失われたもの
地裏ムカサは廃墟に居た。呪いの家と呼ばれる半ば都市伝説となっていた家に招かれ、そこに巣食う何者かと対峙していたはずだったが、いまはただの廃墟と化していた。
体調は良くなかった。全身がしびれている。魔王レビュアータから賜った毒の効果であり、呪いの家から受ける影響を遮断してくれたのも、同じく毒によるものだろう。
ムカサは体内の龍脈を操る龍使いである。体内をめぐる毒を中和しつつ、全身に毒をいきわたらせる。毒の効果が切れて、再び呪いの家の影響を受けるよりは、毒で体が動かない方がましだと思ったのだ。
もう何年も手入れがされていないような、明らかな廃墟だった。ムカサは部屋を出ると、入ってきた時には見事なフローリングだったはずの廊下が、穴だらけの朽ちた板敷になっていた。あるいは、初めからそうだったのに、ムカサが気づかなかったのだろうか。
ムカサは廊下を進み、二階への階段にたどり着いた。手すりには頼らない方がよさそうだ。慎重に登らないと、階段を踏みぬくかもしれない。同級生の呪香ミツコは迷わず登っていった。二階を見ると、天井も崩れている。昨日ミツコが崩したものかもしれない。これだけの廃墟なら、何もしなくても天井が崩れたとしても不思議はない。そう思わせるだけの荒れ方だった。
「ミツコ! 無事か?」
二階に上ること自体を不安に感じ、ムカサは声をかけた。呪いの家が廃墟に変わったのは、巣食っていたものの力が及ばなくなったためだと感じていたムカサは、ミツコにとってもただの廃墟に戻ったのだと信じていた。突然廃墟になって、驚いているのかもしれない。魔王の力に頼ったことを、不満に思うかもしれない。ムカサはそう想像していた。
だが、答えは返ってこなかった。
ムカサはもう一度声を上げ、ただ廃墟に自らの声がこだました。
意を決し、ムカサは階段を上った。
二階に到達し、一階よりもさらに朽ちた廊下と、穴の開いた壁を見つめた。
天井は崩れ、部屋には扉すらついていなかった。扉の残骸が転がっているだけだ。
「ミツコ? どこだ?」
答えはない。
いつもの不景気な声が帰ってくるものだと信じていた。
――失われた?
隣のクラスの三人と同じように。
ムカサは走った。呪いの家を飛び出し、目的地も考えず、夢中になって走った。
毒で体が重い。構わずに、走り続けた。




