龍使いと人狼2
白い粉を叩き落としながら、地裏ムカサは犬神ヤシャとともに地下室への階段へ避難した。白い粉から逃れるために、もっとも有効だと思われたためだ。
「この先にカオリさんが……そうですか。それより、先生どうしたんですか? 裏界の中だというのに、人間の姿で。先生は人狼でしょう」
ムカサは当然のように地下室を降りた。地下室への階段は喫茶店とはちがい、四緑カオリの居住スペースだと聞かされたばかりだ。他人の家に入るのに迷いがないわけではない。だが、現在が非常時であることはよく承知している。
「力が出ない。そうでなければ、消火器を武器として使ったりはしない。おそらく、いま侵魔に襲われたらひとたまりもないだろう。ムカサは平気なのか?」
「この裏界を作った奴が、侵魔を放つことはないでしょう。たまたま通りかかった侵魔が入りこむ可能性もあるでしょうが、そんな確率はほとんどない」
ムカサは犬神の言葉から、魔王レビュアータの言葉を思いだした。より強いプラーナを求め、ウィザードをまるで餌のように求める恐るべき相手だ。犬神は力を吸収されているのだろう。ムカサは無意識に自分の首に手を伸ばしていた。指先で傷に触れる。魔王が残した、傷と体内の毒は、いまもムカサを守っている。
「待て、地裏、何を知っているんだ?」
「おそらく、相手の正体です。ある方が教えてくれました」
肩に犬神の手がかかり、その力の強さに無視しない方が賢明だと判断した。立ち止まり、振り返った。階段の途中であり、仰ぎ見る形になる。
「『相手』とは、呪いの家にかかわる奴か?」
「おそらく、そうでしょうね。呪いの家という呼び方が正しいかどうかはわかりませんが」
「カオリさんに手を出そうとしている」
ムカサは驚かなかった。ウィザードを狙っているのだ。四緑カオリが狙われても不思議はない。犬神が階段を降りようとした。だが、今度はムカサが犬神の動きを止めた。
「ミツコがさらわれました」
「呪香が?」
犬神は驚いた顔をした。犬神が何に対して驚いたのか、ムカサにはわからなかった。呪香ミツコのことを、それだけ高く評価していたのだろうか。
「呪香をさらいたい奴がいるのか?」
「教師のことばとは思えません」
「悪かった」
反省する犬神を無視して、ムカサは階段を降りた。行き止まりにやはり扉があり、扉は開いていた。
ムカサは部屋を覗き込んだ。
そこに四緑カオリの姿はなく、地下室は黒い渦に飲み込まれようとしていた。




