龍使いと人狼
道順は覚えていないが、地裏ムカサは呪いの家を飛び出し、輝明学園前に戻ってきていた。地震のため休校になっているのにも関わらず、自宅より学園に戻ってきたのは、ムカサ自身が気づかないうちに、解決の糸口を求めた結果だろう。
学園の前で、ムカサは足を止めた。学園に背を向けていた。向き合う先には、花屋と喫茶店を併設した『五芒の月』があった。
時刻は昼を回り、開店しているはずの時間なのに、営業中の札が出ていない。
何より、建物が裏界に覆われている。
魔王レビュアータの言う通り、世界結界から生じた垢のような存在が、魔王として目覚めつつあるのかもしれない。あるいは、呪いの家とは全く関係がないかもしれない。だが、行方不明の三人も、昨日の呪香ミツコもこの店から始まっている。四緑カオリのことは疑っていなかったが、この店と無関係とは思えなかった。
ムカサは喫茶店に、つまり裏界に乗り込んだ。
喫茶店『五芒の月』の店内はきれいに片付いていた。テーブルの上にはなぜか、食べかけのトーストと卵料理とコーヒーが冷えていた。
誰かが食事をして、ろくに食べもせずに移動したのだろうか。
すでに裏界の中である。どこから侵魔が現れるかわからない。毒により守られているといっても、肉体が最大の武器であるムカサにとって、今の状態は好ましいとはいえない。慎重に歩を進める。
カウンターの向こうに、見たことのない扉があった。普段からあるのかもしれないが、開いているのは初めて見た。
地下室だと、直感した。
足を向けた。
カウンターから、白い粉が放出された。
背後に跳躍すると、白い粉を追うようにカウンターを飛び越える影がいることを見て取った。
ビン状の物を振り下ろそうとしている。ムカサは足でしっかりと床を掴み、振り下ろされた物を片手の平で受けとめ、開いた手を前につきだした。
影が転倒する。自らが撒いた白い粉に足をとられたようだ。
馬乗りになり、喉を絞める。
「ま、待て、ムカサか?」
「犬神先生?」
白い粉は消火剤だった。しばらく巻き上がり、視界を白く染め続けた。ムカサは白く染まりながら、同じように白くなった教師、犬神ヤシャを助け起こした。




