に顔を持つようになったのだろう。たまたま、女に見える形に落ち着いたのに違いない。

「カオリさん?」

 犬神の戸惑った声を無視して、ムカサは叫んだ。

「カオリさん! まだそこにいるなら、抵抗して!」

「……辞めろ……邪魔を……するな」

 カオリの肉体が膝をつく。両手が、自分の首を絞める。

「地裏、何が起きている?」

「カオリさんは、まだ体の中にいるということです。まだ、助けられるかもしれない。体を乗っ取られれば、おそらく魔王として覚醒するでしょう」

「カオリさんがか?」

「カオリさんの体を借りて、カオリさんに侵入した何者かが魔王となるということです」

 ムカサは再び距離を詰めた。犬神は追ってこなかった。カオリの体も逃げなかった。ムカサはカオリを押さえつけた。カオリの姿をしたものは、変異しつつあった。肉体の中で、カオリが戦っているのだ。

「どうすればいい?」

 相変わらず、犬神は事情を理解できていないようだった。

「カオリさんの中から、追いだすんです」

「できるのか?」

「わかりません。やったことがありませんから」

 実際に、どうすればいいのか見当もつかない。このまま、カオリの肉体に致命傷を与えるしかないのだろうか。カオリの首に手をかけ、絞めるべきかどうか悩んでいると、犬神の焦る声が聞こえた。

「くそっ……オオカミの力は使えないし、カオリさんを救わなきゃならないのに……夢使いの力なんて、何の役に立つんだ」

「『夢使い』? 誰ですか?」

 夢使いと呼ばれる者は、他人の夢に干渉し、精神に入りこむことができるという。ウィザードでも珍しい能力で、使い方次第でとても強力な武器となりうるが、相手によっては全く役に立たないことも珍しくない。

「俺だが?」

 犬神は焦ったような表情のまま、本人の顔を指さした。

「相手はウィルスじゃないんです。入り込んでいるとすれば、カオリさんの精神です」

「……どういうことだ?」

 あまり夢使いの力をつかわないのだろう。犬神はまじめに問い返した。

「カオリさんの精神に入って、侵入者を叩きだせばいいってことですよ!」

「しかし……術者自身は入れないぞ」

「俺が行きます」

 一瞬だけ心配そうな顔をした犬神は、小さく頷いた。


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